スーパーマーケット(SM)業界3団体の年次統計によると、2020年の生鮮3部門の売上高は、既存店ベースで7.4%増でした。総売上高は5.0%増ですから、生鮮品の販売が全体をけん引したかたちです。しかし反動によって今年4月の生鮮3部門は8.3%減となりました。とはいえコロナ禍の行動制限が続いた効果もまだあり、19年対比では5.9%増ですから月次としては異例の伸長率ではあります。つまり生鮮3品にとって、コロナ特需の反動はこれからが正念場になるのでしょう。
この1年余りで増えた生鮮素材の使用機会をいかに残していくか。コロナ反動減に対する抗体を持てるかどうかは、来期にかけて続くSMの課題になるはずです。そこで今回は、生鮮に関わる最近の取り組みから、消費者の関心をとらえ、生鮮ニーズの持続につながりそうな試みを取り上げます。
野菜の摂取量を「見える化」
ダイエー(東京都/近藤靖英社長)が店頭で実施する企画に、参加者の野菜摂取の状態をスコア化するイベントがあります。「ベジメータ」という機器で指先から計測、「ベジスコア」として可視化するものです。光学センサーを皮膚にあて、野菜や果物にしか含まれないカロテノイドを測定するのですが、皮膚の状態は血液中のカロテノイド濃度と相関性が高く、その血中カロテノイド濃度は野菜・果実の摂取状況を測るのに最適の指標とされ…、要するにその人が野菜不足かどうか、ある程度信用の置けるデータが取れるらしいです。
自分の野菜摂取の状態がスコアになる。これほどに野菜摂取を促す方法はないでしょう。あらゆる改善活動は、計測から始まります。ダイエットは体重計に乗ることから始まり、ウォーキングの習慣は万歩計を身につけることからではないでしょうか。
サミット(東京都/服部哲也社長)が3月に改装した鳩ヶ谷駅前店(埼玉県川口市)には、ドラッグストアのトモズと協業で運営する健康サポートコーナー「けんコミ」が新設されました。セルフで行えるさまざまな計測機器を常設する中に、野菜摂取量を計測する「ベジチェック」という機器があります。ダイエーの事例とメーカーは異なりますが、光学センサーで皮膚のカロテノイド量を測定する点は同じです。
鳩ヶ谷駅前店の取材時に私も計測してみたところ、そこそこの野菜不足という判定が出ました。以来、私の昼食にサラダが加わる機会が格段に増えています。朝には果実、夕食も野菜を増やすよう意識するようになりました。通える店で計測できるのであれば、私なら毎週のように測りに行くでしょう。あるいは光学センサーで測定可能なら、スマートウォッチの機能に加わらないかなと思うくらいです。計測-購入-摂取のループにはまり込んだら、抜けられなくなる人は多いのではないでしょうか。
日持ちする生鮮のシズル感
コロナ禍の買物行動で特徴的なことの一つが、来店頻度の減少です。売上を大きく伸ばしたSM各社も、客数だけは落としたところがほとんどです。生鮮はそうした行動変容の中で伸びたわけですから、消費者は生鮮3品も以前よりはまとめ買いをしているということなのでしょう。そうなると、生鮮の消費期限も長くあって欲しいというニーズが高まります。つまり冷食は便利というわけで、生鮮3品の売場でも冷凍カテゴリーの存在感が増しています。
冷凍でも生鮮の素材感を表現できる方法として、真空パック(スキンパックとも呼ばれる)は面白いようです。この技術のメリットには、消費期限が伸びることや家庭でのストックスペースの圧縮、使用後のゴミ削減などがあるのでしょうが、さらに売場での見た目が楽しくて良いと思います。水産売場では、店内設備で干物や切り身をパッキングする事例が増えています。
真空パックの商品は、素材のかたちそのままにフィルムが密着して、形状や重量感を触覚で感じることができます。凍っているため質感まで分かるわけではないですが、トレーに入った素材をフィルム越しに眺めるのとは違ったシズル感があります。
ダイエーでは、19年から精肉のチルド商品に「真空スキンパック包装」を取り入れており、イオンリテールの一部店舗にも導入されています。黒いトレーの上に、まるで置かれただけのように見えるビーフステーキの立体感は魅力的です。チルドですから、触れると肉の質感も伝わってくる気がします。YouTubeのダイエー公式チャンネルによると、通常のパッケージより消費期限は最長で10日間長くなるそうです。
廃棄ロス削減や環境負荷の軽減といった観点からも、消費期限を伸ばす技術の進化は続くでしょう。しかしそこは生鮮ですから、見た目のシズル感も大事ではないでしょうか。生鮮品も買いだめという選択肢が充実していけば、スーパーの来店頻度はコロナ禍に関係なく、これからも下がってしかるべきかもしれません。