キャッシュレスの最前線でいま
起こっていること

小野 貴之 (ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長)
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現金主義が根強い日本。決済における非現金比率は2割前後とされ、欧米やアジア諸国と比べてキャッシュレス化は大きく遅れている。その一方で、最近は「キャッシュレス」が空前のブームとなりつつあり、それにあわせて新サービスも続々と登場している。キャッシュレスの最前線では今、何が起きているのか――。(本連載は本日より、6営業日連続で掲載します)

小規模な小売店・飲食店では、キャッシュレス決済サービスを利用できる店舗が急速に増えている
小規模な小売店・飲食店では、キャッシュレス決済サービスを利用できる店舗が急速に増えている

2018年からキャッシュレスブームが過熱!

 去年から、「キャッシュレス」という言葉を耳にする機会が増えているのではないだろうか。ニュースや報道などはもちろん、小売店の店頭でキャッシュレスな決済サービスに関するキャンペーンを目にした人も多いかと思われる。

 2018年はモバイル決済、とくにQRコード決済サービスの登場ラッシュの1年とも言える1年だった。2018年4月に通信キャリア最大手のNTTドコモが「d払い」を開始。8月にはアマゾン日本法人が「Amazon Pay(アマゾンペイ)」の実店舗決定をスタートさせ、同10月にはヤフー・ソフトバンク連合による「PayPay(ペイペイ)」がサービスを開始した。

 なかでもとくに注目を集めたのがペイペイで、100億円を投じた利用者への大胆な還元策を展開。約4カ月間実施する予定だったキャンペーンがわずか10日間で終了するほどの盛況ぶりで、メディアを賑わせた。

 続く2019年も注目サービスのローンチが目白押しで、2月にフリマアプリ最大手のメルカリ傘下のメルペイ(東京都)がモバイル決済サービス「merpay(メルペイ)」を開始し、4月中には通信キャリア大手のKDDIが「au PAY(エーユーペイ)」のスタートを予定するなど、まさにモバイル決済は乱立状態にある。

 さらに今年は、小売業が運営母体の“流通系”モバイル決済サービスも登場する予定で、7月にファミリーマート(東京都)が「FamiPay(ファミペイ)」、初夏にはセブン&アイ・ホールディングス(東京都)が「セブンペイ(仮称)」をそれぞれ開始すると発表している。

なぜ今、キャッシュレスなのか

 では、なぜ最近になって、キャッシュレスがキーワードになってきているのだろうか。

 背景にあるのは、中国でのQRコード決済の成功である。中国モバイル決済の“ビッグ2”といえば、アリババグループの「Alipay(アリペイ)」とテンセントグループの「Wechat Pay(ウィーチャットペイ)」。これら2つの決済サービスは、インターネット事業者がオフラインに進出しはじめた15~16年頃に中国国内で爆発的に普及した。同時に、決済の枠を超えて金融を中心とした派生サービスの展開にもつながっている。

 このような中国での成功を横目に、日本でもキャッシュレス化を推し進めようと、政府は186月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018(いわゆる、骨太の方針)」と「未来投資戦略2018」のなかに、「キャッシュレス化」が織り込まれた。

 翌7月には経済産業省の呼びかけにより、200以上の企業や団体が傘下する「キャッシュレス推進協議会」が設立。「プレミアム“キャッシュレス”フライデー」「キャッシュレスウィーク」といった具合に、キャッシュレス決済を通じて消費喚起策を矢継ぎ早に打ち出している。こうした一連の動きにより、キャッシュレスブームが巻き起こっているというわけだ。

モバイル決済の先進国である中国では、アリペイとウィーチャットペイのビッグ2が15~16年に爆発的に普及。生活になくてはならないサービスとなっている
モバイル決済の先進国である中国では、アリペイとウィーチャットペイのビッグ2が15~16年に爆発的に普及。生活になくてはならないサービスとなっている

小売業はキャッシュレスの波に乗れるか

 決済サービスが続々と登場し、まさに乱立状態にあるなか、決済の“最前線”である小売業はこのキャッシュレスブームにどう対応していけばいいのか。

 コンビニをはじめ、小規模な飲食店・小売店では、モバイル決済を利用できる店舗は着々と増えている。だが、いわゆる食品スーパーと言われる業態で、二次元コード・QRコードを使ったモバイル決済を利用できる店舗はまだほとんどないのが現状だ。

 なぜか。小売業とくにチェーンストア企業への決済サービスの新規導入では、加盟店手数料がボトルネックとなっている。

 小売チェーンにおけるクレジットカードの手数料率は23%ほどとされており、業態や会社規模によっては1%台のところもあるという。QRコード決済の事業者の多くは3%前後の料率を提示しているが、複数の大手小売関係者は「(その料率では)話にならない」と一蹴する。

 食品スーパー業界に目を向けてみれば、優良スーパーと言われるような企業でも売上高営業利益率は4~5%程度。ここからさらに手数料を徴収されるとなれば、二の足を踏みたくなる事情もわかるだろう。

 しかし、キャッシュレスの波はすぐそこまで押し寄せてきている。政府は19年10月の消費増税にあわせて、消費者が中小規模の店舗でキャッシュレスな決済手段を利用した場合、利用額の一定割合をポイントで還元する施策を打ち出している。

 増税後は消費が大きく停滞すると予想される。キャッシュレス決済によるポイント還元は消費を喚起する起爆剤になるのは間違いない。

 小売業はキャッシュレスの波にうまく乗っていくことができるのか。明日からのキャッシュレスサービスの最新動向レポートや識者による分析・解説を通じ、キャッシュレスの「今」に迫る。

記事執筆者

小野 貴之 / ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長

静岡県榛原郡吉田町出身。インターネット広告の営業、建設・土木系の業界紙記者などを経て、2016年1月にダイヤモンド・リテイルメディア(旧ダイヤモンド・フリードマン社)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」編集部に所属し、小売企業全般を取材。とくに興味がある分野は、EC、ネットスーパー、M&A、決算分析、ペイメント、SDGsなど。趣味は飲酒とSF小説、カメラ

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