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開店直後から大行列! 愛媛のローカルスーパーが送り出す、起死回生の看板商品とは?

食品マーケットは大手を中心とする合従連衡、競争激化が進み、小売業の経営環境は悪化の一途をたどる。その中、小規模のローカル店ながら、起死回生の一手で強い集客力を発揮するにいたった食品スーパーが愛媛県松山市にある。取り組みの実際を確認するため、現地に足を運んだ。

愛媛県松山市の小さな食品スーパーが大変身するきっかけとなった“ある商品”とは

10時30分をねらって店へ

 人口約50万を抱える四国最大の都市、松山市。ビジネスが盛んであるほか、俳人、歌人の正岡子規を輩出、また夏目漱石の小説「坊ちゃん」の舞台になるなど、文学にもゆかりのある土地だ。

 8月下旬、私は某有力企業の取材を終え、市内のホテルに滞在していた。

 部屋でPCに向かい情報収集していたところ、地元で営業する小さなローカルスーパーが目に留まった。“ある商品”が人気で、SNSも積極的に活用、多くのお客を集めているようだ。興味を持ち、翌日に訪問してみようと思い立つ。

 繁華街、大街道から南1.6kmにその店はあった。土曜日の午前10時過ぎ、バスへと乗り込んで最寄りの停留所で下車、徒歩で現地へと向かう。300mほど歩いたところで目的地が見えてきた。

今回訪れた「末広マート 立花店」

 パラペット部に記された店名は「末広マート 立花店」──。建物は老朽化している様子で、外観はやや色褪せている。ビジネスを展開するには厳しい時代にあり、お世辞にも“選ばれる店”には見えない。

 それでも店の前にある12台が停められる駐車場はすでにいっぱい。警備員が配置されており、次から次へとやってくる車を手際よく案内している。大半は愛媛ナンバーだったが、中には香川ナンバーも見られた。

10時30過ぎに到着すると、土曜日であるためか、店の前にある12台を停められる駐車場はすでに満車だった。警備員が配置されており、次から次へのやってくる車を手際よく案内していた

 実は、この店のウリは自社製造する「フルーツサンド」。2021年6月に販売を開始、噂がじわりと噂を呼び、今では大人気商品に育っている。私が店に到着したのは午前10時30分過ぎ。ネットでの事前調査により、この時間に目当ての商品がズラリと並ぶことをねらってのことだった。

 公式Webサイトによれば、末広マートの会社設立は1977年5月。八百屋がバックボーンのようで、果物、野菜に力を入れる。ただ近年、小売業の競争が激化したのを受け、得意分野の商品の加工度を上げたアイテムにより起死回生の勝負に出たと想像できる。フルーツサンドの販売を開始した2021年は、地元小売業の雄、フジがイオン傘下となっており、経営環境が厳しさを増した時期と一致する。

子連れの若い来店者も多かった

 早速、中へ。おそらく売場は100坪もないはずだ。それでも多くのお客が店内を回遊している。入口すぐの場所には季節の果物が陳列され、そのすぐ横に据えられた冷蔵ケースにぎっしりと並ぶフルーツサンドが見えた。私は踊る心を抑え、売場の前に立った。

一番人気のフルーツサンド

 多くの商品があるため、どれを選べばよいか迷った。商品を補充していた女性スタッフに質問すると、「一番人気はコレです」と教えてくれたのが「八百屋のフルーツミックス」(税抜き480円)。みかん、パイナップル、いちご、キウイのほか、季節の果物としていちじくもサンドされている。

一番売れる看板商品「八百屋のフルーツミックス」(税抜き480円)。奥にまでフルーツがしっかりと詰まっている
2種類のぶどうを挟んだ「シャインマスカット・ナガノパープル」(同580円)。見た目にもかわいらしく、写真映えする

 もうひとつ、自分で選んだのは2種類のぶどうを挟んだ「シャインマスカット・ナガノパープル」(同580円)。見た目にもかわいらしく、写真映えするのではと考えた。

 朝食を抜いてきたので、さらに奥の売場も歩く。総菜にも力を入れているようで、「どんむす」というユニークな商品も発見した。手書きPOPを読むと、丼の具のようなおかずを、おにぎりに乗せたもののようだ。一通り悩んだ後、珍しい「ヤンニョムチーキン」(同298円)に決めた。

 店の軒先にあるベンチに腰掛け、実食する。

 最初は、ごはんものの「どんむす」から。骨なしチキンに甘辛い韓国辛味噌をかけ、さらにまろやかさを出すためクリームチーズを添えてある。チキンとチーズなので、商品名は“チーキン”。遊び心があるよな。食べたけど、コレ、おいしかった。

 次に、メーンのフルーツサンドをいただく。一番売れるというフルーツサンドから頬張ったけど、いやぁ、ボリュームがありますよ。奥にまでフルーツが詰めてあり、お!と思った。よくある、見えているところだけに具を挟んである、“なんちゃってサンド”ではないのだ。

 続いてもう1つの方。しっかりとした歯応え、爽やかな甘みのぶどうが入っており、新鮮なフルーツを使っていることがわかる。あぁ、これもウマイわ!大満足である。

 感心したのは、おいしさの追求だけでなく、ブランディングにも取り組んでいる点だ。

 サンドの包材には、「スエヒロ」の文字を格好よくデザインしたマークがプリントしてある。まだ、レジでは「ご希望なら、無料で紙袋をおつけしますが、いかがしますか」と聞かれた。「お願いします」と伝えると、さきほどのマークをあしらった、かわいらしい紙袋に入れてくれた。きっと贈答需要も取り込もうとしているのだ。なかなか戦略的だ。

ブランディングにも取り組んでいる点に感心する。希望者には「スエヒロ」の文字を格好よくあしらった紙袋をつけている。贈答需要も取り込もうとしているのだろう

 これらの商品により、店は激変したに違いないと想像する。客層だけでなく商圏、そして店づくりそのものも。

「スエヒロ」のロゴを20枚ためると景品がもらえる。「たまご1パック」が景品というのも、生活者に寄り添ったユニークな販促だと思った

 記事執筆にあたり、Googleストリートビューで、フルーツサンドを販売する以前の様子も確認してみた。すると店頭には、野菜やティッシュペーパーを積み上げ、黄色地に赤文字のプライスカードを掲げて低価格を打ち出す様子を確認できた。やはり新商品により、店は大変身を遂げることに成功したのだろう。

 大手を中心とする合従連衡、競争激化が進む小売業界。しかし、やり方によっては、たとえ小さい店でも現状を打破できると感じた日だった。

小さな店でも、やり方次第で現状を打破できると感じた