ダイヤモンド・リテイルメディアとウイングアーク1stは、2017年7月20日に都内でセミナーを開催。ユニークな取り組みで先進的といえるデータ活用を行っている良品計画の担当者を招き、成功するデータ活用術についての事例などを紹介した。
【オープニングセッション】
小売業のデジタル戦略トレンド
~加速する小売ビジネスのデータ活用~
ダイヤモンド・チェーンストア誌 および
ダイヤモンド・ドラッグストア誌編集長
下田 健司
【特別講演】
顧客行動を可視化
MUJI passportで実現するデータ活用戦略
株式会社良品計画
Web事業部 システム担当課長
山際 高志 氏
【クロージングセッション】
7500万台の携帯運用ビッグデータを活用し
効率的な店舗運営・開発を!
ウイングアーク1st株式会社
データプラットフォーム事業開発部
馬木 教好 氏
小売業のデジタル戦略トレンド
~加速する小売ビジネスのデータ活用~
顧客を中心としたデータ活用へのシフトが活発化
ダイヤモンド・チェーンストア誌 および ダイヤモンド・ドラッグストア誌編集長 下田 健司
オムニチャネル化を経て新たな段階へ
2000年前後から流通業界においても、IT導入やデジタルの活用がはじまった。業務の効率化、省力化という側面と、販売戦略および顧客とのコミュニケーションの活性化という2つの側面を目的に、進化・活発化してきた。そのなかで、2011年に全米小売業協会がオムニチャネルに関するレポートを発表。日本でも注目を集め、オムニチャネル化への積極的な取り組みがはじまった。
オムニチャネルの象徴的な動きとしては、2015年のセブン&アイ・ホールディングスのオムニチャネル戦略が挙げられる。各グループを一つのECサイトに統合した「オムニ7」の展開である。1年が経過した昨年、その効果が見えにくいということから、ECサイトへの注力から顧客中心の「一人ひとりを捉えるきめ細かなサービス」への変換がはじまっている。スマートフォンとSNSの普及により、消費者の情報入手や購買行動の変化・多様化への対応が求められてきている。
2013年頃から、首都圏の食品スーパーであるライフやヤオコー、マルエツなどが、自社の会員カードの導入を積極的に展開。そこから得られる顧客データを分析し、活用する取り組みを積極的に推進している。これも、顧客購買行動に注目した動きである。
デジタルの新技術の活用としては、RFIDやAIが挙げられる。RFIDは、ユニクロの決済利用やビームスの棚卸、セブン-イレブンの納品検品など、作業の簡略化や効率化への施策となっている。AIは、PDCAの高速化であり、アスクルでは、配送システムに導入して最適な配送ルートの構築に利用している。紳士服のはるやまでは、顧客に合わせたDM作成のために、顧客ごとに求められる商品をセグメントして掲載するヒット率の高いDMづくりに利用している。
このように、チャネルありき、データありきではなく、それらをどのように活用していくかという新しい段階に入っているといえるのではないだろうか。
企業アンケートから見えてくるIT・デジタルの課題
弊社が発行する「ダイヤモンド・チェーンストア」誌で、2015年に実施した小売業売上高ランキングの上位200社を対象とした「IT・デジタル活用動向調査」がある。
「情報システム上の重点課題は何か?」との質問には、7割以上の企業が「導入したITの社内での定着・活用促進」と回答。新しいシステムを導入しても、その後、社内に浸透させるのに時間がかかっている。
「情報システム整備によって実現したいことは何か?」との質問の回答は、「顧客情報・販売情報の分析環境の改善」と「店舗の業務の省力化・効率化」が、ともに84%と圧倒的に高かった。「顧客情報・販売情報の分析環境の改善」は、毎回の調査でも関心が高まっており、IT・デジタル活用の主要課題となっている。「店舗業務の省力化・効率化」は、本部と店舗を問わず、人材不足が続いている流通業界においては、関心の高い重要課題となっている。
「今後1~2年でIT新規導入・更新を検討するMD/販促関連システムは?」との質問に対しては、前回の32.4%から64%と上昇した「顧客情報/販売情報分析・活用システム」という回答が圧倒的に多かった。小売業には大量の販売データが蓄積されていることから、MDに積極的に活用したいという意識が強いということである。
このアンケートからも、チャネルありきから、データの価値ある活用へとシフトしていきたいという意識が強まっていることが読み取れる。
顧客中心視点や顧客経験価値によるデジタル活用例
顧客に選ばれる理由となる「新たな価値の創造」への取り組みとなる事例を紹介する。まず、「24時間パルコ」というキャッチフレーズとともに展開しているパルコの公式スマートフォンアプリ「POCKET PARCO」である。「POCKET PARCO」上での「Clip(クリップ)」やリアル店舗を訪れた「Check-in(チェックイン)」、館内のWi-Fi接続、登録クレジットカードによる商品購入で、独自ポイント「COIN(コイン)」が付与されるシステムである。顧客の行動にポイントを付与することで、来店頻度を上げ、継続的な買い上げを促進している。
コープさっぽろでは、1998年からメーカーにPOSデータを全面的に開示し、「MD協議会」を実施している、2014年から「分析力養成講座」を開講するなど、メーカー向けのデータ分析の勉強を実施することで、一丸となったMD戦略を推進している。
店舗や売場そのものが顧客とつながるメディアととらえ、コミュニケーションを図るという発想の「リテールメディア」を取り入れているのがトライアルである。その一つが、ショッピングカートにタブレットを取り付けた「タブレットカート」だ。特定の売場付近で、商品を使ったレシピ情報の提示やクーポン情報の提示などを行う販促施策であり、新しい取り組みとして注目を集めている。
米国の小売業で、58四半期連続で前年同期比での増加を達成しているクローガーは、購買行動の把握だけでなく、顧客の深層心理まで追求するカスタマーサイエンスに着目した顧客理解を推進。これは、かつての商店街の精肉店などが、顧客の家族構成や嗜好まで把握して、商品提案をしていた買物体験の再現である。その結果、より高いロイヤルティが戻っているという。
これらの活用事例は、「顧客経験価値=カスタマーエクスペリエンス (Customer Experience:CX)」の向上が目的となっている。
ECの動向と未来はシームレス化がキーワード
ECの動向での注目は、食品ECである。日本でも展開をはじめた「Amazonフレッシュ」は、温度管理や鮮度へのこだわりを訴求している。さらに、セブン&アイ・ホールディングスもアスクルと業務提携を行い、生鮮食品のEC「IYフレッシュ(仮称)」を開始すると発表している。これらは、「食」のボーダーレス化であり、「いつでも、どこでも、日常使いのEC」という、第2世代ECといえる。
スマートフォンとSNSの普及による購買行動の変化や多様化に応えるために、シームレス化とボーダーレス化が、今後の重要なキーワードになってくるだろう。
顧客行動を可視化
MUJI passportで実現するデータ活用戦略
顧客接点を最大限に生かし、顧客行動の可視化を実現
株式会社良品計画 Web事業部 システム担当課長 山際 高志 氏
「無印良品」ブランドを展開する良品計画は、小売業界でいち早くデジタルマーケティングに取り組んだ企業としても知られている。積極的にデータ活用を推進している同社が、顧客理解とコミュニケーション促進のために活用しているのがスマートフォンアプリ「MUJI passport」である。単なるポイントアプリとは一線を画すコンセプトで開発されており、ユニークな存在としているものが、顧客行動の可視化である。同時に、ECとリアル店舗における相乗効果もアップする同社のデータ戦略を紹介いただいた。
ECと店舗、そして顧客との関係構築に着目
「無印良品」のデジタルマーケティングの歴史は、2000年のネットストア開設にはじまる。当時は、店舗とECは別のものと考えており、ECは店舗が近くにない消費者のための販売チャネルと考えていた。コンスタントにアクセスはあるものの、ECの売上が思うように伸びないのはなぜだろうと考えていた。
その理由を調査することで、ウェブへの来訪動機が判明した。来訪動機の1番目は「買物前の商品チェック」であり、「新商品のチェック」や「キャンペーン情報を見る」「店舗情報を見る」が主なものであり、来訪者の全員が購買のために閲覧しているわけではなかった。そのことに気づき、2004年から戦略を転換して、ネット会員への割引クーポンの配信やプロモーションの告知をするというO2Oの施策を開始した。販促効果はあったものの、それは局所的・部分的な範疇でしかなかった。また、店舗の売上に直結したかどうかを検証することもできなかった。
そこで、店舗とECがそれぞれの短所を補い、相乗効果を高める施策と顧客との良好な関係構築に着目した新たなステップへ進んでいくこととなった。
顧客の購買行動を可視化する「MUJI passport」
スマートフォンの登場により、顧客行動は大きく変化した。SNSで商品などの情報を得て、ウェブでその商品をチェックして、店舗へ行き、購入する。そして、SNSにレビューを投稿する。このように、SNSからウェブ、ウェブから店舗、そしてまたSNSへという動き方である。しかし、従来の方法では、POSデータによる売上やクーポン利用件数などの数値的なデータは把握できるが、誰がどのような経緯をたどって来店したのか、購入後の行動や商品の満足度などの情報を得ることはできなかった。
そこで登場したのが、スマートフォンアプリ「MUJI passport」である。ネットと店舗の区別なく「無印良品」のファンとのコミュニケーションを図り、持続的な来店客数増による売上アップを促進し、さらに、マーケティング施策効果の可視化を主な目的にしたアプリである。
「MUJI passport」の機能の1つに、ポイントプログラムの「MUJIマイル」がある。この「MUJIマイル」は、店舗やネットでのショッピングだけでなく、レビューへの投稿や、「ほしい!」「持ってる」ボタンによるクチコミの拡散、店舗周辺でのチェックインなど、さまざまなシーンでポイントが貯まるように設計されている。チェックインでは、位置情報から顧客の生活圏が把握でき、欲しい商品や購入履歴を見ることで、嗜好がわかる。行動に付帯するさまざまな情報を分析することで、より顧客理解が深まる。商品の購入前、購入中、購入後の行動を含め、顧客の購買行動を可視化できる。このデータを分析、検証することで、データそのものに価値が生まれてくる。
仮説から検証へ。データがあるからPDCAに貢献
「MUJI passport」のダウンロード数は、2017年5月現在で900万人を超えて1000万人に迫る勢いである。末端数は約660万台で、月に1回以上アプリを起動しているアクティブ数は200万人から300万人の間で推移している。
店頭レジで「MUJI passport」を提示するのは約30%であり、売上比率の40~50%を占めている。
この「MUJI passport」によって、POSデータではわからない顧客分析を行っている例としては、キャンペーンにおけるプロセスでの検証が挙げられる。キャンペーン情報の発信時における「リーチ」、その共有に関する「シェア」と「リーチ」、商品チェックの「確認」、そして「購入(+参加・評価)」とそれぞれの段階でデータが確認できる。「MUJI passport」内の商品やイベント情報を発信する「from MUJI」は、アプリ内においてアクション数が最も多いことから、今では、メディア化していると考えられる。顧客の情報ツールとして、コミュニケーション機能を担っているといえるだろう。さらに、イベントやワークショップというコミュニケーションの場に参加している顧客は、来店頻度や購入金額が、非参加者よりも高いというデータも得られている。
膨大なビッグデータを持っていても、その扱い方がわからない。しかし、「MUJI passport」の活用のように、仮説を立てて、実施し、そのデータの分析、検証をすることで、正確で迅速なPDCAが可能となっている。
ITやデジタルデータに詳しくない人も簡単に使えることが重要
「MUJI passport」は、来店前の商品検索、検討、購買、コミュニティーへの参加など、あらゆるシーンで、シームレスに活用できる。店舗とECの区別なく顧客経験価値を高めることに貢献できている。
そのために、あらゆるデータを取ることが可能となっている。アプリを立ち上げた位置情報からわかる店舗別の商圏分析、マイルサービス利用による店舗別の利用状況と競合他店でのアプリユーザーの動向、店舗在庫の確認による行動把握など、顧客視点に立ったマーケティングを可能としている。
さらに、誰もが活用できることが重要である。分析データは、ITなどに詳しくない担当者にも使えるように操作を簡易化・簡略化することが必要である。多くのスタッフでデータを共有するには、クラウド利用が望ましい。いろいろなデータがあるから、いろいろなことがわかるということを全社で認識して活用すること。レジでの「パスポートはお持ちですか?」の一声かけも、各店のスタッフが「MUJI passport」の効果を実感しているから継続できている。
データの価値を高めるには、テクノロジーやツールに頼ってはいけない。「伝えたいことは何か?」「やりたいことは何か?」「そのための情報共有/見える化」という3つを常に意識すること。情報や単に知りたいことを集めても、宝の持ち腐れになってしまう。そうならないために、顧客視点に立ち戻って、今一度、よく考えることが、キーポイントとなっている。
7500万台の携帯運用ビッグデータを活用し
効率的な店舗運営・開発を!
注目されている第三者データ活用の新しいカタチ
ウイングアーク1st株式会社 データプラットフォーム事業開発部
馬木 教好 氏
ウイングアーク1stは、情報システムの構築や活用のためのプラットフォームを提供し、クラウドを軸としたソリューションサービスビジネスを行っている。そのなかで、今注目を集めている第三者データを活用したサービスの提案と提供を推進している。各企業の持っている自社データだけでは、精度の高い分析や戦略立案にも限界がある。高度なニーズにも応えられることから、小売業界での導入がはじまっている第三者データとは何か? 同社の提供サービスである「3rd Party Data Gallery」を通して、効果的な利活用を紹介する。
第三者データ活用の新たなトレンドとは
企業を取り巻く環境の変化をとらえられなければ、ビジネスの成功にはつながらない。人口動態の変化や消費トレンドの変化、販売チャネルの多様化、訪日外国人の増加、気候変動など、これらについて、すべて自社で調査し、データ化をするとなると膨大な経費や労力、時間が必要となる。さらに、時代の変化も加速していることから、短期間での時系列の調査も不可欠となっている。また、自社保有のデータだけでは、客観的な判断にも限界が生じることから、信頼性の高いデータとなる確率は低くなっている。
そこで、注目が集まっているのが第三者データである。小売業に欠かせない要素は「消費者=人」である。平成27年度の国勢調査によると、1920年の調査開始以来、初めて人口がマイナスに転じた。前回調査より約96万人減となっている。しかし、世帯数を見ると約150万世帯の増加となっている。人口や世帯数を都道府県別に見てみると、状況は変わってくる。リアルな店舗運営の場合は、地域特性を知ることが重要であり、変化の事実を把握できなければ、出店計画も、販売戦略も効果的なものにすることはできない。商圏や市場の外部環境分析に採用されているのが、第三者データである。
地域特性を反映したデータ活用のカギとは
より確かな企業戦略の策定には、内部環境分析と外部環境分析が必要である。内部環境分析は、顧客情報やPOSデータ、商品情報、Web・顧客の声など、自社データでの社内分析が可能である。この分析で「何が、どんな人に」が把握できる。外部環境分析は市場分析である。出店やプロモーション施策実施予定のエリアの世帯数・人口やライフスタイル、店舗・施設数などは第三者データを利用して情報を得る。この分析が「ターゲットはどこに?」である。
内部環境と外部環境の総合分析で、客観的な根拠に基づく意思決定を行うことができる。「何が、どんな人に」というターゲットがわかっても、そのターゲットがどこにいるかわからない状況では、何もしていないことと同じになってしまう。
「どんな人が住んでいるのか?」「集まりやすい場所はどこか?」「どんな人が集まっているのか?」を把握するには、目的にあった第三者データ活用が効果的である。会員カードやID-POSデータを利用することも考えられるが、目的にフィットしたデータとしては、サンプルが少ない場合もあり、信憑性や網羅性・継続性に課題があることが多いと考えられる。
携帯7500万台の運用データを基にした行動データを活用
店舗や商業施設、レジャー施設など「消費者」を集客する必要がある場合に知りたい情報は、「どの時期に・どこから・どんな人が・どれぐらい」訪れているのかということである。その把握には、NTTドコモが運用している携帯ネットワークから反映されたデータ「モバイル空間統計」の利用が最適である。国内約7500万台の携帯の運用データ※から、施設周辺や調査エリアの人の動きを把握できる情報サービスとして利用価値が高い。
※ 法人名義の契約データ等を除去して推計
ウイングアーク1stでは、目的や用途によって選べる2つのサービスを用意している。エントリープランでは、全国エリアにおける空間人口分布を俯瞰し、どこにターゲット層が多く分布しているのかを確認でき、詳細に調査するべきエリアの絞り込みができる。エリア内のA店周辺、B店周辺、C店周辺それぞれに、高齢者が多い、若年世代が多い、サラリーマン世代が多いなど特徴分析や昼間人口と夜間人口の比較、世代別の人口分布などを分析でき、自社のターゲット層の多いエリアを重ね、出店計画候補地をピックアップすることもできる。アドバンスプランでは、エントリープランより、さらに詳細な分析を可能とする捕捉が行われている。
第三者データと携帯ネットワークによる行動データを連携することで、ポテンシャルのあるエリアを選定することなどが可能となっている。
第三者データを加工処理することで利便性を向上
第三者データは、各団体や企業が独自の処理を行っているため、統一感がなく、バラバラのデータとなっている。統合して活用することは難しい状況である。そこで、すぐにデータを活用できるように、データ処理、フォーマット化、使いやすいダッシュボードとテンプレートがセットされていることがポイントとなる。
ウイングアーク1stでは、利用用途に応じて選べる3つのデータ提供スタイルを用意している。「ファイル型データ提供サービス」、テンプレートを利用して、簡単に活用したい場合は「クラウド型データ提供サービス」、とりあえずデータを見てみたいという場合は「データコンテンツ閲覧サービス」のクラウド型である。
誰でも簡単に最新の状態のデータを使いたい期間だけ利用できるため、ビジネスチャンスや展開を支援するデータの新しい世界が広がっている。より多くのデータ、詳細なデータ、最新のデータを組み合わせて、自社に最適なデータ分析、検証をすることが、ターゲットである消費者と出会える近道となる。データは持つことではなく、使いこなすことが本来の目的である。
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