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「進化系」登場で、中食で「アテ巻き」流行の予感!背景に寿司酒場ブーム

「アテ巻き」と呼ばれる寿司をご存知だろうか?「アテ」とは「酒肴」を意味し、おつまみになる寿司のことを言う。シャリが少なく、味付けされた具材が主役の細巻きで、「寿司居酒屋」「寿司酒場」業態が2021年頃から増加して知られるようになった。そんな外食で認知が広がった「アテ巻き」だが、より華やかにして中食に落とし込んだ店がある。それが大阪の企業、よつばしフーズが2022年6月に展開した細巻き専門店「米処 ゆず乃」。同店が提案する「食べる宝石細巻き」は、手土産などにすれば歓声必至。彩りよくて美味しく、食べやすい、”進化系アテ巻き”が流行の予感だ。

ゆず酢を使う寿司飯がさっぱりとし、アテのような素材合わせの具材が特徴。「スイーツが苦手な人はいるが、海苔巻きが嫌いな日本人はいない」と話す代表の黒川氏。手土産に買うお客が多数

醤油不要で美味しい、美しきアテ巻き。

 大阪・心斎橋の大丸百貨店に、20226月に誕生した「米処 ゆず乃」。看板の「食べる宝石細巻き」は、寿司飯にゆず酢が使われたさっぱりとした味わいと、「アテ巻き」をイメージした具材の組み合わせが特徴。

 例えば、叩いたマグロと刻んだ沢庵を巻き、スダチを乗せた「とろたく」。キュウリ巻きの上にキクラゲの柴漬けを乗せた「柴きゅうり」。トロサーモンとトビコを巻き、上にイクラを乗せた「とろサーモン」。甘辛く炊いた穴子と椎茸を巻き、胡麻を散らした「穴子椎茸」、シメサバを巻き、ガリを上に乗せた「ガリ鯖」といった「食べる宝石細巻き」が目を惹き、通りがかるお客が次々と足を止める。

 実際に食べると「アテ」をイメージしているため中の具材にしっかり味が付いており、醤油も不要。子供からお年寄りまで楽しめて、ポイポイ口の中に放り込める食べやすいサイズも魅力だ。

物販はディスプレイや照明一つで立ち止まってもらえる割合が変わるのが面白いと話す黒川氏

 中でも、行儀よく折り箱に整列した姿が愛らしい、「食べる宝石 細巻き24貫」2700円、424212円の折り箱は特に売れ筋で、売れ数はそれぞれ月間300食前後。昨年の年末年始には、いなり18個、細巻き77個入りで11880円という高額予約商品「驚愕の助六!ゆず乃詰め合せ」も3日間で30食売るなど売上を延ばし、誕生から1年未満のブランドにして23年度は7000万円の売上を見込んでいるという。

 

米飯の物販に勝機アリ

 運営するよつばしフーズ代表取締役、黒川晴美氏はアパレル業を経て2009年に創作料理のカフェバー「よつばしカフェ」を開業。3年目にランチタイムをナポリタン専門店にしたところヒットし、「昔からある(メニューだ)けれど、専門店がない店は強い」と実感したという。

アパレル業を経て、未経験から飲食業で独立した黒川氏。お客のフックとなる言葉を常にストックし、刺さるメニュー名にもこだわっている

 20183月にはなめらかな食感でカラフルな彩りにもこだわった、スプーンで食べるスイートポテト専門店「ポテトラボ」を出店し、芋ブームも手伝ってヒット。「見せ方や販売戦略が売上に直結する物販は、マンパワーが重要な飲食業よりも長期的に続けられると感じ、面白いと思った」と話す。

  そうした考えに加え「スイーツはトレンドに左右される」と感じたことから、米飯商品の開発に着手。「コンビニやスーパーにはあるけれど、専門店がないものとは?」と考えた結果、いなり寿司に辿り着き、2018年から開発に着手して20194月にいなり専門店「むろや」を展開。

 徳島県で食べたゆず酢を混ぜ込む寿司飯をヒントに、ゆず酢の寿司飯をいなりに詰め、揚げの口に具材を乗せるオープンタイプのいなりを開発。現在、全国に5店舗を展開し、各地で催事も行う年商2億円のブランドに育てあげた。

 そうした中、コロナ禍からカフェバーの移転を考えていた物件で新業態を展開することに。そこで生まれたのが、細巻き専門店の「米処 ゆず乃」だ。

 細巻きに着目した理由について、黒川氏は「寿司の持ち帰りは時間経過と共に固くなり、美味しくなくなってしまうため、扱いが難しい。そこにチャンスがあると思って展開したのが、いなり専門店のむろやで、すし飯もいなりの味や美味しさの持続性もかなり研究しました。手がけてみて感じたのは、米飯業界は近年、革新が無いこと。そこで他にも長年愛されているのに、専門店がない米飯ものは、と考えた結果、注目したのが寿司屋にしかない細巻きでした。また寿司酒場でアテ巻きが流行していることも注目した要因になりました」

 

アテ巻き流行の背景

関西で勢いのある寿司酒場「さしす」(JOU JOU/大阪)のアテ巻き。鉄火が大きくはみ出し、シャリは少なめ。具材が主役だ

 黒川氏も注目した「アテ巻き」が、知られるようになった背景には2017年〜2021年にかけて登場した「寿司酒場」「寿司居酒屋」業態の流行がある。

 例えば大手寿司チェーン「スシロー」をグループに持つ「鮨・酒・肴 杉玉」(FOOD&LIFE INNOVATION/東京)や「や台すし」(ヨシックスフーズ/名古屋)、「立ち寿司横丁」(エー・ピーホールディングス/東京)といった店は全国に店舗数を拡大。他社の新たな寿司酒場業態も続々と誕生している。

 いずれも高級寿司と回転寿司という二極化していた寿司業界の中間を狙い、食べて飲んでちょうどいい3000円〜5000円という予算が特徴。そして後継者不足や回転寿司の台頭、コロナ禍などで姿を消した町の大衆寿司に代わる使い勝手や寿司をつまみながら一人でも気軽に楽しめる業態がウケ、若年層とファミリー層が回転寿司を利用するのに対し、主に30代〜50代のビジネスパーソンに支持されている。

 またこれらが発展し、現在20代〜30代の若年層に支持されている「カタカナスシ」が誕生。

 「カタカナスシ」とは、寿司に創作性を加えたり、盛り付けやグラス、器使いにおいても「写真映え」を取り入れたりした店名がカタカナの寿司酒場で、「スシンジュク」「スシエビス」(共にスパイスワークス/東京)、「スシとツマミ シチフク」(エー・ピーホールディングス/東京)といった店がある。若年層が連日行列を作る人気となり、2022年の外食アワード(外食産業記者会主催)には、ムーブメントの火付け役となったスパイスワークスホールディングス代表取締役社長の下遠野亘氏が受賞した。

 

驚きと感動を感じさせる玉手箱を演出

「食べる宝石細巻き」のパッケージ。さらにラベンダー色の不織布の風呂敷で包んで持ち帰ってもらう

 こうしたトレンドの中で知られるようになった「アテ巻き」を、中食に落とし込んだ「米処 ゆず乃」。「寿司屋に行けばあるけれど、コンビニやスーパーには並んでいない、アテに使われる素材合わせや具材を意識」(黒川氏)する商品設計で、まずは百貨店に出店し百貨店ブランドとして育てるという。

 予約商品には関西人が好きな牛肉を使い、ローストビーフ寿司と食べる宝石巻きを合わせた「一つで2度美味しいお肉と細巻き」(3996円)など、驚きの詰め合わせもあり、黒川氏は「玉手箱を開けた時のように、驚きと感動を感じて欲しい。そのため、想像の斜め上を行きたい」と話す。

 ゆず酢を使うさっぱりとしたシャリに、アテになる具材や見た目も楽しく、醤油いらずで楽しめる「食べる宝石細巻き」。今後は高級スーパーへの卸や百貨店のポップアップなどを経て認知度を高め、将来的には他府県にも展開したいという。そしてこの快進撃を機に、中食のアテ巻きの動きも注視したい。

現在、大阪・心斎橋、大丸百貨店のデパ地下に入る「米処 ゆず乃」。年内に、もう1店舗展開予定。利用客は40代〜60代が主客層。男女比は半々。1日50万円〜繁忙期には400万円を売る