株式会社セールスフォース・ジャパン
インダストリートランスフォーメーション事業本部
小売消費財業界シニアマネージャー
小川 哲 氏
コロナ影響も加わり調剤併設が加速する
ドラッグストア業界では調剤併設に舵を切っている。併設率が約85%のスギ薬局を筆頭にウエルシアなど各社ともに調剤併設店舗の展開を加速している。この背景にはコロナ禍において受診抑制により中小の門前薬局から処方箋や薬剤師を獲得しやすいという流れとともに、さらに調剤自体が物販に比べて粗利率が非常に高いという理由も挙げられる。スギ薬局では調剤の粗利率は約40%にも達している。併設が進む中で顕在化してきたのが、調剤事業と物販、介護の複数の事業間で顧客情報が分断されていて、それを活用したシナジーが限定的になっているという問題だ。介護用品の物販から介護施設運営も行う事例も増えており、その事業との連携も重要になる。
ドラッグストアは、お客様や患者様が健康、病気あるいは介護といったライフステージの変化に応じて、調剤、物販など各事業でカバーできる。例えば物販や美容と言うのは健康なお客様、未病・病気と言うステージをカバー。調剤は未病で相談会での健康測定機会を提供することや、病気になった場合には処方箋に基づく調剤がカバーする。この時に物販から調剤への連携と考えると、単に調剤を併設しているだけで物理的に物販と調剤が隣り合っているだけ、というケースも見受けられる。
物販→調剤、調剤→物販、調剤→調剤の送客を実現
単に顧客情報、患者情報と言ってもどのような情報があるのか。ドラッグストアには物販の購入履歴や服薬データ、測定装置による健康状態、美容部員が把握している髪質・肌質やカウンセリング履歴、アレルギー、家族構成、店舗でのワークショップ参加履歴など各事業で得られる様々な情報がある。こういった顧客情報・患者情報を統合することで、例えば店舗の物販で健康関連商品を購買していたり健康関連商品をよく閲覧していたりする顧客は、健康に興味・関心・不安があることがわかるので、店舗での健康相談会や無料測定機器を案内することで調剤部門につなげていくことができる。
調剤部門から物販への送客は、健康チェックの結果あるいは健康相談会での相談内容、調剤での服薬履歴などをもとに、お客様の健康状態に合わせた物販で扱っている健康商材や生鮮商材、健康レシピといったものを対面やデジタルで案内することで調剤から物販に送客することも可能だと考えられる。
さらに調剤から調剤への送客では、服薬履歴、高血圧や糖尿病などの慢性疾患の方の受診 忘れをフォローすることで、さらに処方箋の獲得につなげていく。介護への送客でも介護用品の購買履歴や介護プログラムへの参加履歴など、物販や調剤で持っている患者様の履歴を踏まえて介護事業への案内も実現する。このように各事業でも持っている顧客情報、患者情報をつなげていくことで事業間の相互送客やクロスセルを行ってシナジーを活かすことができるようになる。
米国ではケアコーディネーター加えて一貫した顧客・患者サービスを提供
日本では法規制やガイドラインがあり、ドラッグストアの提供できるサービスには限界があるが、米国の大手ドラッグストアではより深く顧客の健康に関与するサービスを提供している。
アメリカの大手ドラッグストアA社の事例を紹介する。この会社は「セールスフォースは、ストレスのない顧客体験と顧客が望む便利なヘルスケアサービスを提供するためのプラットフォームを提供している」と評価している。このケースでは、タイプ1の糖尿病患者とその息子で嚢胞性線維症を患う子供に対してドラッグストアに所属するケアコーディネーターがサポートしている。ケアコーディネーターは患者の健康情報を一元管理しAIが提案する糖尿病の定期健康診断を案内する。
検査当日、当該患者が来店したことが医師に伝わり、医師は処方箋や検査の内容を確認し、投薬状況などを俯瞰し糖尿病診断を準備する。患者の家族構成もこのドラッグストアでは把握しており、息子が嚢胞性線維症を患っていることも記録されている。そこでこの息子の投薬情報なども見て、新たな薬が必要なら手配もできる。統合された顧客データにより、スムーズに患者本人の検査・診断から、家族用の薬剤手配まで行うことができるわけだ。
各プログラムの詳細
下記画像リンクから、各プログラムの詳細をご覧いただけます。