1万3000個のキャベツ廃棄を救った「1行の言葉」 「こだわり」「厳選した」では印象に残らない

川上徹也 コピーライター
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 それは「こだわりの」「厳選した」などの言葉です。これらはとても便利なフレーズですし、十数年前であれば一定の効果がありました。しかし現在においては、あまりにどこでも使われているので、お客さんに何の印象も残しません。私は「こだわりの」「厳選した」などの常套句を「空気コピー」と呼んでいます。文字が書いてあってもなくても変わらないからです。

 まずはチラシ・POP・メニューなどで商品を紹介する時、このような「空気コピー」を使わないと決意しましょう。すべてはそこからです。きっと大変だと思います。でもそうやって脳に汗をかきながら考えることで「強い言葉」は生まれてくるのです。
 
 前ページで紹介した、芸北ぞうさんカフェの植田さんが考えた1行も、「常套句」ではないとても「強い言葉」でした。

 

みんなをハッピーにした1行とは? 

 植田さんが考えた「1行」は、以下のものです。

「キャベツ狩り 車つめ放題」

チラシ
「キャベツ狩り」「車つめ放題」という印象に強く残る言葉をメインにしたチラシ

 植田さんはこう考えたのです。「キャベツ狩りに来てもらえば、こちらで収穫する手間がかからない。また芸北の野菜がどれほど美味しいかを知ってもらういい機会だ。豪快に『車つめ放題」にして1000円だけ参加費をもらおう。そのお金を農家に渡せば少しでも売上がたつ。自分たちは帰りにぞうさんカフェに寄ってもらえたらもっといい」と。

 このイベントチラシを植田さんがフェイスブックで告知すると、参加申し込みが殺到しました。広島市内はもとより、奈良、岡山、島根などからも申し込みがあり、軍手と包丁を持参して連日大勢の人たちが芸北までやってきました。その結果、廃棄される運命だった1万3000個のキャベツは、わずか2週間ですべてなくなったのです。

 ではなぜ、このような大きな反響があったのでしょう? まず「キャベツ狩り」というフレーズが、見た人の心をワクワクさせます。多くの人はキャベツ狩りなどした経験がないからです。 実際、ほとんどの参加者がキャベツの収穫は初体験。みんなとても楽しそうで、芸北産のキャベツのおいしさにとても喜んでくれました。

 また「車詰め放題」というフレーズもインパクトがあります。当時、市場に出回るキャベツは大高騰していました。広島市内では1玉600円の値段がつくことも珍しくなく、キャベツを大量に使う広島のお好み焼き屋はみんな悲鳴をあげていました。そんな時期だったので余計に喜びは大きかったことでしょう。

 もし、植田さんが行動を起こさなかったら、膨大なキャベツはただ廃棄されていただけです。それが「キャベツ狩り 車つめ放題」という1行のお蔭で、農家の方々にとっては、廃棄の労力や費用を払わないで済むばかりか、参加費も入り、芸北産のキャベツのおいしさを知ってもらえて、お客さんの喜ぶ顔もみれた、といううれしいことだらけ。植田さんのカフェも大盛況。また泊まりで来た人も多く、芸北地区の宿泊施設も潤ったのです。

 たった1行のキャッチコピーが多くの人の気持ちを動かし、廃棄されるキャベツが三方よしにも四方よしを超えて、みんながハッピーな状況をうみだしたのです。たとえばこれが「こだわりのキャベツ お分けします」みたいな常套句を使ったキャッチコピーだったからどうでしょう? おそらく誰の心にも刺さらなかったでしょう。「言葉の力」はすごいですね。

 次回は「強い言葉」を生み出す「具体的な方法」についてお伝えします。

 

・プロフィール

川上徹也(コピーライター 湘南ストーリーブランディング研究所代表) 

大阪大学人間科学部卒業後、大手広告会社勤務を経て独立。東京コピーライターズクラブ新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴多数。中でも、企業や団体の「理念」を1行に凝縮し旗印として掲げる「川上コピー」が得意分野。「物語」の持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリーブランディング」という独自の手法を開発した。
著書は『物を売るバカ』『1行バカ売れ』『コト消費の嘘』(角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)『売れないものを売る方法? そんなものが本当にあるなら教えてください』(SB新書) など59万部突破。海外にも多数翻訳されている。

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