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野外空間使って焚き火も体験!開業7年で全国に浸透した「唯一」のアウトドア用品専門SCとは

東京都昭島市に2015年、全国初の“アウトドア用品専門”のショッピングセンター(SC)、MORIPARK Outdoor Village(モリパークアウトドアヴィレッジ)が開業した。週末になると幅広い世代が来訪し、駐車場には関東以外の車も見かけるにぎわいぶりを見せている。この夏公開されたアニメ作品「映画『ゆるキャン△』」の作中にも描かれ、ファンが“聖地巡礼”する現象も起きた。コロナ禍を契機とするアウトドア用品業界の活況が伝えられている中、にぎわいの要因はブームによるものなのか、ほかにも理由があるのか。運営会社である昭和飛行機都市開発(昭島市)に話を聞いた。

駅から5分 クライミングウォールと池があるショッピングセンター

 木陰の小路を進むと、突如開けた視界に、巨大な「クライミングウォール」と、カヤックが旋回できるほどの「小さな池」が飛び込んでくる。敷地に一歩足を踏み入れた瞬間からアウトドア気分が味わえる空間のデザインがモリパークアウトドアヴィレッジの特徴だ。説明されなければ、かつてここが戦前から続く飛行機工場の跡地であったことに気づくことはないだろう。

 高原のリゾート地やキャンプ場のようなしつらえだが、れっきとした「ショッピングセンター」だ。売り場を広く確保し、多く売ることよりも、来訪者に開放的な気分でアウトドア用品を紹介し、アウトドアスポーツに親しみを抱かせるかに力点が置かれた空間づくりがなされている。

 モリパークアウトドアヴィレッジは2万1,000の敷地のうち、店舗用地は6割程度に過ぎず、売り場の延べ床面積は約8,700ほど。そこにキャンプや登山などアウトドアスポーツの分野で世界有数のブランドやヨガスタジオなどのテナントが15あまり入居する。ほかに、キャンプが体験できる芝生広場、オリンピックなど国際大会の仕様に適合した3種の競技用クライミングウォールを設置し、国際大会を開いたり、日本の有力選手のトレーニング場所として提供してきた。

 

敷地にはカヤックに乗れる池やクライミングウォールを設置しており、体験しないうちから思わず自分のアウトドアライフをイメージしてしまう

 モリパークアウトドアヴィレッジは当然、訳あり品や旧作を廉価販売するアウトレットモールではなく、各ブランドの新作が並ぶSCだ。従来、東京でアウトドアのブランド商品を探すなら、原宿やお茶の水など都心に点在するショップを「はしご」するのが定番といえたが、モリパークアウトドアヴィレッジはワンストップで人気ブランドのキャンプや登山の専門的なグッズ、アパレルの新作をチェックすることができる。テントのように大型の商品も組み立てられた状態で並んでおり、カヤックも水の上で試乗できるのだ。 

 

飛行機メーカーの不動産部門から分社 毎年右肩上がりの売上

 モリパークアウトドアヴィレッジを運営するのは昭和飛行機都市開発。前身の会社は1937年設立の飛行機や関連部品などのメーカーで、戦後に米軍接収施設が返還されたことを機に1969年以降、ゴルフ場をはじめ、テニスクラブなどを開設してきた。1984年から昭島駅北口エリアで大型複合施設「モリタウン」をオープンし、段階的に施設を拡充させ、現在はショッピング、グルメ、リゾート、エンターテインメントを集積し、約2300台収容の駐車場を備えた郊外型ショッピングモールへと発展した。そこへ2015年3月にモリパークアウトドアヴィレッジが加わり、2021年4月にエリア全体を「東京・昭島モリパーク」としてリブランディングしたことにより、近隣に数ある郊外型ショッピングモールと一線を画す特徴が生まれた。

 同社理事で商業施設部長の高橋佐登志氏によると「売上はオープン以来毎年、右肩上がりで伸びている。コロナ禍で2カ月休業し、一時は停滞したが、コロナ禍はアウトドアにとっては追い風だったため、キャンプブームによって休業明けの売上は5割増しになった」という。

 来訪者の反響も好意的で、体験から消費への行動もみられるという。

「お子さまが丸太の上を飛び跳ねるなど、楽しんでいる姿を見るとこちらも嬉しい。冬は焚火と焼きマシュマロの体験イベントを開催しているので、お子様連れにも良い体験を提供できていると感じている。体験後に、焚火台を購入される方もいて、モリパークアウトドアヴィレッジは『コトからモノへ』を体現しているSCだと思う。

モリパークアウトドアヴィレッジも描かれたアニメ映画の公開に合わせて屋内広場に設置されたフォトスポット

「われわれの目的はそれぞれのブランドが世界観を示すこと。売上は大事だが、それよりもテナント各社がブランドイメージを展開し、アウトドアのファンを作っていきたいと考えている。この環境を楽しみながらモノも買っていただくようなコンセプトで商売している」(高橋氏)。

敷地内で焚火、カヤック、クライミングを体験

 高橋氏が続ける。

モリパークアウトドアヴィレッジにはモリパーク全体への広域集客を期待している。実際に連休や夏休みは東北や九州からも足を運んでもらっている。モリパークを知ってもらうスイッチの役割を果たしている。

 オープンから7年が過ぎ、遠方からの客が増え、知名度も上がったと実感している。遠方から来る客は目的を持っているので、特に客単価も買上率も高い。

 オープンにあたっては、これからの時代は高齢の方がもっと手軽にハイキングやトレッキングを楽しむのではないかと予測し、広大な所有地の一部にアウトドアに特化した商業施設を置こうと開発した。昭島市は奥多摩エリアの登山コースまで1時間程でアクセスでき、都心から奥多摩に向かうアウトドア愛好者の“ゲート”としてマッチする。

 モリパークアウトドアヴィレッジは『山の中を歩いていたらその中にお店があった』という雰囲気や、緑も豊富で広場なども作っているのが特徴。

 クライミングやカヤック、焚き火などアウトドア体験が実際にできることも強みだ。SCの敷地内で唯一、裸火(はだかび)が許されている。私の知る限り、これだけ有名なテナントが集い、オープンスペースで本格的な体験を通じアウトドアを好きになり、モノを買っていただく仕組みをもつSCはほかにないと思う」。

「山の中を歩いていたらその中にお店があった」を体現したMOV。ウッドデッキに丸太ベンチが点在し、テナントをゆったり回遊しやすい動線設計となっている

奥多摩の登山コースまで電車で1時間 立地特性を生かした宣伝も

 モリパークアウトドアヴィレッジが立地する昭島駅は、奥多摩エリアのキャンプ場や山々に向かう愛好者が利用する青梅線や五日市線が停車する。その車内広告や御岳(みたけ)山にあるケーブルカーのヘッドマークに定期的に広告を掲載する一方、敷地内には奥多摩エリアの観光地などのパンフレットやマップを置き、相互送客を狙ったPRを行っている。

 この夏は初心者向けに「はじめてのキャンプ教室」を開催したほか、屋内広場に全長75mほどのプールを設営しカヌー体験会も開いた。コロナ禍の影響もありキャンプ場には初心者が来訪するようになった一方で、「マナー問題」も起きている。モリパークアウトドアヴィレッジではキャンプの楽しみ方を伝えながら、単にテントに泊まることにとどまらず、テーマをもって楽しむこと、キャンプは目的ではなくツール(手段)だと発信している。典型的なツールと言えるのが「防災」だ。高橋氏は「キャンプは災害時における、火の起こし方や食事の作り方などに役立つということをアピールしている」と有用性を指摘する。

 たまたま遊びに来た時に、キャンプや焚き火、アウトドアスポーツを体験し、興味をもつ人を増やしながら、モノを売っていくモリパークアウトドアヴィレッジ。「体験会などがきっかけでカヌーやクライミングに興味を持ってもらえるかもしれない。日頃体験する機会が少ないものを提供し、これをきっかけに将来オリンピック選手が出てくるかもしれないという夢を持ってイベントを行っている。一度やってみると面白いね、というものをどんどん提供していきたい」。体験が消費を喚起するアウトドア用品と、立地の特性を最大限に生かした運営が強みとなっている。

MOVにはアウトドア愛好者ならずとも目にしたことのある有名ブランドの直営店が軒を連ねている