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意外! 明治、牛乳や乳飲料の「宅配事業」の契約数がこの30数年でほぼ倍増している理由

コロナ禍を経てネットスーパーやクイックコマース、食品ECが売上を拡大するなか、食品メーカーの明治(東京都/松田克也社長)が運営する乳飲料・乳酸菌飲料の宅配事業が密かに売上を伸ばしている。牛乳宅配事業を開始してから約100年が経つ明治は、いかにして同事業を展開してきたのだろうか。明治の事業担当者に取材し、サービスの強みに迫った。

宅配ならではの強み

明治の宅配事業

 明治の宅配事業は「牛乳・乳飲料」「発酵乳(ヨーグルト)」「健康サポート飲料」などのカテゴリーがある。明治によると、国内の「牛乳・乳飲料」市場のシェア(202122年)においては、競合の森永乳業(東京都)や雪印メグミルク(東京都)、小岩井乳業(東京都)などを退け、明治が1位を獲得している。

 同事業は、明治が販売・配送を委任する特約店(販売店)とお客が定期購入の契約を月単位で交わすシステムだ。明治は特約店に商品を卸し、特約店が顧客宅まで配送する。

 特約店は沖縄県を除く46都道府県に約3000店を構え、訪問販売を行う。お客にサンプル品を渡し、後日、空きびんを回収する際に契約を促すかたちだ。配達頻度は週に2〜3回の契約が一般的で、配送料は原則無料、入会金などの初期費用もかからない。

「明治おいしい牛乳180ml」

 明治の宅配事業は、1928年に同社が開始した牛乳宅配事業が起源だ。当時は国内に小売店の数が少なかったため、便利なサービスとして全国的に定着し、ピーク時の1976年には契約軒数350万軒を突破した。しかし、食品スーパーやコンビニエンスストアが店舗数を増やした1980年代になると、契約軒数は120万軒まで減少。

 1990年代以降はカテゴリーの拡大や市販品と差別化した宅配限定商品の発売により、V字回復を果たし、2022年の契約軒数は約230万軒まで持ち直した。足元の販売動向について、明治グローバルデイリー事業本部 牛乳・飲料マーケティング部 牛乳・飲料Gの須川裕介氏は「コロナ禍当初は訪問営業の活動が難しく売上が減少したが、その後は巣ごもり需要の拡大が追い風になりコロナ禍前の売上を超えた」と語る。

 宅配事業のメーンターゲットは、契約者全体の8割を占める、60代以降のシニア層だ。明治はシニアの多様化する健康ニーズに応え、かつプレミア感を演出する宅配専用商品の開発に力を入れる。

 たとえば「明治おいしい牛乳」などを販売する牛乳・乳飲料カテゴリーでは、227月に宅配専用商品の「明治5つ星習慣」を発売した。同商品は、中性脂肪と血糖値の上昇を緩やかにし、血圧を下げ、ストレスを緩和し、記憶力を維持する5つの効果を持った機能性表示食品だ。高機能かつ宅配限定という売り込みで、計画比2倍弱を売り上げた。

「明治5つ星習慣」

 乳酸菌飲料カテゴリーでは236月に、同じく宅配専用商品の「明治プロビオヨーグルトR-1 The GOLD」(以下、R-1 The GOLD)を発売した。「R-1」は宅配事業で最も人気が高く、売上全体の3割を占めるシリーズだ。R-1 The GOLDは、乳酸菌などの微生物がつくりだす多糖体「EPS」の量を、市販品のR-1に比べて2倍配合している。須川氏は「市販品にはない魅力がお客さまに響き、反響は想定よりも大きかった」と話す。

「明治プロビオヨーグルトR-1 The GOLD

新たに食品の取り扱いも検討

 明治の宅配事業における今後の課題は顧客ターゲットの拡大だという。同社は新規顧客を取り込むため、菓子などの加工食品を宅配商品のラインナップに加えることを検討している。「全国の物流網を生かし、さまざまな商品をご自宅まで配送できるのが当社の強みだ」(須川氏)

 ミドル層と呼ばれる4050代の取り込みにも力を入れる。たとえばR-1 The GOLDの発売時は、プロモーションをすべてウェブで行った。SNS広告には「明治の宅配」HP内の申込みフォームのリンクを掲載した。その取り組みは奏功し、須川氏は「広告出稿後、4050代の成約率が伸びた」と明かす。ウェブ申し込みによる契約軒数も伸び、通常は月平均200300軒のところ約1000軒を記録した。

 ウェブ申し込みから契約を交わす際も、販売訪問と同じく特約店がお客の窓口となる。特約店の役割は商品を配達するだけではない。お客に対して健康情報の提供や高齢者見守りサービスを行っている特約店もある。

 須川氏は「お客と直接的なつながりを持てることは、ECやネットスーパーにはない価値だ。配達事業の特約店を通じてお客の生の意見を知り、商品開発に生かしていきたい」と語る。