スマートストア化したトライアル新宮店 ITと人手で顧客体験を最大化させる!

阿部 幸治 (ダイヤモンド・チェーンストア編集長)
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プロモーションの新たな可能性示すとともに、売場づくりの進化がスゴイ!

 今回の実験は、カートか非カートかをAIカメラで認識して、前者であればケースを後者であれば単品を訴求したものだが、一見すると「だからそれが何なのだ」「それにどれほどの効果があるのか」と思う向きもあるだろう。だがこれは完成形ではなく、あくまでも実験の1つ。トライアルとしても、現時点ではどんな手法が顧客の購買行動を大きく変えるのかについて研究中だ。肝心なことは、顧客の状況をAIカメラで認識して、それに応じた最適な表現で顧客に訴求できるという事実だ。店頭メディアとして最適なクリエイティブ手法や表現方法を研究していけば、既存のオンライン広告やマス広告、店内の静的(Static)なPOPにはない、新しいメディアとして成立することが期待できる。その意味で、プロモーションの新たな可能性を示した店舗と言えるだろう。

 さて、売場づくりについてもトライアル新宮店は見るべきところが多々ある。食品売場のダイナミックかつライブ感ある生鮮売場と、サイネージをベースとしたその日の“ウリ”がすぐにわかるグロサリー売場、そしてターゲットとドン・キホーテの売場をいいとこ取りしたような2Fの衣料・住関連売場だ。

 食品売場は対面売場やインストア加工を多用した売場で、最近の食品スーパーや総合スーパーのトレンドが凝縮されている。とくに総菜売場では、壁面の寿司コーナーで「贅沢を少しずつ」と言うシックなPOPを掲げ、品質感をアピールしながら、値段は盛り合わせ8貫399円、同9499円と激安。インストア製造の手羽先唐揚げは1本59円、豚バラ炙り焼きは同298円で、店内のアイランドで山積みにしてボリューム感と安さ感を打ち出す。この他、魚総菜、中華総菜、1ピース99円(ホールでは792円)のピザ、1個159円の皿盛りの肉団子などを展開し、品揃えの幅が広く、バラエティ感が豊富なのが特徴で、頻度高く来店するお客を飽きさせない売場をつくる。このほか鮮魚では店内製造の干物を販売するなど、”この店ならでは”の取り組みも行なっており、食品売場のレベルが一気に引き上げられた印象だ。

 2Fは衣料品売場でVMDとサイネージを活用した見やすくわかりやすいアパレルコーナーが見所。マネキンを使ったものに加え、サイネージを3台、縦に並べたものを置き、コーディネート提案を行う。後者ではトップス、スカート/ボトムス、クツ/サンダルのコーディネートを複数提案して、総額も表示する。売場は商品の陳列数量を抑えめにしてVMDを多用している点も参考になる。

 住関連売場では、従来は直線型の商品配置だったが、曲線を多用して変化を持たせ、売場の奥まで行きたくなるような売場にした。売場ごとのディスプレイに力を入れ、何売場か、そして今何が売りなのかが一目でわかるようこちらもVMDを活用。綺麗に陳列していても無機質な売場では、購買においてお客の背中を押すことはいまの時代は難しい。勝手に売れる店ではなく、選ばれる店、売場づくりを行なっている。

 このようにトライアル新宮店は、テクノロジーと人手の両面をフル活用して、リアル店舗ならではの価値、楽しさを提案する店となっている。

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記事執筆者

阿部 幸治 / ダイヤモンド・チェーンストア編集長

マーケティング会社で商品リニューアルプランを担当後、現ダイヤモンド・リテイルメディア入社。2011年よりダイヤモンド・ホームセンター編集長。18年よりダイヤモンド・チェーンストア編集長(現任)。19年よりダイヤモンド・チェーンストアオンライン編集長を兼務。マーケティング、海外情報、業態別の戦略等に精通。座右の銘は「初めて見た小売店は、取材依頼する」。マサチューセッツ州立大学経営管理修士(MBA)。趣味はNBA鑑賞と筋トレ

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