コロナ禍で買い方も売り方も激変!先進企業がすでに始めている「新しい販促」!

雪元 史章 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
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チラシ、POP、接客…“アナログ販促”の威力も健在

小売業のアナログPOP
販促において、あらゆる小売業に共通する正解は存在しない。自店に求められていることは何かを再考することがまずは重要だ

 もちろん、新しい販促といっても、デジタル一辺倒というわけでもない。「わざわざそこで買物する理由」を顧客に与え、その店の“ファン”をつくるためには、従来あるようなアナログな手法も決して軽視できない。

 たとえば、古くからある販促ツールの1つにチラシがある。新聞購読数の減少やスマートフォンの普及などもありダウントレンドだったが、さらにコロナ禍ではSMへの需要が急増したことから、5月や6月にはチラシの発行を取りやめる企業もあった。しかし、「(コロナによる)営業時間の変更や定例の販促セールの有無などについて、チラシで情報を収集しているお客さまは多い」(カスミの山本慎一郎社長)といった考えから、チラシの発行を継続したSMも少なくなかった。なかには通常時のチラシとは内容を大きく変更し、コロナ禍における経営方針、商品に対する考え方、感染対策の取り組みなどを大々的に掲載することで、お客の安全安心を担保しようとする動きもみられた。

 また、POPや声掛けなどを通じた商品提案も重要だ。山梨県北杜市を拠点とするローカルSMひまわり市場(那波秀和社長)では、思わずくすりと笑ってしまうような文言のPOP、社長自らが行う「口上」のような威勢のいいマイクパフォーマンスが人気を集めている(詳しくは本特集48~49ページを参照)。その独特すぎる店づくりは地元のみならず、全国区のTV番組でも特集されるほどで、今では県内外からひまわり市場をめざしてお客がやってくるようになった。

 大阪府を中心にフライフィッシュ(湯本正基社長)が展開するSM「スーパー玉出」も、単なる買物スポットではなく大阪観光の一名所となるほど人々を惹きつけてやまない。同店の外観は黄色や赤を多用、店内でも壁面各所にネオンサインを掲げるなど、見た目からしてとにかく奇抜。さらには税抜1000円以上の買物を対象に一部商品を1円で提供する「1円セール」、冬季には鮮魚売場に観賞用の「クリオネ」が並ぶなど、販促施策も奇抜なものだ。こうした他店にはない独特な世界観で買物を楽しめることが、集客につながっているのである。

 さて、新しい販促を検討・着手するうえで考慮しておくべき重要なことが1つある。それは、あらゆる小売業に共通した正解というものはないということだ。AI技術やアプリといったデジタル技術を活用することが、必ずしも自店の顧客ニーズに合致するとは限らない。従業員と顧客の距離が近いエンターテインメント性あふれる店づくりに転換したところで、既存客の流出を引き起こす可能性もある。

 小売業に求められているのは、コロナ禍におけるお客の買物行動や消費ニーズの変化を総合的にとらえるだけではない。自社の各店舗のお客とあらためて向き合い、自店に何が本当に求められているのかを的確にとらえることが重要だ。そのうえで、自店に適した新しい販促の在り方を模索したい。

 本特集では、デジタル販促、アナログ販促、そして海外の販促トレンドを網羅的に取り上げた。数多くの事例の中に、コロナ禍・コロナ後を勝ち抜くためのヒントが隠されているはずだ。

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記事執筆者

雪元 史章 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

上智大学外国語学部(スペイン語専攻)卒業後、運輸・交通系の出版社を経て2016年ダイヤモンド・フリードマン社(現 ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。企業特集(直近では大創産業、クスリのアオキ、トライアルカンパニー、万代など)、エリア調査・ストアコンパリゾン、ドラッグストアの食品戦略、海外小売市場などを主に担当。趣味は無計画な旅行、サウナ、キャンプ。好きな食べ物はケバブとスペイン料理。全都道府県を2回以上訪問(宿泊)。

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