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DXが売場を情報メディアに変えた! インストアプロモーション進化のゆくえとは

何を見ても聞いても、どこに行っても世の中はプロモーション情報で溢れかえっていますが、生活者はそのほとんどをスルーします。いちいち気に留めていたら、やっていることが中断されるばかりで用事が進みません。しかし、聞き流す・見流すことに長けた生活者でも、買物中に接するインストアプロモーションには気を取られやすいようです。行動と情報が買い物という目的で一致しているからだと思われます。効果的だからこそ店内で発信する情報は大事なわけですが、実際に店内で発信されているのはどんな情報でしょうか? 商品情報を伝えることに、もっと貪欲でもいいように感じます。

サイネージを眺める客層をAIカメラで認知(イオンスタイル横浜瀬谷)

店内放送で顧客に何を聴かせる?

 私たちがほとんどのプロモーション情報や広告をスルーするのはきっと、今していることとは関係ない脈絡のない情報だからでしょう。例えば野球中継です。いつの頃からか、プロ野球選手のユニフォームにはスポンサー企業のロゴがたくさん付くようになりました。バックネットの壁面はデジタルサイネージに変わり、球場によってはバナー広告の壁のようです。それらに気づいてしまうとプレーへの集中が途切れてしまうのは確かですが、通常はプレーに関心を向けているのでほとんど気になりません。

 野球観戦はプレーを見るためにしているのであって、そのとき視界に入る広告はプレーとは関係ない情報の「ぶっ込み」です。しかし、買物中のインストアプロモーションは脈絡のない情報ではありません。行動の目的と一致しているので、受け取る側の意識に引っ掛かりやすいといえます。店内ではむしろ、もっとプロモーション情報を発信すべきとさえ思います。買物のために来た店内で流れる情報がプロモーションでないばかりに、かえってノイズ化している場合があります。

 たとえば店内のBGMです。気にもとまらないインストゥルメンタルならまだしも、J-POPを流すスーパーもたまにあります。店内に流れる音楽に気を取られてしまう瞬間があるとしたら、それは買物への集中が途切れてしまう時ではないでしょうか。BGMが音高く流れるスーパーは、テレビがついてる飲食店に似ています。利用客はテレビを眺めて「ながら食べ」をして、従業員の関心もテレビに注がれます。顧客にも従業員にも、ほかに気を向けるべきものがあるように思うのですが。多くのチェーンで、メンテナンスタイムの音楽やレジ応援の要請などが業務放送として流れます。それは必要不可欠なものですが、顧客の買物体験にプラスになるわけではありません。どちらかというと、業務放送の合間をBGMで埋めている印象さえあります。

 最寄りのヤオコーでは、店長はじめ従業員がマイクを握り、店内放送を使って商品情報を語っています。全てのヤオコーがそのようにしているかは確認できませんが、その店は、なかなか頻繁に語ります。今日はこんな商品が目玉です、こんな新商品がお目見えです、いまこれが出来たてです、これの数は限られていて夕方にはなくなるかもしれません…など、語られているのはプロモーションです。また、週末の朝にはこんな商品を…、ワインに合わせてこんなものは…、といった提案に、時事や催事を絡めてくることもあります。出来たての紹介や気づいていなかったセール情報など、店内でリアルタイムに語られる情報は有用なことがあります。集中して耳を澄ませるほどではないとしても、聞き流しているわけでもありません。わりと聞いています。

 もっとも、マイクを握って行う情報発信の効果は、それをやる人の技量に左右されるでしょう。元気がなさすぎてもありすぎてもかえって耳障りかもしれず、それをやるのも新たな業務負荷かもしれません。しかしリアル店舗ならではのタッチポイントではあります。

DXで売場は情報メディアに

 店内放送を使った情報発信には研究の余地があるように思いますが、より一般的にこれからのインストアプロモーションの進化を担うのは、マンパワーよりもデジタルの領域になるのでしょう。すでに店舗には大小さまざまなサイネージが設置され、人の代わりに、またはPOPよりも目立つ方法で商品情報やセール情報を発信しています。

店頭は効果測定が可能なプロモーションメディアに進化(カスミ フードスクエア白岡店)

 単に情報を伝えるだけではありません。これらは、告知の効果を測定できるマーケティングツールとして進化しています。U.S.M.Hのサイネージシステムは、動画の試聴人数や年齢・性別、試聴時間などを計測してデータ化していますし、イオンリテールが導入を始めたサイネージシステムは、前に立つ人の年齢・性別に合わせて映像を変えるといいます。トライアルグループのRetail AIが提供する「スマートショッピングカート」の備え付けモニターには、使用する人の購買履歴などに基づいてクーポンが表示されます。

 店内はプロモーションの映像と音に溢れ、しかも顧客の行動もデータとして収集し、そのデータを分析することで個別プロモーションを精緻化しようとしています。売場は情報が回り続ける場になろうとしており、このように書くと何だか煩わしい感じもしますが、実際は情報の届け方と内容の巧拙により、有用にもノイズにもなるはずです。

 少なくとも店舗には買物をしに来ているわけですから、商品情報を届けておかしいシチュエーションではありません。打たれてうなだれる投手の帽子に、企業ロゴが映えるような脈略のなさとは違います。商品を山積みにした売場は、以前から一つのメディアでした。そこにDXが拍車をかけて売場は情報メディアへの進化を、それも猛烈な勢いで遂げそうな気配があります。