データで見る流通
バブル期と現代の消費データで検証する若者の「アルコール離れ」「外食離れ」の実像

2016/10/15 00:00
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    文=久我尚子

    ニッセイ基礎研究所生活研究部 主任研究員

     

     昨今よく話題となる若者の「○○離れ」に関連して、「アルコール離れ」や「外食離れ」などを耳にする機会も多い。果たして実際はどうなのか。データから検証してみたい。

     

    は、総務省「全国消費実態調査」のデータを用いて、2014年の若者と、消費意欲が旺盛だったバブル期(1989年)の若者の食費の内訳を比較したものだ。30歳未満の単身勤労者世帯の食費を見ると、89年も14年も、男女とも食費の中で最も多いものは「外食」だが、その支出額は大きく減っている。

     

    図●30歳未満の単身勤労者における食費の内訳の変化

     

     「外食」に加えて、男性は「果物」や「酒類」も減る一方、調味料や各種食材、「調理食品」は増えていることがわかる。女性も、「果物」や各種食材は減る一方で、「調理食品」が増えている。

     

     つまり、男性は外食を減らして中食と自炊を増やすように、女性は外食と自炊を減らして、中食を増やすようになったということだ。その結果、男女間の食費内容の違いは薄まり、同じような食生活を送るようになっている。この背景には、女性の社会進出が進んだことで、男性と同様のワークスタイルを持つ女性が増えたことがあるのだろう。ちなみに、「果物」の支出額が男女ともに減少し、「フルーツ離れ」の傾向が見られる。これは、買い置きできないことや調理の手間、価格の高さなどを理由に、国民全体で見られる傾向である。

     

     さて、外食費の減少には、節約志向や健康志向といった背景もあるだろうが、社会的変化も考慮する必要がある。90年代以降、外食産業は価格競争が激化し、サービスも多様化した。今では、「安くておいしい」選択肢が増え、500円もあればさまざまなジャンルでおいしいものが食べられる。

     

     「アルコール」については、30歳未満の単身勤労者世帯の男性では支出額が減っているが、女性ではもともと支出額が少ないためか、わずかな減少にとどまる。しかし、厚生労働省「国民栄養・健康調査」を見ると、20代の飲酒習慣率は、03年から14年にかけて男性は20.2%から10.0%へ、女性は7.0%から2.8%へと半減している。やはり、現代の若者では「アルコール離れ」が進んでいるようだ。

     

     なお、男性では30~50代の飲酒習慣率も低下しており、中年男性でも「アルコール離れ」の傾向が見られる。いわゆる「メタボ健診」などが一般化し、中年男性でも健康志向が強まっているのだろう。

     

     飲酒習慣率が減る一方で、アルコール度数の低い酒類やノンアルコール商品の消費量が増えている。これらを考慮すると、若者の「アルコール離れ」の背景には、他年代にも見られる健康志向の強まりや、趣味嗜好の多様化などがあるのだろう。

     

     結論として、現代の若者の間では「外食離れ」「アルコール離れ」の傾向が確かに見られる。しかし、よくイメージされるような「節約志向の高まり」だけがその理由ではない。若者の消費動向を十分に捉えるためには、産業社会の変化やあらゆる年齢層の趣味嗜好の変化も考慮すべきである。

     

    (「ダイヤモンド・チェーンストア」2016年10/15号)

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