店舗オペレーションに おける安全確保

2018/12/29 00:00
    ダイヤモンド・リテイルメディア 流通マーケティング局
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    働く人に安全で安心な店舗対策が人手不足対策と効率的なオペレーションを実現する

    労働災害というと、建設業や製造業で起きるとイメージするかもしれない。しかし、これらの業種では、減少傾向が続いている。一方で、労働災害のイメージが低い小売業においては、減少傾向が見られない。このような現状は、人材確保の面でもマイナス要因となる。そこで店舗運営において、重要なポイントとなる安全管理について、職場における労働者の安全および健康確保に関する研究を行っている労働安全衛生総合研究所に話を聞いた。

    ※この記事は「ダイヤモンド・チェーンストア」2018年3月15日号に掲載した内容を再編集したものです。

    減少の兆しが見えない小売業の労働災害

    図表1 休業4日以上死傷災害の推移
    図表1 休業4日以上死傷災害の推移

    日本の労働災害は、全体的に減少傾向にある。危険が多く、発生件数が多いというイメージがある建設業や製造業では大幅に減少している。厚生労働省の調査(図表❶)によると、平成19年から平成29年の間で、製造業は26.3%、建設業は27.1%減少したものの、小売業は11.5%の増加となっている。

     

     労働安全衛生総合研究所建設安全研究グループ部長の高木元也氏は「小売業の実態調査を行いましたが、店舗の多くは『お客さまのための安全』はあっても、『働く人のための安全』は、あまり見受けられなかった」と話す。これは、建設業や製造業に比べ、職場環境の危険度が低いと思い込んでいるためと考えられる。しかし、人間は誰でも、ついウッカリしたり、あわてたり、注意散漫になったりする。そしてこれらが時に、事故を招く。いわゆるヒューマンエラーだ。

     

     ヒューマンエラー対策には滑りにくい床材を使用するなどの設備的な対策と管理的な対策があり、管理的な対策のひとつが従業員教育だ。従業員に職場に潜む危険の芽を見つける力を身につけてもらうことが必要で、そのためには、製造業、建設業で始業前に行われている危険予知活動(KY活動)が有効だ。

     

    だが、現実には店舗では、このような安全活動を行うという組織風土がほとんどない。理由のひとつとして、シフト制による勤務体系がその実をいっそう困難にしている。「小売業は、衛生管理に対する意識は高いが、安全管理も同様の水準まで向上させることが必要」(高木部長)。実際、厚生労働省「第12次労働災害防止計画」には、大規模店舗・多店舗展開(チェーン展開)企業などを重点とした労働災害防止意識の浸透・向上が求められている。

    業態特性を踏まえた防止対策が必要

    図表2 小売業の死傷者災害発生状況
    図表2 小売業の死傷者災害発生状況(H29)

    小売業の死傷災害を事故の型別(図表❷)にみると、「転倒」が最も多く、次いて、「動作の反動・無理な動作」、「墜落・転落」、「切れ・こすれ」の順に発生している。しかし、これらは、店舗形態やシステム、業態によって異なっている。

     たとえば、包丁による「切れ・こすれ」災害は、セントラルキッチンで調理して各店舗に共同配送するシステムの場合は、あまり発生しない。

     

     また、業態別(図表❸)を見ると、それぞれに特徴があることがわかる。これを踏まえた防止対策が必要となる。

     労働安全衛生総合研究所リスク管理研究センター上席研究員の大西明宏氏は「小売業における作業は、日常の生活とあまりかけ離れたものではないことや、水や油で濡れた床などの環境が当たり前になっていることが問題である」と指摘する。

     たとえば、包丁を使う作業は、スキルが高い主婦でも、家庭とのさばく量の違いや作業スピード、ノルマの違いで事故が起こりやすくなるものだ。また、自己流での作業もケガの原因となる。店舗内の床の清掃は、行き届いていても、バックヤードの床の水や油の濡れは、仕方がないとあきらめている傾向があったりする。

    図表3 主要業態別死傷災害発生状況
    図表3 主要業態別死傷災害発生状況

     

     しかしながら、これらは、しっかりと使用に関するルールを決め、周知を徹底したり、「整理」「整頓」「清潔」「清掃」の「4S活動」を行うことで、未然に防ぐことができる。たとえば、床面であれば、こまめに清掃し、油で濡れた床は、水ではなく、洗剤とお湯を使用して清掃する。靴底も、溝にたまった汚れを取り除くことで、滑らないようにする。バックヤードも作業動線を踏まえた配置を行い、常に整理整頓すれば、転倒防止や落下防止対策になる。

     

     そして、こうしたことは、安全性の向上だけではなく、同時に、作業性もアップすることができるというメリットがある。

    人材確保にもつながる安全対策商品の導入

     大西上席研究員は「4S活動とともに、対策商品を導入することで、より安全効果を高めることができる」と話す。包丁やカッターによる「切れ・こすれ」は、安全性の高い作業手袋の着用を徹底することで、刃にふれてもケガをすることがなくなる。やけど防止にも熱に強い手袋を採用することが考えられる。床の清掃とともに、耐たいかつせい滑性のある安全靴などを履くことで、転倒事故防止につながる。

     

     高木部長は「労働災害の防止に取り組めば、結果として店舗オペレーションの効率化と人材確保を図ることができる」と話す。労災による従業員の長期休暇を補うための人件費の必要がなくなる。そして、パートタイマーは地域の消費者でもあることから、安心して働ける環境が口コミで広がることで、「あの店はいい」と人材確保がしやすくなる。ひいては、4S活動効果によって、店内の安全衛生管理意識向上にもつながるはずだ。

     

     これらの安全管理は、個店単位ではなく、チェーン企業本部が専門部署や担当者をあて、全社的に徹底して取り組むことが不可欠である。「建設業や製造業の企業には、安全管理の専門部署がある。そこでの取り組みが現状での労災発生率の大幅減少という結果を生み出している」と高木部長は語る。

    小売業における労働災害の例

    小売業における労働災害の例
    出典:労働安全衛生総合研究所「小売業の労働災害を防止しよう」

     

    働く人にとって、安全で安心な店舗オペレーションを、もう一度、点検・検討してみたい。

    参考資料ダウンロードはこちら(PDF)

    高木元也氏
    (独)労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
    建設安全研究グループ
    部長 高木元也氏
    大西明宏氏
    (独)労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所リスク管理研究センター
    上席研究員 大西明宏氏

     

     

     

     

     

     

     

     

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