「よい塩梅」という言葉があるように、塩は料理の味を左右する、欠かせない調味料です。1997年に専売制度が廃止されてから20年以上が経ち、日本では海塩や岩塩、フレーバーソルトなど、2000種類以上の塩が食品スーパーに並ぶようになりました。しかし選択肢が増えた一方で、「どれを選べばよいかわからない」という声も多く聞かれます。本記事では、塩の専門家・青山志穂氏が「塩に関するよくある誤解」を解説し、料理に適した塩の選び方や使い分けのポイントを詳しく紹介します。
塩に関するよくある誤解①
「自然塩(天然塩)」はミネラル豊富?
岩塩よりも海水塩が良い?
塩には、海水を蒸発させてできる海水塩(海塩)や、地中で数百万年~数億年前に結晶化した塩を掘り出した岩塩などの種類があります。しかし、原材料だけで味の傾向やミネラルの含有量が決まるわけではありません。
なぜなら、塩の味わいや結晶の形、そしてナトリウムはじめとするミネラルのバランスが、製法や成り立ちによって左右されるからです。海水塩でも岩塩でも、ナトリウムの純度が低いものから高いものまであり、味わいもそれによって異なります。
塩に関するよくある誤解②
「食塩」と「精製塩」って同じ?
ナトリウムだけの悪い塩?
まず、「塩化ナトリウム純度が高い=精製塩」という間違えた情報発信が多いために誤解している人も多いのですが、「食塩」と「精製塩」はいずれも商品名であり、異なる原料・製法で作られている塩です。
「食塩」は国産の海水100%からできています。「精製塩」は、メキシコまたはオーストラリアの大規模な天日塩田で収穫された天日塩を日本の海水でいったん溶かして塩水にしてから再結晶させて乾燥し、そこに炭酸マグネシウムを加えて再加工したものです。
どちらも塩化ナトリウム純度は99%以上と高く、ストレートなしょっぱさがメインの味わいであることから「健康に悪いもの」に思われがちですが、料理の最終的な塩加減を微調整する際や、食材の甘さを引き立たせる際には料理の幅を広げ、さまざまな場面で活躍する塩です。

塩に関するよくある誤解③
「海のものには海塩、山のものには岩塩」は本当?
前述のとおり、塩の味わいを決める主な要素は塩に含まれるミネラルバランスと結晶の形です。たしかに魚介類に海の風味は相性が良いですが、海水塩だからといって必ず海水の風味がするわけではありませんし、山の生き物がすべて必ずしも岩塩を飼料としているわけでもありません。そのため、「魚介類には海水塩、肉類には岩塩」と単純に分類するのは、適切ではありません。
では一体、どのように塩を選んだり使い分けたりすればよいのでしょうか。簡単なポイント解説します。
塩の選び方①
ミネラルバランスを確認
塩はミネラルの塊であり、ミネラルごとに味わいが異なります。味わいの違いは次の4種類に分類されます。
- ナトリウム…ストレートなしょっぱさ
- マグネシウム…おいしい苦味、コク、うま味
- カルシウム…甘味
- カリウム…涼しい酸味
商品パッケージの裏面には必ず「食塩相当量(≒塩化ナトリウムの含有量)」が記載されています。その数字を見ることでしょっぱさの強弱を推測できます。また、メーカーによってはナトリウム以外のミネラルの含有量も表示していることがあるので、パッケージの裏側は必ずチェックしましょう。
塩の選び方②
結晶の形や大きさに注目する
塩の形や大きさは触感や味の感じ方、余韻の長さに影響します。塩の形は小さなキューブ状が基本ですが、フレークのように薄い板状になってサクサク触感を楽しめるものや、ピラミッドの形をしたものもあります。
さらに、片栗粉のように細かく、パウダー状で溶けやすいものや、カリっとした触感が楽しめるくらいの粒の大きさの塩もあります。塩のパッケージは透明なものが多いので、形や大きさを確認してみましょう。
塩の使い分け①
純度によって塩を使うタイミングを変える
食塩相当量が高い塩はストレートなしょっぱさのため、料理の最終段階での塩味の微調整に最適です。逆に食塩相当量が低く、ナトリウム以外にもいろいろなミネラルを含む塩(特にマグネシウムを多く含む塩)は、熟成や発酵を促進させる働きがあるため、食材に刷り込んで寝かせる場合などの下ごしらえに最適です。
塩の使い分け②
タイプの違う3種類の塩を揃えておく
まずは、タイプの異なる塩を3種類揃えておくと、家庭でも塩の力を存分に楽しみながら料理の味わいをアップさせることができます。
たとえば、「しょっぱさ」を基準にする場合は、食塩相当量が99%前後のしょっぱい塩、90%前後の中間の塩、80%代のまろやかな塩で揃えるのがおすすめ。「食感」を基軸にした場合は、小さなキューブ状の塩、サクサクのフレークタイプの塩、カリっとした小粒の塩、という具合です。
<食品スーパーで手に入れやすい塩で揃える場合>
例①:しょっぱさ(左から順にしょっぱさが強い→まろやか)
「食塩」「伯方の塩」「海の精」
例②:食感
「マルドンシーソルト」(サクサク食感)
「青い海あらじお」(軽めのカリっとした食感)
「雪塩」(パウダー状で食感を感じない)
飲食店や家庭においても、用途や目的によって塩を使い分けることで、同じ材料や調理法だったとしても、料理の味わいがいっそう引き立ちます。塩を選ぶ楽しさと、それがもたらすおいしさを、ぜひ実感してみてください。また、食品スーパーでも本稿で指摘したポイントを踏まえた売場づくりや売場POPを作ってお客さまに提案すると、塩売場だけでなく店全体の活性化に一役買うのではないでしょうか。