地方百貨店生き残りへ問われる「目利き力」 「イバラキセンス」高ブランド化への挑戦

2020/04/14 05:55
    鈴木文彦 大和エナジー・インフラ投資事業第三部副部長
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    リニューアル効果あるも課題は集客

      リニューアルオープンから1年半経つが、高級路線の転換は集客面での課題もあるようだ。リニューアル後の半年間の1日平均売上高は物販、飲食合わせて60万円台。リニューアル前の「茨城マルシェ」のときは2014年度以降75万円、97万円、79万円、77万円と推移していた。初年度の収支をみると、10月オープン以降の粗利益高は計画の半分強にとどまった模様。人件費その他経費の約半分を県の委託費で賄う予定だったが、リニューアル工事の都合でオープン日が予定より遅れたこともあったので委託料を若干増やした。

     運営に関する委託費は2019年度予算ベースで8100万円ほどだが、201910月の茨城県議会議事録によれば広告換算額は2億8,000万円となり、「首都圏のメディアや消費者に本県のさまざまな魅力をアピールできた」と一定の成果はあったようだ。

     たしかに、「マルシェ」に象徴されるスーパーマーケット路線、産直テイストを前面に押し出した売場作りで売上の見込みが立ったのかもしれない。一方、高級路線と裏表の関係ではあるがアンテナショップの課題は、ブランド力の面では銀座の百貨店にかなわない「ご当地品」に品ぞろえが偏りがちであることだ。東京一極集中に歯止めをかけ地方創生が推進される中、重要なのは地元の食料品、工芸品を全国いや世界に通用するブランド品に育てることだ。その意味で「イバラキセンス」の高付加価値戦略は、着実に進捗していると言ってよいだろう。

     県の仕様書にはアンテナショップに期待される機能として物販、飲食、イベント、情報発信に加え第5の機能「フィードバック機能」がある。つまり、首都圏の顧客ニーズを収集し、地元出品者に改善提案アドバイスを提供することだ。先の議会答弁によると、購入者へのモニター調査による商品の評価を生産者へフィードバックした結果、デザインの変更や容量の見直しなど、これまでに約20品目の改善につながり、販売額の増加に結びつけることができたという。

     当初500品目だった取扱点数も着実に増やし、月20品目程度を入れ替えつつ現在は約1000品目という。リニューアルオープン以来下降傾向だった売上は10月以降反転し、201912月には1日平均72万円と「茨城マルシェ」時代と遜色ない水準まで回復した。

     自治体主体のアンテナショップの課題はアンテナが発信に偏っており、「受信」が足りないことだ。アピールするだけでなく、運営者が一定のリスクを取りつつ、地元産品の高付加価値化に向けブラッシュアップしていることが重要だ。百貨店の目利きを生かしたアンテナショップの挑戦に期待が寄せられる。

    プロフィール

    鈴木 文彦(大和エナジー・インフラ 投資事業第三部副部長)

    仙台市生まれ。1993年立命館大学卒業後、七十七銀行入行。財務省出向(東北財務局上席専門調査員)等を経て08年大和総研18年から現所属に出向中。中小企業診断士。

     

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