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多様な価値観への対応を進める巨艦・阪急うめだ本店の“大仕掛け”とは

「東の伊勢丹、西の阪急」と称される、西の百貨店の雄である阪急阪神百貨店(エイチ・ツー・オー リテイリング グループ)。その旗艦店である「阪急うめだ本店」は、「楽しさ世界No.1の劇場型百貨店」を標榜し、リアル店舗の魅力の磨き上げを図る一方で、ITを活用したOMOを進め、Z世代などの新しい客層の開拓にも余念がない。そうした事業戦略の新たな芽となるのがD2Cブランドと協業したライフスタイル提案や、サステナビリティ対応型売場の開発。多様な価値観への対応を実現する、新たなコラボレーションを探っている。

あらためて“中間層”とつながる

阪急うめだ本店外観

 コロナ禍を契機に、ECの普及といったデジタルシフトが急ピッチで進み、“リアル店舗”の代表として、存在価値を問われている百貨店。そんな中、大手百貨店の阪急阪神百貨店の旗艦店である阪急うめだ本店は、「楽しさ世界No.1の劇場型百貨店」を目指すとして、ラグジュアリーブランドの限定商品、期間限定のイベントなどを展開し、リアル店舗の魅力を高める戦略を打ち出している。

 その一方で、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の流れに対応した、新しい戦略にも乗り出している。核となるのが、リアルとオンラインのチャネルを融合し、シナジーを追求する「OMO」(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)だ。阪急阪神百貨店 取締役専務執行役員・阪急本店 本店長の佐藤行近氏は、次のように説明する。

 「新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年以降はもともと進めていたデジタル化が急加速した。そして現在では、DXのビジネスモデルが、新たなフェーズに入っている。OMOによって、お客さまの利便性を高めたり、快適な買い物環境を創出したりすることで、お客さまとのつながりをより強固にしていこうと考えている」

 阪急うめだ本店は、西日本の富裕層に強いことで知られているが、客層のもう一つの柱は近畿圏の中間層。阪急沿線に住むアッパーミドルを中心とした「阪急の固定ファン」が、衣食住トータルで利用し、同店を支えている。ところが、「かつては中間層に支持され、売上の大きな柱だったミドルレンジの国内ファッションブランドの多くが、勢いを失いつつある。価格と価値のバランスに違和感を感じられているのと、『同質化(みんなが持っているものを持ちたい)』から『自分らしさを大切にする』価値観への変化が背景にある

100坪にD2Cブランドを集積

 中間層にも2つのグループがあり、一つは結婚や子育てなどのライフイベントがあるミレニアル世代。もう一つは、上質な生活スタイルを持っているアッパーミドルの客層、いわゆる“阪急ファン”。「これらのお客さまとのつながりをOMOの取り組みによって強固にしていきたい」と佐藤氏は考えている。

 中間層を狙ったMDの新機軸の一つが、いわゆる「D2Cブランド」の“リアルショップ”の開設だ。D2Cブランドはインターネット発、EC専業のため、リアルの販路を持たないのが普通。しかし、OMOが進むにつれて、リアルとオンラインの販路を併用するブランドのほうが、売上が数倍に伸びるという実態もわかってきた。

 おりしもさらなる成長のため、リアルの販路を求めるD2Cブランドも増えてきた。長年の信用がある百貨店であれば、新興のD2Cブランドにとって、リアルの出店とブランディングに、まさにうってつけというわけだ。「お客さまにとっては、オンラインの商品を実際に手に取ることができるし、D2Cブランドにとっては、リアルのお客さまの反応を確かめられると好評。しかも、販売実績も大きかった」(同)

 阪急うめだ本店4階フロアでは、約20坪のイベントスペース「コトコトステージ」で、D2Cブランドのポップアップを期間限定で展開してきたが、好評を受けて、2022年4月、週替わりでD2Cブランドを紹介する約100坪の常設の売場「IT  CONTEMPORARY」を開設した。「D2Cブランドの人気の理由は、インフルエンサーのライフスタイルや価値観に、ユーザーが共感しているからだ。そのため『IT  CONTEMPORARY』は、SNSを基点にファッションだけでなく自らのライフスタイルを発信する作り手への“共感”を大切にするお客さまをターゲットにしている」(同)

2023年に自然共生型売場も開設

 阪急うめだ本店は、事業戦略として、①グローバルに通用するスペシャリティコンテンツの拡充、②オンライン・オフラインの区別のない価値ある顧客体験(ジャーニー)の提供、③サステナビリティ(持続可能性)の推進を掲げている。D2Cブランドをリアルに体験できる売場は、②に該当すると言えるが、価値観の変化に対応した、もう一つのMDの新機軸が③を具現化する売場だ。

 「特に今の若い世代は物心ついたときから、カーボンニュートラルなどの社会課題に直面しているためなのか、サステナビリティへの意識が高い。若いお客さまにも来店いただくには、サステナビリティへの対応が不可欠と言える」と、佐藤氏は強調する。

 その一環として、阪急うめだ本店は2023年をメドに、サステナビリティをテーマにした、500坪クラスの新たな売場をオープンする。自然共生型のブランドをはじめ、ジェンダーレスやエイジレスなどを切り口にした、新しい価値観の売場を構築する予定だ。自然派の化粧品や生活雑貨、食品といった商品を幅広く揃え、「ライフスタイル提案型の売場としたい」と、佐藤氏は意気込む。

 中間層だけでなく、得意とする富裕層向けについても、OMOを進めている。例えば、外商ではコロナ禍以降、遠隔地の個人客向けの新たなチャネルとして、LINEZOOMなどのツールを使ったパーソナルコミュニケーションを推進。成果を上げているという。

 また海外の富裕層向けにも、OMOを加速させる。「コロナ禍でインバウンドの来店は当面見込めない。しかし、中国では2021年、寧波市に10万㎡規模のデパートメントモールをオープンし、30代の超富裕層のファンを獲得しつつある。一方で、中国には40005000人の当店のお得意さまもいて、中国人スタッフやネットを介して、ご要望をお聞きし、商品を取り置きしたり、中国までお届けしたりしている」(同)

阪急阪神百貨店 取締役専務執行役員・阪急本店本 店長の佐藤行近氏

 百貨店の伝統と革新をハイブリッドしたOMOは、百貨店業態の未来形の一つかもしれない。阪急うめだ本店も、2029年の創業100周年に備えて、新しい百貨店のあり方を模索しながら、次の100年に向けた布石を着々と打ち出している。