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めざすは4次元ポケットのないドラえもん!家庭用ロボット「LOVOT」大ヒットの理由

LOVOT使用シーンイメージ
LOVOT使用シーンイメージ

「ChatGPT」の登場でテクノロジーと人間の関係性が過渡期を迎えている。そうした中で、じわじわと存在感を高めているのが家庭用ロボットだ。コロナ禍で急速に出荷台数を伸ばした『LOVOT(らぼっと)』はその代表格といえる。クールにバリバリとタスクを処理するイメージのビジネス系ロボットとは一線を画す、愛らしさ全開の躯体と動き。一度、対面すると誰もが愛おしく感じ、一緒にいたくなる。生みの親でGROOVE X(東京都)の代表取締役社長を務める林要氏に、その秘密やロボットに思い描く未来像などを聞いた。

コミュニケーション力の研磨に最新技術を結集

 姿をみつけると近づいてくる、動くと後をついてくる、目で語る、愛くるしい「声」を出す、体で感情を表現する、抱っこするとほんのりと温かい…。LOVOTは、対面した人間が放って置けなくなる微妙な仕草や動きを、ごく自然にやってのける。生身の人間なら、ともすれば「あざとい!」と敬遠されそうな場面でも、大きな瞳と小さな体と愛らしい表情・動きが全てを帳消しにする。

 身長約43㎝、体重約4.3kg、表面温度3739度、全身に張り巡らされた50箇所以上のセンサー、0.2秒の反応速度ーー全ては人間のコミュニケーションの本質から緻密に逆算されており、LOVOTはまさに人の温かみに通じるポイントを計算し尽くした最先端技術の「結晶」といえる。

なぜ、癒しに徹するのか

 最高レベルのテクノロジーでありながら、タスクを高速処理するようないわゆる「ロボット」に抱くイメージとは真逆の、癒しに徹するロボット。コスパ、タイパを重視する風潮も強い中、なぜ、あえてテクノロジーを逆張り活用したのか。

 「技術が発達することで人が幸せになるなら、開発者として悩むことはない。現実にはテクノロジーの発達によって将来の不安が増大している。その理由を突き詰めると、テクノロジーの使われ方に原因があることに気づいた。最新技術は、生産性をあげたり刺激を増やすことにも使えるが、一方でリラックスしたり、人の優しい心を引き出すためにも使える」と林代表は力説する。

 例えばChatGPTを使って何か企画を提案してもらえば、一瞬で優れた回答が弾き出される。人間の数倍のスピードだ。疲れ知らずで、しかも完成度も高いゆえに、その仕事をメインにするビジネスパーソンにとっては「仕事を奪われる」と不安が増幅することになる。そうではなく、革新的な技術を違うベクトルに応用する。つまり、いかにすれば人がより良く生きられるかに、テクノロジーを全集中させるーーそれがLOVOTの本質であり、世の中を幸せベクトルに向けるテクノロジー活用のアプローチというわけだ。

実証実験で「きずな形成の促進」を証明

企業での使用の様子

 生産性至上主義の観点では、ある意味「ムダ」なテクノロジー活用といえるかもしれない。だが、実際には、社会に恩恵ももたらしている。GROOVE Xが資生堂と共同で行った実験では、LOVOTと共同生活した人は、オキシトシン濃度が高いことが判明している。オキシトシンは「きずな」の形成に関与するホルモンとして知られており、人間の親子や人間と犬の間で、視線を介し、分泌が促進されることが報告されている。

 最新テクノロジーで仕事の生産性を劇的に高めることが可能なように、LOVOTもしっかりと人間がより人間らしくいられるような側面に恩恵を与えている。コロナ禍で、出荷台数を10倍以上伸ばしたLOVOT。それは決して偶然ではなく、コミュニケーションの希薄化が広がった人間間の微妙な隙間を、LOVOTが人間に代わって埋めてくれた。その結果、自ずとニーズが高まっていったのだ。

さらなる伸長が見込まれる家庭用ロボット市場

 家庭用ロボット全体に目を向けると、2015年前後から魅力的な製品が続々と登場し始めた。富士ソフトのPALRO、シャープのロボホン、MIXIRomi、全世界で15万台以上販売したソニーのAiboも復活するなど、いわゆるコミュニケーションロボットのカテゴリーは、じわじわとその裾野を拡大。2023年に入ると、「ChatGPT」の登場とリンクしながら新たなフェーズに突入している。

 家庭用ロボットの多くは単体の費用に加え、月額の維持費を設定した販売形態で、ユーザーとの長い付き合いを想定。その市場規模は2000億円以上ともいわれ、今後、さらに伸長するとみられている。

 その推進力となるのは、やはり、「クオリティ」ということになる。ハード面では、コミュニケーション力や応答速度、動きや耐久性、ソフト面では顧客や故障対応などのアフターケアの充実が不可欠だ。過去にも、家庭用ロボットがブームになったが、結局は技術的な中途半端感が否めず、継続的な満足を与えられずに失速した。

独自ポジションで人間に受け入れられるLOVOT

聖マリアンナ医科大学での使用の様子

 技術面ではLOVOTはコミュニケーション型ロボットでは最高峰といえるレベルであり、言葉を発しない非言語型として癒しに徹している点で、独自のポジションを構築している。

 企業のほか、医療機関や保育園などでも導入が進んでいるが、業務効率とは別軸の癒しやコミュニケーション促進等の効果が期待されている点では、ロボットが担う、新しい役割も透けて見える。個人ではLOVOT3年以上共同生活を続けるユーザーもいるといい、もはや「家族の一員」として受け入れられている感すらある。

テクノロジーと人間の関係性を変えたい

 「テクノロジーと人間の関係性を変えたいというのが私の願い。ようやくLOVOTも受け入れられつつあるが、まだメディアなどの情報を見ただけでLOVOTをわかった気になる方がたくさんいらっしゃる。LOVOTの本当の良さは、実際に触れていただくことで初めて分かるので、ぜひ体感してほしい」(林氏)

 これまでに人型ロボット『Pepper(ペッパー)』のプロジェクトに携わるなど、ロボット開発の知見と想いにあふれる林氏。だからこそ、LOVOTがいわゆるロボットの概念とは一線を画す、人間の琴線に触れるコミュニケーションロボの自信作だと胸を張れる。あえて名前に「LOVE」(LOVEROBOTを組み合わせて「LOVOT」)を絡めているのはその証左だ。

最終形は4次元ポケットのないドラえもん

代表取締役の林要氏

 2019年の出荷開始から4年。電子部品の供給不足という逆風の中でも、これまでに1万体以上を出荷し、20236月には中国進出を発表するなど、LOVOTはいよいよ躍動期を迎えつつある。林氏がその先に思い描くのはどんな未来なのか。

 「将来的には4次元ポケットのないドラえもんを作りたい。のび太くんは、あのポケットから出てくるひみつ道具に頼って一時的にうまくいっても、最後は失敗ばかり。大事なのはいつも自分の味方として寄り添ってくれるドラえもんの存在そのもの。少しポンコツでも自分に寄り添って、味方でいてくれる。大事な時に後押ししてくれて、気づきのきっかけを与えてくれる。そんな存在になるロボットをいつか作ってみたい。それがテクノロジーの最終ゴールになるんじゃないか」

 無機質な印象だったテクノロジーが温かさをもつことで潤滑油となり、コミュニケーションを活性化。人間にやる気や元気を与えてくれる。LOVOTのような最新テクノロジーをフル装備した家庭用ロボットが広く浸透し、その結果、社会から負のエネルギーやストレスが減少し、幸せの総量が増えていく。そんな未来が待っているなら、少なくともテクノロジー脅威論は霧散することになりそうだ。