将来の成長には「顧客と直接つながる」こと、そのために「社内改革」も
「顧客価値の最大化」や「顧客体験の創造」をキーワードに、小売業にデジタルトランスフォーメーション(DX)化の波が押し寄せている。そうした顧客の変化や小売業のデジタル変革にどう対応していくかが消費財メーカーの課題だ。セールスフォース・ドットコムはこのほど、19年2月に実施した世界の消費財メーカーのリーダー500人へのアンケート調査を基に「消費財分野の情勢および進化の求められるB2BとB2Cの関係」と題するレポートをまとめた。アンケートを通じ、消費財メーカーのリーダーの多くが消費者へのアプローチを強化するためにデジタル化によるB2B、B2Cの変革が不可欠と考えている現状が浮き彫りになった。
Amazonが顧客の期待値を引き上げる
今回、セールスフォース・ドットコムが実施した調査は、北米の消費財メーカーのリーダー250人のほか、欧州150人、日本50人、オセアニア50人を対象にヒアリングを行った。企業の規模による内訳は年間売上2億5000万ドル以上が36%、2億5000万~10憶ドル未満43%、10憶ドル以上が22%。役職別ではCEOなど経営トップクラスが20%、バイスプレジデントなど経営幹部が30%、マネージャークラス50%となっている。
小売市場を大きく変化させたのが、Amazonの台頭ということは大方の意見が一致するところだ。消費財メーカーのリーダーの61%が、リピート購入と配送に関して「従来の小売業者をAmazonが駆逐しつつある」と感じ、68%は「消費者は個々のブランドよりもAmazonのマーケットプレイスを選択する傾向が強い」と回答した。しかも「消費者の期待への対応に関して、求められるレベルをAmazonが引き上げている」とするリーダーは79%にも達している。Amazonが顧客の要求に的確に対応していることで、顧客や市場自体が変化していることは理解している。
その一方で、顧客の変化に対応して「新たな商品やカテゴリを開発する」ことなど変化に迅速に対応できている企業は49%と少ないのが実情だ。イノベーションを起こしている、メーカーは、もちろんあるがそれは一握りに過ぎない。
B2C、D2Cの強化・拡充が将来的な成長のカギとなる
消費財メーカーが売上を伸ばすうえで欠かせないのが、小売業との関係性の拡充だ。アンケートでは「在庫の可視性」と「分析にもとづく対策の実施」に満足しているリーダーはともに55%、「新規SKUへのアップセル」に関しては38%と満足度は高くない。
そして消費者は常に新しい商品を求めているものの、消費財メーカーとして「小売業者から顧客に関して得られる知見を活用する能力」に満足している企業は43%と低い数字にとどまる。間接的なチャネルから得られるデータへの信頼は、それほど高くないわけだ。
こうした小売業との関係性の中で、消費財メーカーが「障壁」として考える課題は、「閉店、売価に関する圧力」と回答した企業が42%、「プライベートブランド商品がビジネス上の脅威」は49%に達している。
商品陳列や売価などで力を持つ小売業は、消費財メーカーにとっては関係性の改善が重要なテーマである。しかし既存の商習慣や付き合いの中で、それを劇的に変化させるのは難しい。そこから一歩抜け出すためにも、B2Cを成長のチャンスと考えることも重要だ。
アンケートではB2C、直販(D2C)への投資を優先事項と考えているリーダーは99%に上る。誰もがECを利用する中で、D2Cによる売上高への貢献は非常に大きくなっている。調査では米国のオンライン市場は5%に過ぎないものの、売上増大要因の40%を占める。そのためD2C専用の商品開発などを手掛ける大手企業が少なくない
顧客と直接つながるためには社内に障壁が存在
しかしD2Cへの参入が成功につながるわけではない。D2Cに反応する消費者が不可欠。消費者は商品にもサービスにも期待以上を望むのが常。D2Cには、よりシームレスな購買体験を期待する。
しかし、これまで直接に消費者とつながっていない消費財メーカーにとって、“文化を変革する”くらいの社内改革が必要になる場合もある。「顧客との直接の関係構築を阻む障壁の範囲」に関する調査では、「きわめて大きな障壁、重大な課題」として挙げられたのは「顧客が寄せる期待の上昇」(27%)、「小売業者から得られる顧客データの不足」(25%)、「データから知見や実践可能な情報を得ることの難しさ」(24%)、「共同作業や効率的なデータ交換を進めようとしない部署間の縦割り意識」(24%)、「社内に存在する異種システム」(20%)など。これらを解決しなければ、D2Cでの成功は覚束ない。
未来に向けて消費財メーカーには進化が求められている。デジタルでの顧客サービスの向上やサポートに投資する計画を持つ企業は80%超と多い。その一方で電話やテレビ、ダイレクトメールへの投資を削減する傾向が出てきた。
「自社のビジネス慣行が透明性を確保している」「サプライチェーンの透明性に関して1年前よりも関心が強まっている」と回答したリーダーは過半数を超えるが、自社のブランドに関して「訴求力のあるブランドストーリーを物語ることは難しい」とするリーダーも50%超を占めている。
顧客の変化や小売業のデジタル変革は確実に進行している。この変化に消費財メーカーはどのように対応していくのか。その詳細は特別レポートで紹介している。
受付は終了しました