”丸投げ”は厳禁! デジタル変革の近道は「DX人材」の登用と育成にしかない

鈴木 康弘 ((株)デジタルシフトウェーブ代表取締役社長)
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前回は、企業がDXを推し進めようとする際に陥りがちな失敗の要因を5つご紹介しました。第3回となる今回は、”DX人材”を採用・登用する際に注意しておきたいことを解説します。

DXを停滞させるエンジニアやマーケターへの過度な期待

 リーダーの覚悟不足、エンジニアやマーケターへの過度な期待、外部ベンダーへの依存……。これらの「他人任せ」な意識を要因に、DXが進まず迷走している日本企業が少なくありません。「他人任せの意識」を取り除くためには、全社員によるデジタルスキルの底上げが必要です。DX推進プロジェクトは、主導する部署や担当者が取り組めばよいというわけではなく、全社員を巻き込み、デジタル化という企業風土を新たに醸成することに目を向けるべきだ、と前回の連載で提言しました。 

 しかし、残念ながら多くの日本企業では、既存の社員の意識や仕事の仕方を変えずに、外部から人を登用して課題を解決しようと考えるケースが多いのです。その最たる例が、エンジニアやマーケターの採用です。

 2021年の時点で、エンジニアとマーケターの有効求人倍率は5倍を超えています。ほかの職種のそれが1倍前後であることを考えると、その人気は群を抜いています。なかにはシステム会社や広告代理店に数年勤めた程度の30歳前後の若手に対し、1000万円超の年収を提示して入社を促す企業も見られるほどです。

 そうした企業はおそらく、ネットに精通するエンジニアやデジタルマーケティングの経験があるマーケターを採用すればDXを進められる、と思い込んでいるのかもしれません。しかしこうした状況はもはや異常で、いびつな雇用格差を起こす要因になっています。

 私はこれを、ネットバブル時代に人材獲得競争が過熱したときに似ているとも感じます。当時はインターネットブームで、ウェブデザイナーやネットワークエンジニア、ゲームクリエイターなどが脚光を浴びていました。しかし、ブームが過ぎると、こうした人たちも“ただの人”に……。こうした人たちを大量採用した企業の中には、人件費が大きな負担になったことを理由にリストラを断行するケースもありました。

 現在の状況は当時と酷似しています。エンジニアやマーケターの獲得合戦も、一部の本当に優秀な人を除けば、すぐ落ち着くでしょう。しかし、ネットバブル時代のような状況が続けば、多くの企業が同様の過ちを繰り返すかもしれません。エンジニアやマーケターへの過度な期待が、DXを停滞させる可能性があるのです。

そもそも「DX人材」とは何をする人なのか?

 私のクライアントの中には、まず採用についての相談から始めるケースは少なくありありません。そんなときは必ず、「DXを推進するのに本当に必要なのは、エンジニアやマーケターではなく、“DX人材”です」とアドバイスします。「エンジニアやマーケターを採用しすぎるべきではありません。やがて負担になりますから」ともアドバイスします。

 するとクライアントからは、「エンジニアやマーケターとDX人材は違うのですか?」と予想どおりの質問が返ってきます。そこで私は、「エンジニアはシステムの専門家、マーケターはプロモーションの専門家です。DX人材とは、業務やシステムを熟知し、企業に変革を起こせる人です」と答えます。

 エンジニアやマーケターは、専門的な知識やスキルを持っていても、現状を「変える」スキルを持ち合わせた人は少ないでしょう。こうした人を採用できたとしても、その取り組みはシステム導入やウェブ販促などの表面上の仕事に限定されます。めざすべきDXは実現されないことが多いのです。

 DXを進める場合、ITやプロモーションの専門家を高い給与で採用するのは間違いです。何より大事なのは、企業内の人材を「DX人材」として育成することです。これがDXの近道で、現実的な解決方法と言えます。

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記事執筆者

鈴木 康弘 / (株)デジタルシフトウェーブ代表取締役社長

1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役就任。2006年セブン&アイHLDGSグループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS執行役員CIO就任。グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、日本オムニチャネル協会会長も兼任。

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