スーパーマーケットの総菜は、原料価格が上がり続ける昨今でも柔軟に低価格帯の品揃えを維持しています。店頭に並ぶ弁当の下限価格は、多くのチェーンで税込200~300円台でしょうか。5年以上前の水準と変わらないようです。上限の方は600~700円台が増加傾向にあり、そこにはインフレの影響(だけではありませんが)を感じるのに、なぜ低価格帯は以前のレベルを保てるのでしょうか? スーパーマーケット店頭の幅広い品揃えを前提とした発想が、それを可能にしています。
メニュー提案でも低価格化は可能
スーパーマーケットに並ぶ弁当の下限価格は、どのようにして以前の水準を維持しているのか? もっとも確実な方法は量目を調整することです。カツ重をハーフサイズにすれば、300円を切ることもさほど難しくはありません。まるでトンチ話のようですが決してそうではなく、主要客層の高齢化も踏まえたニーズ対応であり、以前から一般化している商品施策です。
小容量化は価格志向とは異なるニーズへの対応のようですが、部分的には重なります。ハーフサイズのカツ重があれば、それにサラダをつけるとか、カップ麺や冷凍うどんを合わせるなどで、フルサイズのカツ重よりも安く、栄養バランスをよくすることができます。
とはいえ、小容量弁当がそれだけで「コスパがいい」と評価されるわけではありません。コスパの王道は「この価格でこのボリューム感」と思わせることであり、とりわけ生鮮・総菜を扱うディスカウント業態が顧客を惹きつける際の主眼はそこにあります。
マミーマート(埼玉県)が展開するディスカウントモデル「マミープラス」でも、本体価格222円のメンチカツ弁当をはじめコスパを追求した総菜を取り揃えています。同社は経費コントロールや全体の粗利益調整、売上の伸長などにより低価格を実現していますが、メニューづくりの工夫も見られます。
5月オープンの「マミープラス武蔵浦和店」(埼玉県さいたま市南区)から、新商品「おなか満足!本気じゃがコロッケ重」の展開を始めました。カットしたコロッケを卵でとじた同商品の価格は299円で、399円の「ロースかつ重」と並べて陳列しています。トンカツの代わりにコロッケを使うのは、価格を下げる工夫にとどまりません。コロッケを卵とじで味わう「メニュー提案」でもあります。
主菜1品のみ! 割り切って低価格に
ベルク(埼玉県)が運営するディスカウントモデル「クルベ」には、199円の弁当シリーズがあります。この価格を実現した明確な工夫の一つが、白米に合わせるおかずが「シュウマイだけ」、または「唐揚げだけ」といった具合に、主菜1品に絞り込んだ商品設計です。これなら原価はもとより、製造の手間も簡略化できそうです。
クルベはディスカウントならではの割り切りで目を惹く価格を実現しましたが、このような主菜1品に絞り込む手法をライフコーポレーション(大阪府:以下、ライフ)も採用したことには意外な印象を受けました。
ライフが今期の新店から始めた「だけ弁当」シリーズは、本体価格を398円に設定しています。白米にブランド米を使用するといった品質訴求も行なっており、決して低価格だけを追求した商品ではありません。とはいえ、高価格帯の商品開発を意欲的に進めてきた同社のラインアップの中では、異彩を放つ新しい選択肢です。
「だけ弁当シリーズ」は、白米の上に主菜を乗せています。3月オープンの「ライフminanoba相模原店」(神奈川県相模原市)では、「あじフライだけ弁当」「北海道産あまに豚入りコロッケだけ弁当」といった商品のほか、「ポークフランクだけ弁当」「とろ~りたこ焼きだけ弁当」など、関東では斬新な(?)組み合わせも見られました。また、同商品は量目を抑えられているのも特徴です。
主菜1品のみ弁当は、いわば「1食完結」をめざさない割り切った商品です。これはスーパーマーケットだからこそ可能なものかもしれません。先にも触れたように、足りない量や栄養素は、同じ店頭にあるほかの商品で補ってもらえば済むからです。
それも即食から素材まで、加工食品だって3温度帯で揃えており、顧客は家のストックも踏まえてさまざまな組み合わせが可能です。このように取り扱い商品の幅の広さを背景に、インストア加工で商品化することの柔軟性も相まって、インフレ局面でもスーパーマーケットの総菜はデフレ時代と変わらない下限価格を残せています。