オークワ(和歌山県/大桑弘嗣社長)は7月21日、愛知県名古屋市に「パレマルシェ神宮前店」をオープンした。愛知県内13店舗目となった同店は、大桑社長が「新しいチャレンジの店」と言い、今後のオークワの出店の幅を広げる、重要な使命を持つ。その中身と、パレマルシェ神宮前店の特徴的な売場を解説したい。
パレマルシェ神宮前=メッサ+初の都市型小型店
名古屋駅から電車で8分、名鉄神宮前駅直結の商業施設の1階に核テナントとして入居する「パレマルシェ神宮前」。同店は、6月20日付けで商業施設再開発のため閉店となった「パレマルシェ神宮」をリロケーションするかたちでオープンした店舗だ。旧店は元々「名鉄神宮前百貨店」としてオープンした店で、その後は多層階の総合スーパータイプの店として営業してきた。旧店は熱田神宮前側の西側にあったが、パレマルシェ神宮前は古くからの住宅地である東側に立地する。
ワンフロアで展開されるパレマルシェ神宮前の売場面積はわずか380坪。オークワとして初となる、都市型小型店の高質スーパーマーケット(SM)業態という位置付けである。
オークワは高質SM業態の「メッサ」を和歌山と奈良に計3店舗展開するが、この神宮前店も実は「メッサ」の位置付け。名古屋地区での知名度を鑑みて「パレマルシェ」の屋号で進出した。
なお、名古屋地区のパレマルシェ10店舗のうち、池下店と名鉄岐阜店も立地条件や客層から社内的に「メッサ」業態と位置付けている。ただし、「この2店舗は既存パレマルシェと同じ商品構成から変えることができていなかった。和歌山、奈良のメッサ業態になり切れていない。そこで、神宮前店では(既存メッサをベースに)都市型小型店という新しい形のメッサ業態にチャレンジした」と大桑弘嗣社長は語る。
オークワ標準店舗の約半分の売場面積ながら1万アイテムを投入した神宮前店。具体的にどのような売場づくりなのか、写真と共に注目MDを見ていきたい。
コンパクトな売場にこだわりを詰め込む
売場全体としては、コンパクトながらこだわりの品揃えが詰まった高質SMというイメージだ。商品が映える陳列も巧みで、商品自体バイヤーがきめ細かく各地の産品からよりすぐったものを品揃えしている。旧店の前身が百貨店だったことから、百貨店並の品質を求めるお客、普段の買い物でちょっと良いものを求めるお客のニーズに応える売場づくりを目指している。また、売場随所で目立つのがオークワのプライベートブランド(PB)。とくにプレミアムラインの「オークワプレミアム」は加工食品を軸に日配などでも目立っている。
売場配置は、2箇所ある入口のうち駅側のトップは総菜、商業施設2階と繋がる側は青果売場を持ってきて、青果の先に総菜がある形となっている。コンコースは総菜、水産、畜産、日配へと流していくレイアウトだ。またワンストップショッピング性を確保するため、コンパクトながら日用品、化粧品などの非食品も品揃えするのが特徴で、これら非食品の売上構成比は2%となっている。
もっとも強化した総菜売場
ここからは各売場から主だったMD(商品政策)をピックアップしたい。
立地特性を鑑みて、もっとも強化しているのが総菜だ。オープンキッチンの総菜売場はインストア製造を軸に、寿司、弁当、和・洋・中華総菜といずれも充実している。シェフ監修の季節野菜を使用したサラダ(取材日はトマトとモッツァレラチーズのサラダ)、岐阜山根リッチバーガーから仕入れたフルーツサンドなどの各種サンドイッチ、 PB「オークワプレミアム」の三元豚とんかつ、オークワ名物コロッケなどが並ぶ。オープニング限定として、2759円の「鰻弁当二段重」も展開していた。
SMのレベルを凌駕する「さかなや鮨」
オークワの最大の強みである水産売場も、加工度を上げた対応を強化。スペースの関係から丸魚は対面ではなく、ラップで包んで平台で陳列し、壁面沿いでは売場を広く取って「さかなや鮨」を展開する。10貫の「にぎり盛り合わせ(潮騒)」1280円、同じく10貫でうにいくら天然本マグロを入れた「上にぎり盛り合わせ(煌)」1980円など、SMの寿司のレベルを超えた商品が並ぶ。旧店からの従業員が多く同店で継続して働いていることもあり、商品化技術も高く、仕事も丁寧だ。
なお、総菜売場でも寿司は強化しているが、「ローストビーフの盛り合わせ寿司」や12貫で598円と破格の「ご馳走寿司」をメーンにするなど差別化に余念がない。
ホールセールのパンも他店にはない品揃え
同店にはインストアベーカリーは導入していないが、ホールセールベーカリー(工場で製造したパンを仕入れて販売すること)も、他のSMでは見られないこだわりの展開をしている。いわゆる有名メーカーのパンではなく、卵・乳製品不使用の「もりかわベーカリー」、岐阜市にあるこだわりの「コガネパン」、名古屋の喫茶店文化を支える「本間製パン」、名古屋で行列のできる「ナビィのパン」、そして岐阜県で有名な「グルマンマルセ」(SM業界ではあのツルヤが仕入れているパンとしても知られているだろう)をそれぞれコーナーを作って売場を展開している。ある意味で、インストアベーカリーよりも強力な来店動機になるこだわりの売場づくりと言えるだろう。
パレマルシェ神宮前店の見所はまだまだたくさんあるものの、今回解説しただけでも、オークワが政策的に商品開発・商品開拓に力を入れ、バイヤーが全国を探し回ったかが窺い知れるというものだ。一朝一夕ではできない同店のMDには、オークワの同質化しにくい売場づくりと近年の好調な業績とが重なる。同店が成功すれば、その取り組みを既存店に反映するとともに、今後の出店の幅が広がることになる。大事な位置付けの店と言えるだろう。