家飲み市場の現状とこれから 年代で異なるおつまみの味付け嗜好
1年後の2026年10月に行われる酒税法改正を前に、生活者のアルコール消費に対する業界の関心が高まっている。今回は長年家庭の食卓を観察し続けてきた食MAPデータを用い、とくに家庭内における飲酒、つまり「家飲み」に焦点を当てた分析を行った。今、注目のアルコールカテゴリ、またおつまみはどんなものであるのか、家飲みのトレンドを追いかけた。

食MAP®とは、株式会社ライフスケープマーケティングが提供するマーケティング情報システム。1998年10月から首都圏30km圏内在住の主婦世帯を対象に、食品の購買、調理、消費までをパネル形式で調査したもの。

家飲み市場はRTDが活況
【図1】は家庭で飲まれたアルコール飲料について、カテゴリごとの構成比の推移を直近20年間にわたって分析した結果である。これを見ると、20年前の2005年度からそのシェアを大きく伸ばしているカテゴリがあることがわかる。缶チューハイや缶カクテル、缶ハイボールに代表されるRTD(Ready To Drink)飲料である。このRTDは2011年頃からシェアを拡大し始め、今では家庭で飲まれるアルコール飲料の2割以上を占めるまでに成長している。
このRTDの成長はいつまで続くのだろうか。1 年後の酒税法改正では、チューハイ等の税率が引き上げられる(350m lあたり28円から35円)。逆に、ビールは引き下げ(350mlあたり63.35円から54.25円)が予定されている。過去にはビールの税率引き下げにより消費が伸びた年もある。このままチューハイが伸び続けるのか、あるいはビールに消費が流れるのか。今後の生活者の選択には引き続き注目である。
家飲みのお供は「肉メニュー」が好調
次は飲酒のお供、「おつまみ」に焦点を当てる。家庭内ではどのようなメニューがアルコールとともに楽しまれているのだろうか。
【表1】は2023年4月~2025年3月の2年間、飲酒があった夕食で出現したおかずメニューのランキングを上位25位まで出したものである。通常TI値はすべての食卓におけるメニューの出現率を、同時TI値はアルコール飲料が出現した食卓における出現率をそれぞれ表している。この2 つの値の差が大きいメニューほどアルコール飲料との相性がよいと考えることができる。
ランキングを見ると、上位25メニューのほとんどは肉系あるいは野菜系のメニューであることがわかる。さらに、23年度から24年度にかけて飲酒食卓での出現が伸長した11メニューのうち、7メニューが肉メニューであることから、現在アルコール飲料のお供としては肉メニューが好調であるといえる。
これら好調な肉メニューの中から今回はとくに、家庭での手作り率の高い「ビーフステーキ」、「ソーセージ(そのまま、ボイル、ソテー)」について取り上げ、家庭における喫食実態について詳しく掘り下げていきたい。
酒のつまみは濃く、強い味を
メニューの「手作り率が高い」ということは、素材から調理されて食べられることが多く、総菜や冷凍食品等の活用度が低いことを意味する。このようなメニューは同時に使用される材料や味付けなど、家庭での食べられ方の幅が広い傾向がある。【表2・3】では食卓全体、家飲み食卓それぞれで食べられる「ビーフステーキ」、「ソーセージ(そのまま、ボイル、ソテー)」への使用材料を比較した。
まずビーフステーキについて見ると、家飲み食卓で出るものはにんにくや焼き肉のたれ、バターなど、味わいにパンチや濃厚さを出す材料が使用されやすいことがわかる。
ソーセージについても同様の傾向が見られる。こちらもアルコール飲料と同時に食卓に並ぶ際には粒マスタードや練りからしなど、辛味や酸味などのパンチを効かせる調味料が使われやすい。そのほかにも、チーズ類やトマトケチャップなど、すでに調味されているソーセージ類に、さらに濃い味付けをしているケースが多いようだ。
この2つのメニューの傾向から、家飲みで楽しむおつまみメニューは、いつもの食べ方よりも濃く、刺激的な味わいにしたいという生活者のニーズが見えてきた。
若者の濃厚アレンジ嗜好
このおつまみメニューへの味付けの傾向に年代間で差はあるのだろうか。
まずビーフステーキの年代別材料使用率を見ていこう。20〜30代の若年層と60歳以上の高齢層はバターの使用率が高く、40〜50代の中年層は焼き肉のたれの使用率が高いなど、年代ごとに一定の特徴は見られる。しかし、これを若年層と中高年層という切り口で見ると、両者の間に一貫して存在する傾向の差はないように思われる。
では、ソーセージについてはどうかというと、チーズやケチャップ、マヨネーズなどの油脂感や濃厚さを持つ調味料類は若年層ほどよく使用するという傾向が見られた。つまり、若者はすでにしっかり味のついているソーセージにさらに調味料や食材を追加し、自分好みの濃厚な味にアレンジする傾向が強いのである。
しかしなぜ、若者はこのような食行動をとるのだろうか。1つの仮説として、単純に若者ほど強く、濃い味を好むからであるということが考えられる。その食嗜好をさらに後押ししたのが、ソーセージの食品としての「手軽さ」ではないだろうか。下ごしらえ不要で簡単に調理できるソーセージは、調理に対するユーザーの心理的余裕を生む。その余裕が、結果として若者の濃厚味アレンジ行動の喚起につながったということが考えられるのではないだろうか。
これらの仮説については、さらに幅広いメニューについて同様の分析を行うことで検証が進められるものと思われるが、本稿では、現時点で明らかとなった分析結果を示すまでにとどめたい。
家飲みシーンのまとめ
ここまで、家飲みシーンにおけるおつまみの食べられ方について深掘りをしてきた。その結果、おつまみとして食べられるメニューは、普段の食事と異なる味付けで食べられる傾向があること、またその味付けについては若者ほど濃いものを好むという年代間の差があることも見えてきた。さらに、【図1】で示したように、現在アルコール市場ではRTDが成長中であること、しかし依然としてシェアの大部分を占めているのはビール類であるということも忘れてはならない。これらのカテゴリとの相性のよさという観点もまた重要だろう。
酒税法改正をにらんだ食品業界各社の動きは今後ますます活発になるだろう。税率の改定、メーカーの戦略が、また食卓に新たなトレンドを生み出すことにつながるのだろうか。今後も家飲みシーンからは目が離せない。
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