岩手県の名物激安スーパー「SUPERオセン」 地域で愛される「低価格」の打ち出し方!

大宮 弓絵 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
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ドンキのような青果売場
軍艦マーチで購買意欲を煽る

 メーン出入口から入店しすぐ視界に飛び込んでくるのが、青果売場だ。壁面と平台で特売商品を単品大量陳列しており、通路の両サイドから商品が迫ってくるようなインパクトがある。写真を掲載できないのが残念だが、ディスカウントストアの「ドン・キホーテ」を彷彿とさせるような空間だ。
 とくに販売を強化している商品の価格を見ると、ズッキーニ1本20円(以下、税抜)、岩手県産ミニトマト1パック40円、北海道産ブロッコリーLサイズ1玉95円と破格だ。
 そして入店と同時に耳に入ってくるのが、店内BGMの「軍艦マーチ」だ。これが毎日、繰り返し流されている。叔母によると「このテンポのよい曲を聴くと『お得だしいろいろ買わなきゃ!』という気持ちになる」そうで、購買意欲の促進につながっているようだ。

精肉は一頭買いで低価格を実現

 売場レイアウトは、青果の後、精肉、鮮魚、日配、総菜売場と続き、中央にグロサリー売場を配置する。
 精肉、鮮魚、総菜は店内加工品が中心だ。とくに精肉は、岩手県産の銘柄牛「前沢牛」「きたかみ牛」や銘柄豚「亜麻豚」などの高品質商品をメーンに訴求。地元のネットワークを生かし素材を1頭買いで仕入れており、そのため希少部位も幅広く揃え、低価格かつ専門性の高い売場を構築していた。この日は「A4等級きたかみ牛」の焼肉用カルビが1パック(約15枚入り)1100円ほどで販売されていた。このように品質の高いものが低価格で購入できる点も「SUPERオセン」の魅力の1つといえそうだ。

「日替わり感謝品」を10品目以上用意

 そのほかにも「SUPERオセン」では消費者の“お得感”を刺激するさまざまな工夫が見られた。
 たとえば、「日替わり感謝品」という、毎日異なる目玉商品を10品目以上も用意している。たとえば連休初日の8月10日(土)には、「牛乳1ℓ」を1本99円、「もやし」を1袋8円、「上白糖1㎏」を1袋88円で販売していた。これらは来店動機につながる強力な武器となりそうだ。

圧倒的な低価格商品で販売する「日替わり感謝品」。その名のとおり、商品は日替わりで毎日10品目以上用意している
圧倒的な低価格商品で販売する「日替わり感謝品」。その名のとおり、商品は日替わりで、毎日10品目以上用意している
目玉商品は県内のメーカーの商品が多い。地元のネットワークを活用し低価格を実現しているようだ
目玉商品は県内のメーカーの商品が多い。地元のネットワークを活用し低価格を実現しているようだ

売場全体で催事を提案

 また、売場全体で催事の提案に力を入れている点も特徴だ。この日はお盆休み期間に合わせて、精肉売場や鮮魚売場では「バーベキューセット」、総菜売場では「にぎり寿司盛り合わせ」(40貫入・1980円)や「特製オードブル」(1680円)といった大容量パック商品を売り込んでいた。
 季節の催事を活用して消費者への提案につなげているとともに、ボリューム感を打ち出した大容量パックの販売は、実際の価格以上に来店客に“お得感”を与えているように感じた。

季節の催事に即した商品を各部門で販売。お盆休み期間だったこの日、鮮魚売場では「バーベキューセット」(1680円)を訴求していた
季節の催事に即した商品を各部門で販売。お盆休み期間だったこの日、鮮魚売場では「バーベキューセット」(1680円)を訴求していた

「安かろう悪かろう」の
イメージを払拭する秘策とは!?

 最後に注目したいのが、チラシやPOPの活用だ。
 たとえばチラシでは毎号、紙面トップに、従業員から顧客に向けてその時節柄に合わせたメッセージとともに、「大ぜいのお客様から少しずつの利益を頂き、店が着実に伸びてゆき、全員が健康で働ければ、これ以上の幸せはありません」という店の方針を掲載している。
 また、売場の手書きPOPでは「在庫がいっぱいあるので安くしました」といった低価格の理由を説明している。
 商品を低価格で販売するディスカウントストアは「安かろう悪かろう」といったイメージが付きまとう。そうしたなか「SUPERオセン」はこれらの方法で顧客とコミュニケーションを図ることで、価格や品質に対する信頼を獲得しているではないだろうか。

チラシでは毎号、紙面トップに、従業員から顧客に向けてその時節柄に合わせたメッセージとともに、店の方針を掲載している
チラシでは毎号、紙面トップに、従業員から顧客に向けてその時節柄に合わせたメッセージとともに、店の方針を掲載している

 この日購入したのは全63品で合計金額は2万3959円。15人でバーベキューをしても食材が余るほどで品質にも満足だった。岩手県に行く際はまた是非「SUPERオセン」に行きたいと感じた。
 10月の消費税増税により消費者の節約志向は高まることが想定される。そうしたなか小売企業各社は「SUPERオセン」のように、消費者にうまく低価格を訴求することがこれまで以上に求められるだろう。

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記事執筆者

大宮 弓絵 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

1986年生まれ。福井県芦原温泉出身。同志社女子大学卒業後、東海地方のケーブルテレビ局でキャスターとして勤務。その後、『ダイヤモンド・チェーンストア』の編集記者に転身。最近の担当特集は、コンビニ、生協・食品EC、物流など。ウェビナーや業界イベントの司会、コーディネーターも務める。2022年より食品小売業界の優れたサステナビリティ施策を表彰する「サステナブル・リテイリング表彰」を立ち上げるなど、情報を通じて業界の活性化に貢献することをめざす。グロービス経営大学院 経営学修士

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