良品計画(東京都/松崎暁社長)が19年4月に開設した旗艦店「無印良品 銀座」(東京都中央区)は、同社最大の売場面積というだけでなく、直営のレストランやベーカリーショップ、さらにはホテル(運営はUDS社)も併設しています。通常店のカテゴリーに加え、中食や外食、さらには宿泊までサービス領域を広げました。
オープン記者会見では「多角化を進める先に、どんな将来像を描くのか」という質問が出ました。新たな市場領域への進出を、普通は経営の多角化と呼びます。しかし松﨑曉社長は「多角化ではない」と答えました。なぜでしょうか。
新たな領域に次々進出
銀座で始めた弁当などの総菜、ベーカリー、ホテルといった事業領域は、いずれも国内初の取り組みです。本格的なレストランも、カフェ業態と区別するなら銀座からです。この1年ほどを振り返っても、冷凍食品や冷蔵スイーツの開発、パートナー企業と組んだ食品スーパー、道の駅のプロデュースなど、意欲的に新規事業に挑んでいます。
冒頭で紹介した記者ならずとも多角化と呼びたくなるわけで、同社の事業拡大を整理すれば図1のようなイメージになりそうなところです。
ところが松﨑社長は違うと言いました。これまでの「衣生食」も、住宅も生鮮も総菜もベーカリーも、ホテルもオフィスも、「生活の基本領域」として同じ範ちゅうにあると言うのです。
「生活の基本領域で本当に役に立つモノを追求しており、生活者はそのモノを使って自分の生活を作り上げていく・・・。これが創業以来の考え方で、多角化を目指しているわけではありません。基本領域で欠落している部分があれば埋めていきます」(松﨑社長)
無印良品で扱う食の分野は、長らく常温の加工食品だけでした。ここにきて生鮮や総菜に取り組むのは、それが食の基本だからという理由です。同社は食べ物・着る物・日用雑貨、それらをしまう家具、家具の容れ物としての住宅と、暮らしに必要なモノに沿って事業領域を広げてきました。家の外に出た先の、たとえば働く場所というのも、いかにも日常の場です。
旅はどうでしょうか? 旅行は脱日常ですから特別の場面ではありますが、誰にでも起こり得るシーンなので「日常の延長」と位置づけます。するとホテルも、日常の延長の一部となってきます。
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なぜ多角化ではないのか、こう理解すればわかる!
同心円のMUJI
生活の基本領域といっても、実際には生活のあり様はいろいろで、基本とは何だろうという話になります。無印良品が追求する「基本」とは何か。それが「感じ良いくらし」というコンセプトです。同社はこのコンセプトを説明する表現として、「『これがいい』ではなく『これでいい』」。「アンチゴージャス、アンチチープ」など、さまざまな表現を使ってきました。
この「感じ良いくらし」という価値基準を共有した広がりが、生活の基本領域となるようです。それは図2のように示せるでしょう。
「感じ良いくらし」を核とする同心円の広がり。それが良品計画の言う「生活の基本領域」と考えれば、多角化とは違うイメージであると思えてきます。これほど多岐にわたる事業領域が一言のコンセプトでまとまるのは印象的です。しかもコンセプトを具体化した商品は、日本に限らず世界各地に持ち出されています。
それでも事業領域は異なる
多角化ではなく、生活の基本領域という範囲内で欠落部分を埋めるだけだとしても、事業領域が異なることに違いはありません。それぞれに市場があり、競争相手となるプレーヤーも異なります。新領域に進出すれば、それぞれの課題に直面します。
生鮮・総菜分野は、調達や物流の仕組みを地域ごとに構築しなければなりません。店舗の運営ノウハウも加工食品とは異なるため、イオンモール堺北花田店(大阪府堺市)のスーパー部門の運営は、パートナーに委託しています。ホテルについても、松﨑社長は「直営ではやらない」と明言しており、提携先が必須です。また、ホテルやオフィスなど業務用で販売する商品は、一般家庭用とは異なる品質基準をクリアしなければならないというハードルもあります。
生活の基本領域の各所で役に立つ商品を供給していく・・・。チャレンジの難しさは多角化の場合と同等かもしれません。
それでも「感じ良いくらし」として各々が充実してくれば、MUJIブランドの魅力は相乗的に高まるでしょう。食品の充実で来店頻度が増え、他部門の売上増にもつながるといった効果は、すでに松﨑社長が手応えとして挙げるところです。