「ポテサラ論争」への回答からみえる商品コピーに必要な「買い手のハッピー」

川上徹也 コピーライター
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 ベネフィット(Benefit)とは、一般的には「利益」と訳されますが、広告業界では「その人にとって得する情報」という意味で使われることが多いです。「得」というと、金銭的なことばかりを考えがちですが、必ずしもそうではありません。お金以外のベネフィットもいろいろと存在します。

 私はこのベネフィットのことを「(商品を通じて得られる)買い手のハッピー」と超訳しています。当たり前ですが、自分に何かハッピーが書かれてあると思うと、人はその情報に興味を示します。自分に関係あると思うからです。

 このPOPで言うと「惣菜を買うと夕食のための調理の時間を節約できる」というのがベネフィットです。時間を節約できれば、その分、他のことに時間を使うことができます。もし買い手が惣菜を買うことに「手抜き」と言われる罪悪感を持っているとすれば、このPOPのコピーを読むことで引け目なく買うことができるかもしれません。

「買い手にとってのハッピー」の絵が浮かぶように

 視聴者へのベネフィットを提示するのが得意だったのが、「ジャパネットたかた」の創業者で元社長の髙田明さんでした。テレビショッピングでは、商品そのものを説明するよりも、その商品が買い手にとってどのようなハッピー=ベネフィットがあるのかを絵が浮かぶように話しました。

 たとえば、髙田さんが、テレビショッピングでとあるメーカーのICボイスレコーダーを販売した時のことです。一般的には会議がインタビューの録音で使われることが多く、メーカーのパンフレットには「録音時間」「音質」などが記載されていることがほとんどです。

 しかし髙田さんはまったく違うベネフィットを訴求することで、働くお母さんに向けてこのICボイスレコーダーを爆発的に売りました。それはどのようなベネフィットだったでしょうか?

 髙田さんは以下のように呼びかけました。

「働くお母さん。子供が学校から帰ってくる。でもお母さんはいない。ちょっと淋しい。そんな時、このボイスレコーダーがあると、お子さんに声でメッセージを残すことができるんです。『〇〇ちゃん、お帰り。お母さん、まだ会社だけど、おやつは冷蔵庫に入っているからね。宿題は早めにちゃんとやってね』とかね。どうですか? こんなお母さんの声を聞いたら、お子さんは喜びます。さびしさも少しやわらぐと思いますよ」

 自分が働くお母さんの立場なって聞いてみると、ボイスレコーダーを使うことによるハッピーが目に浮かびます。つまり「ベネフィット」が提示されているのです。 実際、この放送は大反響を呼び、ボイスレコーダーはバカ売れしました。

 皆さんが商品を売ろうとする時、POPに商品の特長を書いてしまいがちです。そこでちょっと考えて、買い手のベネフィットは何かを考えてみましょう。うまく発見して、買い手にとってのハッピーを絵が浮かぶように書くことができたら、きっとバカ売れに繋がります。

・プロフィール

川上徹也(コピーライター 湘南ストーリーブランディング研究所代表) 

大阪大学人間科学部卒業後、大手広告会社勤務を経て独立。東京コピーライターズクラブ新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴多数。中でも、企業や団体の「理念」を1行に凝縮し旗印として掲げる「川上コピー」が得意分野。「物語」の持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリーブランディング」という独自の手法を開発した。
著書は『物を売るバカ』『1行バカ売れ』『コト消費の嘘』(角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)『売れないものを売る方法? そんなものが本当にあるなら教えてください』(SB新書) など59万部突破。海外にも多数翻訳されている。

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