メニュー

ダイヤモンド・リテイルメディア・カンファレンス2018開催レポート
AI時代の小売業 未来戦略
予測・データ分析力が競争力を高める

流通業のビッグデータ、AI、IoT活用へのシフトが本格化

 

 さまざまな産業界でビッグデータ、AI、IoT活用が言われている。流通業界でも同様だが、少子高齢化や人口減少、市場規模の縮小などの環境変化に直面しているだけに、データ活用は生き残りに重要な施策となる。とくにネットショッピングの台頭などEC勢力に押されがちなリアル店舗を展開する流通業にとっては、店舗ネットワークの存在価値を最大化するためにも、データ活用からAI、IoTの導入は不可欠と言えるだろう。ダイヤモンド・リテイルメディアは2018年5月24日(木)に「AI時代の小売業 未来戦略」をテーマにカンファレンスを開催。これからのデータ活用を模索する流通業界、メーカー関係者など多くの聴衆を集めた。

 

主 催: 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア
協 賛: SAS Institute Japan株式会社

 


【講演1】

「ワークマン データ経営による企業革新」
~データ分析で業務を効率化、収益力を高める~

株式会社 ワークマン
常務取締役
土屋 哲雄 氏


【講演2】

「流通業の生産性改革、需要予測活用戦略(ビッグデータ・AI)について」

アトムス 代表
角田 吉隆 氏

SAS Institute Japan株式会社
ソリューション統括本部
製造・コンシューマーインダストリーソリューション統括部
コンシューマーインダストリーソリューショングループ
マネージャー 井上 義成 氏


【講演3】

「オムニチャネルを起点としたデータ分析アプローチの進化」
~ビッグデータを活用した新ビジネス展開とは~

株式会社 マツモトキヨシホールディングス
営業統括本部 営業企画部長
松田 崇 氏

 


【講演1】

「ワークマン データ経営による企業革新」
~データ分析で業務を効率化、収益力を高める~


株式会社 ワークマン
常務取締役
土屋 哲雄 氏

1000億円企業へ新市場、新業態開拓に着手

株式会社 ワークマン 常務取締役
土屋 哲雄 氏

 ワークマンの売上高は18年3月期で797億円。4~5年後に1000店舗、売上高1000億円を達成することをめざしている。その後は、主力ワーキングウェアの市場が飽和気味であり、新たな市場開拓が必要になる。そこで次の中期計画として、①一般客向けのPB「機能性ウェア」でブランド化を進め、大型ショッピングセンターへの100店舗出店と既存店内での専門コーナー設置などで400億円、②法人用のPBワークウェアを開発し店舗経由の法人営業やネット販売により400億円、③衣料品/シューズベンダー、法人販売/ネット販売企業などのM&Aで200億円をプラスして次の1000億円の売上を達成する考えだ。

 

 これまでの5カ年計画では、データ経営のインフラ整備を進めるとともに全国でドミナント化を完成し、新業態の方向性を打ち出してきた。データ経営による「売れる品揃え」により全都道府県でのトップシェアをほぼ実現した。さらに出店に限界傾向が出てきたため、新業態として法人営業や一般客向けの高機能ウェアの開発も進めてきた。そして社員に対しては生産性向上の見返りとして、5年で100万円の年収アップを実現した。

 

 商品に関しては防寒性を重視した低価格のアウトドアウェア系ブランド、動作性を高めたスポーツ系ブランド、防水性を高めたレイン系ブランドを投入。アウトドアウェアでブランド品の1/2、スポーツで1/3以下の低価格を実現。一般客向けの3ブランドの売上は3年続けて倍増している。低価格の秘訣は、仕事用にも使えるので10万着単位で量産でき、飽きのこないベーシックなデザインでロングライフのため翌年も定価販売できることだ。

データ経営の効果を確認してさらに発展拡大狙う

 新たな市場開拓や新業態への進出で重要になるのがデータ経営である。これまでの様に勘と経験が通じないからだ。当社は現在、ワークウェアに関しては個人向け市場ではダントツのNo.1だが、未着手の法人市場はその2倍の規模がある。法人向けについては、10年継続保証、供給保証(99.9%のサービス率)とネット販売にも定価で負けない低価格PB品が必要だ。現在までに4種類のワークウェアを発売し、本年秋までに3品種を追加して年間320万着販売する法人シリーズが完成する予定だ。法人ビジネスを順調に立ち上げるためには統計的に欠品を起こさない生産計画を立て、安全な在庫量を決定していく。

 

 FC展開する当社では、店舗発注は本部の仕事で店舗は販売や接客に特化するという方針で事業運営を行っている。データによる自動発注を進めるため、全社でデータを活用するための教育を行ってきた。まず重視したのは「広く浅く」データ活用を普及させることで、突出した人材を育成するよりも全体の底上げをねらった。自信をつけさせるため、繰り返し行われるデータ分析講習のあとの試験では平均で90点が取れるようにしている。

 

 これまで5年間のデータ経営を推進して得られた結果は、建設作業者が減少する中で前年比売上が好調に推移(前期は7.3% 増)しているだけでなく、欠品率の大幅改善につながった。社内的には上意下達型からデータを基に活発に議論ができる会社になった。さらに売上が伸びることで店長がSVの提案を聞くようにもなった。苦労した点として、使いこなせているのがPOS分析のみで本格活用には時間がかかっていることや、成長の要因としてデータ経営がどれほど寄与しているか定量化できないことがある。ただデータを基にしたコミュニケーションの活発化や分析による提案の増加などは成果として挙げられるだろう。

ベンダー判断の自主納品分を全量買い取る「善意型SCM」

 当社は日本一標準化が進んだ小売業だと思っている。100坪の標準店舗、全国一律の品揃え、毎日同じ低価格でチラシ特売ナシ、値引き販売は廃番時のみで定価販売率は99%だ。データにノイズがなく仮説・検証の結果を全国展開しやすいのがメリットだ。当社のSCMは需要予測に基づく「善意型SCM」を標榜している。国内主力ベンダー(国内購入量の87%)は需要予測に基づいて自主的に判断した数量を納品し、当社は納品分を無条件で買い取っている。これは日本初の善意と信頼によるSCMだ。ベンダーに任せた結果、在庫と欠品は着実に減少している。主力ベンダー以外の国内ベンダー(購入量の13%)には自主納品には人手がかかるので、当社のパートが需要予測通りに発注して納品して貰っている。

 

 三井情報と共同で「仕入れ」の需要予測アルゴリズムを開発し検証を行った。当社を含めベイシア、カインズのベイシアグループ3社の3年分の入出荷・販売データを使って、各社の最適アルゴリズムを開発・検証した。使用した予測手法は8通りあり、訓練期間が7通り、予測期間は1、2、4、8週の4通りと膨大な組み合わせで予測精度の検証を行った。結果として一番「外れ」が少ないアルゴリズム自動選択手法を採用した。当社の場合、前週に予測値が最も近かった手法を、翌週に使用している。

 

 「店舗」自動発注システムでは、需要予測と店舗理論在庫の差から推奨発注数を自動的に算出している。納品リードタイムの期間に欠品が発生しないように専門店として多めの安全在庫を加えている。顧客が仕事に行く前に来店したり、3月下旬でも雪が降れば防寒着を急きょ買ったりということもあるからだ。また値引き販売がないので、価格補正は不要。在庫回転が90日と遅いので、目先の天候は重要でなく気候補正は使っていない。

データ経営担える人材を経営トップに

 店舗の需要予測システムは、17年7月に足立区役所前店をテスト店として検証を行い、機能追加とともに導入店舗を増やしてきた。現状では85店舗で導入しており、19年3月には300店舗、20年3月には820の全店舗に導入したいと考えている。増収効果があるので、同システムの導入を希望するFCオーナーは300店を超えた。実際に稼働店では未稼働店に対して、7%もの増収効果が出ている。

 

 発注精度を高めるため自動発注の設定チームを立ち上げた。当社は陳列点数が1点という商品が7割を占めるので統計的な予測手法が使えない。完全自動発注なのでパフォーマンスの常時監視と問題発生時の設定調整が必要なのが設立の背景。チームはSV業務の約半分を取り込み、4人で820店舗の品揃えと在庫最適化を行うことが求められる。もちろんチーム員はBIやデータ活用の研修テストの最優秀者から選抜しており、将来的にデータ経営の中核を担える人材として重用し、経営幹部として育ってほしいと考えている。

 

 今後のデータ経営のテーマとしては、まずAI化(機械学習)で店舗需要予測のアルゴリズムを自動生成する機能を開発することであり、おそらく難しいことではないだろう。さらにネット販売に絶対シェアを奪われないために、PB商品のブランド化とネットに定価で負けないPB商品開発を実現する。AIとデータ経営を活用して働き方改革にもつなげ、たとえばSV(スーパーバイザー)が毎週行う店舗巡回の半分を遠隔巡回にして効率化することも可能だろう。そしてデータ経営を担える人材の育成と経営トップへの抜擢も課題だと考えている。

 

▲目次へ

 

 


【講演2】

「流通業の生産性改革、需要予測活用戦略(ビッグデータ・AI)について」


アトムス 代表
角田 吉隆 氏

流通業の経営基盤改革に不可欠なデータ活用

アトムス 代表 角田 吉隆 氏

 流通業を取り巻く環境の変化として、しばしば言われるのが少子高齢化や就労人口減少などの人口動態の変化、年収減少や生活防衛などによる消費不況、そして異業種からの参入やネット販売の影響など競合環境の変化の3つだ。そうした課題に対応するためには、まず人口動態の変化に対してはシニア対応や省人化など、消費不況に対してはローコスト化や協業化などの効率改善、競合環境の変化に対しては集客力向上やロイヤルカスタマー化などが挙げられる。

 

 こうした対応策を実行していくために、事業特性・特徴を最大限発揮した経営基盤の構築・強化が必要である。競争が激化するなかで自社のポジショニングを確立し、チャネル・商品の多様化に対応して地域・店舗特性に応じた商品やサービスの提供、顧客層の変化に対してはさらなる優良顧客の囲い込みとポテンシャル顧客の獲得を継続しなければならない。

 

 そして事業強化の方向性として、コスト構造改革、物流基盤の構築、共通顧客管理の構築、店舗利用のECビジネスの構築を図ることが重要だろう。これらが競争優位性、コスト削減、原価低減、在庫削減、商品拡充、新規顧客開拓に関わってくる。そしてそうした改革の基盤となるのがITの活用だ。

自動化ツールの導入で省人化を図る

 経営の目標として掲げられるのは「経常利益率の向上」である。そのための策は3つしかない。売上拡大、商品原価低減、そして労働分配率改善の3つだ。実際に関わった事例では、SM事業の基本方針として、抜本的な仕組みづくりと人員配置などの構造改革、営業を中心にシステム・スタッフ・商品部が一丸となって構築を進めることでスタート。まずモデル店を抽出して現状の作業人時を調査し、作業別に分類してモデル人時化した。作業人時削減にあたってはやめること、見直すこと、システム化することとし、この順番で作業の棚卸しを進めた。この時には労働分配率低減を最重要課題としたので品揃えやアイテム数などすべてをゼロベースで見直すこととした。これまで当たり前だったことも、もちろん除外せずに見直した。

 

 見直しによるIT化として自動発注システムがある。自動発注システムのシミュレーションでは、発注作業量が長時間パートナー社員の1カ月分に相当する月152時間削減でき、欠品率も削減、在庫も15%削減できることがわかり、実際に35店舗で導入を進めた。その結果、発注に関わる人件費は年間6300万円削減につながり、在庫金額も2億円の削減効果があった。

 

需要予測データをメーカー、物流センター、店舗でも活用

 店舗省力化につながる点では需要予測システムも効果が大きい。欠品を起こさないこと、店内加工業務や品出し業務の時短、鮮度なども考慮した品揃え業務、物流センター業務それぞれに関連するのが需要予測システムである。

 

 需要予測システムに期待することは、データを基に発注量を最適化することによる欠品数の削減や棚別の補充や陳列時間を最適化することで品出し回数の削減、棚別の販売効率や在庫効率の向上などだ。これに取り組んだ事例では物流センターやメーカーをはじめとして場所単位で業務効率の改善検討につなげたり物流改革など施策を実施したりすることで効果が確認できた。

 

 たとえば賞味期限がある商品などは、物流段階から賞味期限別の出荷データを記録することで、売場でも賞味期限のデータを間違いなく把握できる。従来は店舗スタッフが一つひとつ賞味期限をチェックして配置を換えたり店頭から撤去する作業が不可欠だったが、システム化することでそうした店頭作業は5分の1以下になる。そうした情報を本部だけでなく、メーカーや物流センター、店舗でも使いこなすことで品揃えの最適化や欠品防止が実現する。

 

ビッグデータから最適なオペレーションを引き出すのにAIを活用

 IoTは現場の状況を知ることに役立つ。それをデータ化し蓄積したビッグデータから、オペレーションのノウハウを得るためにAIを活用する。さらに継続的なオペレーション利用を図るためにはロボット化・自動化も必要になってくる。人数の少ない店舗でも運用しやすいように、デジタル情報を動画などアナログ情報に変換し、店舗スタッフの多能工化を図ることが省人化を実現するための方策である。

 

 課題を抽出して、その業務は廃止すべきなのか、業務手順を見直すのか、さらにシステム化といったように大胆に業務別の対応策を検討する。ITを使うのは人であるから、わかりやすく役に立つことも大切だ。そして効果を見える化することで改善活動がさらに前進する。

 

 IT化による実効性を高めるために顧客管理の強化には顧客視点を重視し、在庫管理の適正化ではリアル在庫を整備すること、スモールスタートのようにできるところから始める具体的な取り組み目標を定め、そして全員が同じ目標を持つことで改善のPDCAサイクルを回していくことも重要である。

 

 

▲目次へ

 


SAS Institute Japan株式会社
ソリューション統括本部
製造・コンシューマーインダストリーソリューション統括部
コンシューマーインダストリーソリューショングループ
マネージャー 井上 義成 氏

需要予測を企業のさまざまな意思決定に利用

SAS Institute Japan株式会社
ソリューション統括本部 製造・コンシューマーインダストリーソリューション統括部 コンシューマーインダストリーソリューショングループ
マネージャー
井上 義成 氏

 需要予測を企業のさまざまな意思決定に利用する動きが広がっている。これにより業務効率向上とそれによる収益向上がねらいである。需要予測を活用するために重要なポイントは、どの業務をどのように改善、活用するかで、そのためにどんな情報が必要なのかをはっきりさせる業務目的の明確化、それから予測の周期や需要特性を考慮した予測アプローチの整理、販売実績や在庫情報など予測に与えるデータは何かをすべて洗い出す必要データの準備、そして高度な統計スキルを必要とせず適切な予測ロジックを選択し大量のモデルを短時間で構築できる仕組み、最後に業務に適用してその改善効果や予測精度を常にモニタリングできる仕組みだ。

 

 店舗オペレーションの省力化をねらったケースでは、売上予測と在庫に応じたアイテム別発注推奨数の自動算出による発注から陳列までの省力化や必要在庫量を決め欠品防止と納品回数削減を図ること、また、当日の時間帯別・カテゴリ別需要予測から店内加工業務を適正化、時間帯別のレジ稼働数の予測、アイテム別在庫推移予測からの廃棄リスクの算出などがある。

必要な情報をデータ化して特徴を理解して利用

 予測アプローチを整理するためには予測対象となるのが売上なのか数量なのか、カテゴリーなのか来客人数なのかに応じて時間帯別や月別などの予測メッシュで区切り、予測頻度として今日なのか短期あるいは長期予測なのかなどがある。また需要特性として販売ボリュームや季節性、トレンドが上昇中か下降中か、一定期間を開けて出てくる間欠需要なのかなどさまざまで単一的な予測モデルでは対応できない。

 

 必要な情報も販売実績、客数、納品/在庫、天候などのデータがある。販売実績データについては販売時点の価格をはじめとしたMDデータとの連携が重要。客数はPOSデータが一般的だがクーポンなどCRM情報との連携や店内カメラの混雑状況などを用いるケースもある。

 

 納品/在庫データに関しては、欠品なのか売れなかったのかを把握するためにも正確な在庫数量の把握が肝となる。また消費期限別出荷データから消費期限別の在庫管理が可能になる。さらに天候データを用いるケースも少なくない。

SASソリューションは内外の大手流通、メーカーなどに実績

 これらのデータから、高度な統計スキルがなくても分析できる手法が必要だ。多様な予測モデルから最適な予測モデルを自動選択できる機能が重要になる。こうした予測を業務へ適用するとともに運用の自動化を図る必要もある。初期に構築したロジックに対して業務改善効果を計ったり予測精度をモニタリングしたりという改善は不可欠。そうして予測モデル精度の向上を図るとともに、変化する業務要件への対応を図るために必要ならば業務プロセスや運用ルールを変更するといった改革に迫られるかもしれない。

 

 SASの流通業向けソリューションは、需要予測をベースとして、業務改善につながる総合的アナリティクス環境を提供している。ポイント&クリックでデータ探索からデータマイニング、モデル構築、評価を単一画面で簡単に利用することができる。

 

 すでに内外の大手流通業やメーカーなどで、たとえば在庫の最適化や価格最適化、品揃え最適化、物流の最適化、配送品質やトレーサビリティの向上などで実績を上げている。

 

 

▲目次へ

 

 


【講演3】

「オムニチャネルを起点としたデータ分析アプローチの進化」
~ビッグデータを活用した新ビジネス展開とは~


株式会社マツモトキヨシホールディングス
営業統括本部 営業企画部長
松田 崇 氏

顧客接点の拡大が売上拡大につながる

株式会社マツモトキヨシホールディングス
営業統括本部 営業企画部長
松田 崇 氏

 ドラッグストア業界を取り巻く環境の変化として、競合環境の激化、改正薬事法以降のコンビニエンスストアやスーパーなど異業種がOCT薬を扱うなどの新規参入、ECの台頭、顧客嗜好の多様化、供給サイドのネゴシエーションパワーの増大などが挙げられる。そうしたなかでも当社は、ECとO2Oセールスつまりデジタルの分野で20%を超える成長、越境ECセールスでは50%を超える成長、海外でのビジネスは2倍近い成長となった。しかし国内事業は調剤事業やインバウンド関連のセールスは成長を続けているものの、全体では前年水準に留まるというのが実情だ。

 

 売上拡大のために必要なのは顧客接点の拡大だと考えている。そのためのオムニチャネル化は基盤構築から基盤活用を経て、新しいビジネス活用へと踏み出す段階に来た。オムニチャネル成功のカギは、まず顧客接点の量をいかにたくさん持つことができるか、そして顧客を活性化するインセンティブがあるか、顧客の個性や感情、行動を深く理解できるかにある。

 

 自社の現状は、インセンティブに関しては、ポイント還元率は大手では最高水準となっている。また、われわれは全体で名寄せや重複を考慮しない接点数として、5500万以上の接点を保有しており、データ量とインセンティブの魅力においては成功要件を満たしていると考えている。また、データの質も高くもう一つの成功要件である顧客理解においても秀でていると考えている。

複数チャネルを活用する顧客の拡大がカギ

 顧客理解の一例として、オムニチャネルのメンバー構成を分類し、構成毎に比較してみると、店舗だけを通常利用いただいているメンバーの年間購入額に対して、店舗系のオムニサービスを利用する顧客は20%程度高い状況にある。さらに、店舗とECとを横断的に利用するオムニチャネルユーザーは3倍近い購入額となっている。

 

 一方、どういう顧客が利用するかという点では、例えば処方せんの事前送信サービスを利用した顧客のデータをピックアップしてみる。マツモトキヨシの店舗を利用する顧客は30-40代が中心であるが、処方せん事前送信サービスの利用者では、50-60代が中心となり高い年齢層の比率が高くなる。

 

 顧客の利用方法という点でみると、マツモトキヨシではECの店頭引き取りサービスを行っている。利用者数はサービス開始から短期間で50倍以上となり好評をいただいているが、利用時の購買をみると店舗での受け取り時に多くの商品をついで買いをする傾向があることが分かった。一例としてデータから読み解けることを紹介したが、これらだけからでも購買活性化のヒントとして、複数のチャネルを利用する顧客を増やすことや、店舗を介したサービスを充実させ利用いただくことが重要であることが読み取れ、施策へとつなげていくことが可能となる。

 

 さらに顧客分析を進めると、マツモトキヨシでは顧客の購買データから顧客がどのような嗜好性を有しているかをプロファイリングすることができている。サービスの利用状況別に顧客の嗜好性を分析すると、Webアプリ中心とする顧客は郊外の持ち家に住んでおり、便利さを追求し買物も短時間で済ませたいという嗜好性がみえる。

 

 一方、店舗利用が主体の顧客はかわいい流行品や新しいトレンドに関心が高く、そして都会に住んでいるという結果になる。ECも利用する顧客は美への関心が高く、住んでいるのは都会といったことが読み解ける。顧客を購買データだけでなくより具体的に嗜好性と合わせて理解することで、先にのべた購買活性化の施策を実施する場合などにおいても、施策の精度を高めることが可能となる。

認知から関与・検討、購買の途切れないチェーン

 オムニメンバーになった顧客の購買は、利用頻度と1回の購入額が高まり、売上は30%近く増加する。オムニメンバーを増やすことのメリットは明確であるが、一方どのような顧客がオムニメンバーとなるかをみると、従来の店舗顧客のうちのロイヤルカスタマーほどオムニメンバーとなりやすい状況にある。これらのデータはオムニメンバーを増やす取り組みにおいてヒントとなる。

 

 今後、売上拡大を図っていくためにさらに重要になるのが顧客接点の拡大である。現在はマツモトキヨシとしてLINEやメール会員向けの情報発信を行っている。さらにサードパーティーのメンバーや外部向けのインターネット広告配信をどうするかがカギになると考えている。認知から関与・検討、購買といった段階の中で、そのチェーンを途切れさせない仕組みづくりをすることで一気通貫のデータを保有することが需要になると考えている。

メーカーのブランドマーケティングへのデータ活用

 マツモトキヨシでは自社データを活用したメーカー様のブランド支援ビジネスも行っている。例として、メール会員に対するプロモーションの反応率を比較してみると、通常の一斉メールでの反応率は、カテゴリー情報を活用してターゲットを抽出、さらに特定商品の情報も加え、さらに顧客の嗜好性の情報を加えることで、6倍まで上昇している。理由としては、コアなターゲットを絞り込むためには嗜好性まで読み解かなければ実態は見えてこなかったからだ。

 

 また商品レビューを掲載したメールの反応率は通常の倍以上になり、購入後3日以内にレビューを書けば100ポイント進呈といったインセンティブを付与すれば、レビューの投稿は8倍まで増加した。ただし、インセンティブの規模やタイミングの最適値は社内でも議論になっており、購買後3日でいいのか、あるいは100ポイントのインセンティブは必要かといった検討をすることがマーケッターの役割だと考える。

インバウンド顧客を海外ECの顧客に取り込む

 今後の課題は、ECや国内など4つに分類した中で、成長が著しいインバウンドを含めたクロスボーダーECセールスをさらに拡大していくことだ。インバウンドの顧客に対して、旅に出る前、日本を旅行している最中、旅行を終えて自国に帰った後までフォローしていくことで、ECセールスにもつながると考えている。ちなみに中国WeChatのフォロワーは60万人いて他の企業をはるかに上回っている。

 

 つまりEC+O2O、クロスボーダーECセールス、日本での店舗売上、海外店舗での売上はそれぞれエリアとして独立していても、相互に切り離して考えるのではなく、互いに連携していくことで全体のビジネス拡大につながるということだ。

 

▲目次へ