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「高質食品専門館」をめざす阪食の成長戦略について

株式会社阪食 代表取締役社長 千野 和利

新たなコンセプトを新店2店で展開し計画を上回る売上達成

 

 昨年秋のリーマンショック以来、日本の市場環境は大きく変化した。今後の事業成長のための基盤も大きく変化してしまったと言えるだろう。2008年までは20世紀の延長であり、大きく変化した2009年からが本当の21世紀の幕開けと思わなければならないほどの変化である。その中で新しい時代の新しいルール、新しい価値観に対応するためにどのようなビジネスモデルを作っていくかというのが非常に大きな課題となった。

 

 そして全ての流通業態が「低価格」に突っ走っているが、果たしてこれでいいのだろうか。食品においては安全・安心は基本でありそれにプラスしてお客様に納得してもらえる価格というのが必要条件であり、それに加えて充分条件としての新しい付加価値を産み出す努力が必要ではないかと思う。

 

 阪食は阪急百貨店、阪神百貨店の経営統合誕生したH2Oホールディングス傘下の第2の核として育成しているSM事業である。関西を基盤にドミナントと展開しており店舗数は61店舗だが、近い将来にはできれば100店舗に拡大したいと考えている。売上は2000年度に300億円だったが2009年度には3倍以上に成長する。売上を2000億円、営業利益率4%で80億円の営業利益をあげることを当面の目標としている。

 

 そして現在の3ケ年計画では逆風下での成長戦略の推進と不況期を脱出した時の新しい時代におけるビジネスモデルの創造の2点が主要な政策である。そのビジネスモデルの創造の中で阪食のポジショニングについては購買層のアッパーミドルを中心ターゲットとして、「高質食品専門館」を展開する。もちろんアッパー層だけでは2000億の達成は難しいだろう。そこでアッパーミドル層を中心としてさらにアッパー層もミドル層もターゲットに加えていくための戦略を検討してきた。

 

 この1年間プロジェクトチームを作って国内外のSMを訪問し実情を見学し検討を繰り返してきた。何と言っても小売業において一番大切なことは商品政策であり、アッパー層に対するMDの特化軸づくりに加えミドル層に対し阪急グループとして永きにわたりご愛顧いただけるPB商品の開発を押し進めながら低価格ニーズへの対応を図ってきた。そしてプロジェクトチーム検討課題で重要なのは売り場作りの3つのコンセプトだ。まず商品の専門性を高めること。つまりはMDの専門性の向上とその商品をどのような空間で売るのかというVMDの検討である。二つ目はライブ感。売り方も工夫しお客様との距離を縮め単に商品を並べる、あるいは加工して販売するというやり方から、できる限り人を介在させることで昔の市場の雰囲気を演出したいと考えた。店舗にとって商品は大事だが、店舗における差別化も必要だし、癒しや潤いを演出することも重要だと考えた。当然の事ながら売場におけるライブ感演出の為の人件費増大を防ぐ為にもバックヤードの徹底的な仕事の見直しは不可欠である。最後は情報発信の場としての売場づくりの工夫を如何にするかである。

 

 当社グループの長期的且つ重要な命題の1つが阪急のファンづくりと固定化である。その為には常日頃の食にまつわる安心・安全を基軸としたあらゆる情報を様々なツールで顧客に発信し続けなければならないし、その事が食にたずさわる企業の使命だと感している。

 

 そうした3つのコンセプトを実際に展開しているのが7月にオープンした千里中央店と8月オープンした神戸の御影店である。結果から言えば、2店とも当初の計画を上回るほど売上を伸ばしている。専門性を高めるという店ではコーヒー豆を売るコーナーにはPOPや販売員の説明でおいしいブレンドを案内することや、ワイン売り場では500円の商品から5万円の商品まで揃えている。SMで5万円のワインが売れるのか、という疑問もあったが高価なワインを売る空間を作ることで実際に売れている。千里中央店に鮮魚売り場は産地直送の魚を扱い、1本ものから刺身、焼き魚、最終的には寿司に加工することで売り切る仕組みにした。精肉販売では牧場と提携し新鮮な肉を販売することに加え、加工食品も同じ場所で売っている。

 

 また、鰹節の売場はグラム単位で量り売りをし、併せて農産品もシイタケやトマトなどパックするのではなく必要な量を量り売りすることで好評だし、マグロの解体販売もお客様の目の前で見やすい位置で行うように工夫した。そうした販売の中で店員とお客様の会話が生まれてきている。こうしたコーナーではPOPも手書きにすることで市場の雰囲気を出している。

 

 新店では店舗内にキッチンスタジオを設けてスタッフや地元レストランのシェフによる料理教室も1日2回、週4回必ず行うなどで集客も好調だ。こうした一連の改革で阪食のファンが増えている。今は不況というトンネルの中にあるが、いつかそれを抜けた時に大きな成長につながる基盤を今のうちに作っておくということを着実に実践していきたい。