ダイヤモンド・リテイルメディア・セミナーレポート
アマゾン時代 リアル店舗の在り方
新しいスーパーマーケット創造2018
同質化、寡占化、ボーダーレス化の進展の中でどう生き残るか

2018/04/24 11:25
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【講演1】

「新しい食空間の創造」~ルクア大阪へのチャレンジ~

大阪・梅田にキッチン&マーケットをコンセプトに新業態を展開


株式会社阪急オアシス
代表取締役会長兼社長
千野 和利 氏

(千野氏は4月1日付で顧問に就任)

 

人口減少、少子高齢化をはじめ社会環境が激変

株式会社阪急オアシス
代表取締役会長兼社長
千野 和利氏

 いまの食品スーパーマーケット業界が抱える課題は数多く存在する。人口減少や少子高齢化といった人口動態の変化、少子高齢化の進行からくる消費の変化、ドラッグストアやコンビニでも食料品の取り扱いを拡大するなどリアル店舗での超業態間競争の激化。また、あらゆる産業で問題化している慢性的な人手不足とそれによる人件費の上昇や働き方の価値観の変化などが挙げられる。さらには19年に予定されている消費増税、インバウンド需要の動向、東京オリンピック/パラリンピックまでの好景気とその後の景気後退など、注意しておくべき問題もある。

 

 2020年代以降になれば、Eコマースの本格的なシェア増大やAI・IoTをベースにした第5次産業革命による産業構造自体の変化も起きる。日本だけみれば人口減少が問題となっているが地球規模では人口爆発と食糧不足が懸念されている。日本は先進国の中でも格段に食料自給率が低くその対策も重要であり、そのための地方創生も一層推進していく必要があるだろう。

 

「なくてはならない存在」「働きがいと誇りの持てる会社」目指す

 阪急オアシスの経営理念は、まず「お客さまにとってなくてはならない存在であり続けること」であり、「従業員にとって働きがいと誇りの持てる会社であること」だ。その実現に向け、2020年以降の「阪急オアシスの新たなブランド戦略」が重要になっていた。中心となるのは「自社にしかない付加価値をいかにつくっていくか」につきる。

 

 そのためには、普通のスーパーとは差別化できる付加価値を持ち、クオリティの高いスーパー業態を確立し、そこで働く社員が常にオリジナリティを求めるという企業風土をつくっていかなければならない。

 

 これまでに阪急オアシスは、NSC(近隣型ショッピングセンター)や都市型新業態の店舗開発、カード稼働会員120万人をめざす顧客政策、グループSPA(製造小売化)の拡充、PB(プライベートブランド)戦略や提携による国内外のネットワーク拡大と共同商品開発、人材雇用と教育の充実などによって企業理念の実現に努めてきた。

 

事業拡大の中で新たな価値創造をねらいに店舗づくりの進化を継続

 もちろん、これまでにも新たな価値創造にチャレンジすることを目的に、その時代のニーズに対応した業態の店舗を展開してきた。

 

 近畿地区は競争がますます激化しており、出店のリスクが高いだけでなく、候補地を探すにも大変な労力を強いられる。その中で、2015年11月に「STORE of THE YEAR 2016」(ダイヤモンド・リテイルメディア社)で1位を受賞した箕面船場店を出店。また、2016年6月には吹田片山店をオープンし、「STORE of THE YEAR 2017」の第2位を受賞している。

 

 さらに17年7月には「STORE of THE YEAR 2018」で1位を獲得したNSC型店舗の伊丹鴻池店をオープンさせている。ここではたとえばドライフルーツやナッツの量り売りや鮮魚売場ではマグロの解体を売りものにしたり、熟成牛肉に力を入れたりといった独自性を打ち出している。

 

 今後は、都市型スーパーの出店にも注力する。2018年4月に出店した中之島店を皮切りにJR福島店、西区新町店、三宮店をオープンさせ、「高質食品専門館」をコンセプトに新規・リニューアルを推進している。

 

 高質食品専門館は、2009年の千里中央店が1号店。カテゴリーワールドを拡充させて専門性を深化するだけでなく、量り売りやマグロ解体販売など洗練された市場に通じるライブ感の創出、食育や料理教室、会員情報誌といったコミュニケーション強化を通じた顧客への情報発信を図っている店舗だ。

 

大阪・梅田の「ルクア大阪」に新業態「キチマ」をオープン

 その発展形といえるのが、18年4月1日にJR大阪駅「ルクア大阪」地下2階にオープンした「キッチン&マーケット」(キチマ)である。大阪・梅田は阪急百貨店などもある激戦区。最初にJR西日本から出店依頼があった時から、ぜひチャレンジしたいと意欲を持った。世界の潮流である物販と飲食を融合させたマルシェ(仏)やメルカトーレ(伊)といった市場【いちば】感覚の活気ある店舗とフードスクエアをつくりたいと考えた。「欧風テイストの市場感と賑わいの両立」に取組み、「キッチンとマーケット」を融合させた。「キチマ」のコンセプトは今後も続けていく方針だ。

 

イタリア20州すべてから取り寄せたワインなどこだわりも満載

 ターミナル駅なので、ビジネスパーソンや観光客、学生などさまざまな人が集まる。そこにイタリアンや鮨、ミートデリなどさまざまな食を提供する。提供の仕方はテイクアウトも可能だし、レストランスタイルやカフェスタイルなどのイートインもできる。「買う! 食べる! 集まる! がここにある。」を謳って300席、スタンディングを含めれば350席を確保してある。

 

 フロアはイタリアの食材を中心にワインもイタリア20州のすべてから取り寄せる「メルカ」、旬の果物や和洋菓子などを集めた「スイーツアットホーム」、産地直送野菜やサラダバー、マグロの解体ショーも行う「フレッシュガーデン」、日本全国の産品を集めた「グルメコーナー」、一からつくり直したクロワッサンをメーンに打ち出した「ラ・プチ・ブーランジェリー」、コーヒーや紅茶から150種のクラフトビールを集めたコーナーも設置した「ミート&イートスクエア」で構成。さらに什器の素材や配置なども綿密に、実験なども行って決め、縦陳列やワゴンも設置するなど欧風の市場感を醸し出すことで差別化を図った。

 

 

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