世界で最も成長している中国マーケットに対するウォルマート・チャイナの戦略
中国の国土は非常に広く、民族や文化的にも非常な多様性を持っている。そのためお客さまのニーズも非常に幅が広い。その中国にウォルマートは1996年に世界で6カ国目の海外市場参入を果たした。中国市場に進出した最初期の海外グループの中の1社である。それにより、成長する中国市場で健全なビジネス基盤を構築できたと考えている。現在、ウォルマート・チャイナは中国全土に129店舗を展開しており認知度も非常に高い。また、現地の小売業者であるトラストマートに35%資本参加していて、その店舗が全国101店舗ある。それらにより、中国では数少ない全国的なブランドに成長した。
2008年はウォルマート・チャイナにとっても非常にチャレンジングな1年だった。まず冬は中国の歴史でこれまでにない大寒波が襲い、5月12日には四川大地震が発生した。また北京オリンピックの余韻も冷めないというのに世界的な金融危機も襲ってきた。消費者の行動にも大きな影響を与えたが、その中でウォルマート・チャイナは記録的な業績をあげることに成功した。その要因はいろいろあるが、ひとつにはお客さまからの信頼の高さをあげてもいいだろう。
中国市場は多様性のある市場だが、ウォルマート・チャイナは4つの業態であらゆるニーズに応えている。ひとつはスーパーセンター、それからネイバーフッドマーケット、サムズ・クラブそしてスマートチョイスの4業態だ。その中でもスーパーセンターが中心的な業態であり、延床面積1万6000~2万㎡の店舗でワンストップショッピングが可能なように商品を揃えている。中小都市では、このスーパーセンターがマーケットの中心になっている。近代的な店舗で、小売業の経営形態として優れた見本にもなっている。エブリディ・ロープライスがウォルマートの特徴だが、お客さまは価格だけでなく店舗環境やサービスも重視している。
こうした状況はわれわれが価格をリードしていくうえで非常に有利である。景気後退の環境で勤労者世帯を支援するために、昨年11月から生活必需品の価格を20%引き下げており、これを継続している。中国は広くニーズもさまざまで店舗によって品揃えも異なっている。流通ルートは3ヵ所の物流センターを経由する商品だけでなく現地調達の生鮮食品などもあり、これが地域の農家や製造業など地元経済を押し上げる効果も生んでいる。これは一例にすぎないが、サプライヤーとの関係も常に気を配り良好な関係を維持している。サプライヤーもパートナーシップを意識しており、過去5年間のサプライヤー満足度調査では常にウォルマート・チャイナが上位を占めている。
企業の発展に重要なもうひとつの要素は人材開発。とくに小売業の場合、人材への投資は不可欠だ。中国全体では経済成長に人材供給が追い付いていない実態があるが、ウォルマート・チャイナでは若手の育成を含めて非常に効率的に人材開発が進んできた。中国でわれわれが成功している要因のひとつには、この人材基盤を持っていることをあげてもいいだろう。先ほどあげた3つの物流センターはすべて現地の人材で運営されている。新規開店というチャレンジングな場面でも、それをこなす中国人の若い人材が育っている。また、中国人によるマネジメントで、より中国市場のニーズを把握しやすいというメリットもある。
エブリディ・ロープライスだけが成功の要因ではない。もうひとつそれを実現するためのエブリディ・ローコストを忘れるわけにはいかない。145店舗では生鮮品の現地調達を進めているが、これもタイムリーにニーズに応えられるとともに効率も非常に高い。もうひとつ重要なのはサステナビリティへの配慮である。環境対応へのコミットメントは、優れた企業市民として、また傑出した企業経営には不可欠なこと。ウォルマートは再生可能エネルギーの100%利用、廃棄物ゼロ、サステナビリティを担保する製品の販売を掲げており、ウォルマート・チャイナも同様の活動を進めてきた。それにより2010年までに新規店舗でエネルギー消費を40%削減、全店舗で水の使用量を50%削減、既存店でも30%省エネを目標としている。こうした環境対策は企業の信頼性を高め、長期的な成長にも重要な要素だと考えている。