今回のテーマは、「冷凍食品が主食、主菜の座に躍り出た」。実は消費者にアンケート調査をしてみると、冷凍食品の購入目的はお弁当用途よりも夕食・昼食用途の方が高い比率になる。すでに業界内では旧知の事実であるが、コロナ禍はその流れを加速させた。餃子、からあげ、シュウマイなどの需要が伸び、昼食用途を中心に麺類、ご飯類の利用が進んだ。メーカーはその機を見て、食卓でさらなる満足感を与えられる商品開発、提案を進め、定着を図っているのが現状である。
「お弁当用」のレッテルを剥がし新たな訴求へ
冷凍食品にレッテルのように貼られていた「お弁当用」というイメージは、この1年あまりで徐々に剥がれてきたようだ。スーパーマーケットの売場を見た限りでは、依然弁当用商品は冷凍食品の中でも最大の品揃えをしている店舗が多い。少子高齢化というメガトレンドはあっても、幼稚園、中高生ばかりでなく大人の弁当需要も根強い。またシニア層が、「大きすぎずいろいろ選べて手頃な値段で、おかずにちょうど良い」と弁当用商品を買っていく傾向があるという。
しかし、コロナ禍で普及したテレワークが今後も定着していくとすれば、弁当需要のマーケットは横ばいもしくは緩やかな縮小傾向となっていきそうだ。メーカーの開発・提案は、必然的に食卓需要の商品に重点が置かれてくる。それに売場も連動させて、「今日の夕食」「明日のランチ」、もしくは「明日の朝ごはん」といった訴求が有効になってくるだろう。
食卓向け開発とギョウザが牽引するトレンド
消費者が「冷凍食品を購入している目的」を見てみよう。日本冷凍食品協会が毎年春に実施している消費者アンケート調査によると、「冷凍食品を購入している目的」の1位は「自宅で食べる夕食」、2位は「自宅で食べる昼食」である(令和3年「冷凍食品の利用状況」実態調査より)。実は、この傾向はずっと続いている。3位は「お弁当用」で、これに4位の素材系商品(野菜、魚介)が肉薄している状況だ。もちろん同調査は、男女ほぼ同比率かつ幅広い年代で実施している。そのことを前提に読み解いてほしい。
過去10年ほどの家庭用冷凍食品市場を振り返ると、シニア層や男性の利用も進み、食卓需要が増加してきた。さらに女性の「時短」ニーズも後押しした。この流れは、昨年春以降のコロナ禍によって急流になった訳だが、一方で時間の余裕ができたことから手作り回帰の傾向も出てきている。メーカー各社は、夕食のメインディッシュで満足できるレベルの品質やボリュームがある商品の開発・提案を急ピッチで進めている。大きなポイントは「手作りを上回る品質、おいしさ」である。
2021年春発売商品では、レンジで解凍できる1枚120gのチキンステーキが2枚入ったニチレイフーズの新商品「てり焼きチキンステーキ」、大ぶりカットの海老がゴロゴロ入った味の素冷凍食品の「大海老焼売」が話題商品となった。前者は食卓のメインとしてドンと出せる存在感のあるステーキ。しかも、特製だれに漬け込んでからオーブンでじっくり、ふっくらジューシーに焼き上げるという、日本の家庭ではなかなかできない調理法が受けた。後者は、昨年夏から同社の肉焼売「ザ★シュウマイ」がヒットし急成長しているというトレンドを踏まえて、大きな海鮮焼売という王道で攻めた商品である。海老と肉を合わせ、やわらかい皮、コクのある味と飯店レベルのおいしさを実現した。
チキン関連商品もこの1年、から揚げ、竜田揚げ、フライドチキンなど需要増が続き、夕食向けプラスおつまみ需要を狙う商品提案が続いている。
さらに忘れてならないのは、餃子の大トレンドである。味の素冷凍食品の「ギョーザ」は、年間1億パック以上、売上200億円以上というガリバー商品で、いまだ成長を続けている。さらに、餃子二番手のイートアンドフーズ「大阪王将 羽根つき餃子」も一昨年に売上100億円を突破し、さらに勢いを増している。餃子はプライベートブランド(PB)も多彩だ。業務用餃子が得意商品のひとつであるマルハニチロ系列のヤヨイサンフーズでも、コンビニPB獲得戦略を進めている。さらに、韓国CJの「王餃子」や、街中華専門店系の大容量餃子(多くは生冷凍餃子)も脚光を浴びている。餃子は、家庭で調理に手間暇がかかる割には、おいしさという結果が各家庭の技量によってまちまちになってしまうメニューであり、どうやら「十分においしいので冷凍で良いのではないか」「羽根つきで仕上がる冷凍餃子がおいしい」という意見が主流になってきたようだ。
自分で作るより「おいしい」商品が牽引する
ランチ需要の主役・冷凍めんと、炒飯をはじめとする米飯類も、「便利」かつ、自分で作るより「おいしい」という点が需要増のポイントである。先に挙げた冷食協の消費者調査でも「冷凍食品の魅力は?」という問に対する回答は(複数回答)、男女ともに「調理の手間が省ける」に次いで「おいしい」が2位に位置している。しかも本年調査では、「おいしい」を挙げたのは女性で61.9%、男性で57.1%。女性は4年前より約17ポイント上昇、男性も8ポイント上昇している。つまり「おいしい」と評価されている商品が、昨今の冷凍食品の需要増を牽引していると推察できる。
人気ダントツ、国内生産量トップの玉うどんは昨年二桁アップの生産量であった(日本冷凍めん協会調査)。レンジ解凍の簡便性、経済性、アレンジの汎用性、さらにコロナ禍でストックできる保存性が改めて評価された。具付めんのうどん、ラーメン、パスタ類、そして、炒飯、ピラフなど米飯類はおいしいランチとして定着、売場での品揃えを充実することで選べる楽しさも提供できている。また、具付めんや米飯は大盛り商品も増えており、それだけで1食になるという「1食完結型」という便利さが人気だ。加えて「皿いらず」の機能性を加えた商品も多くなっている。コンビニPBも、この「1食完結型」、「皿いらず」のポイントを押さえた商品が多い。冷凍食品は、食卓の主役を演じられる技量があったからこそ、今日のゆるがない人気を勝ち得たと考えたい。
「冷凍」が優れた機能として正しく認識される年に
さて余談だが、連日報道されている新型コロナウイルスワクチンの話。各地の接種状況がニュースになる中で、ワクチンは超低温の温度管理で米国から輸送後マイナス20℃前後の温度で地域保管、その後2~8℃で5日間のうちに使用といった話が出てくる。「冷凍」は品質安定に欠かせない要素であり、フローズン・チルドで流通・消費する、ということが当たり前に受け入れられている。低温のコールドチェーンが保管庫の不具合で途切れて9℃以上になり、貴重なワクチンが廃棄されたという問題も出ている。国民の大多数がコロナワクチン接種を切望しており、誰も「冷凍したものなど信用できない」とは言わない。
「冷凍」に関する似たような違和感は、以前から「お取り寄せ」についてもあった。「冷凍食品なんて使わない」と断言する人も、北海道の毛ガニの「とれたて浜茹での新鮮さをそのまま、冷凍便で」、「有名パティシエの限定スイーツ(冷凍)」という文言を素直に受け入れる。つまり、低単価商品の「冷凍」には信頼感を抱けず、高付加価値品の「冷凍」には納得する。なんとも非論理的思考がまかり通って久しかったのだが、そんな時代もどうやら終わりに近づいているようだ。
山本純子責任編集、冷凍食品専門情報サイトは「エフエフプレス」(https://frozenfoodpress.com/)