新型コロナウイルス対策として政府が打ち出した休校要請、学校閉鎖などの影響で、EC(ネット通販)に特需が発生している。再配達ゼロアプリ「ウケトル」(ウケトル運営、横濱悠平社長)の調べによれば、2020年2月28日から3月6日の1週間EC出荷数は、前週(2月21日~27日)の1.6倍になったという。そうしたなか、注目を集めているのが、D2Cのサブスク型完全栄養食宅配モデルを展開するベースフードだ。
糖質カットした完全栄養食の麺、パン
コロナウイルス感染拡大に伴い、学校・幼稚園などの休校・休園、外出自粛、在宅勤務・テレワークの増加といった背景から、「昼食をどうするか」といったことへの関心が高まっている。
日本よりいっそう厳しい状況にある米国では、スーパーで食材が手に入りにくくなり、首都ワシントンでは外出禁止令が出されるなど、日常生活を維持するための負担が日々高まっている。
こうしたなか、日米、双方から注目を集めている食品が、オンラインストアから注文できる完全栄養食だ。
完全栄養食というのは、日本の場合、厚生労働省が策定した食事摂取基準に基づき、ビタミンやミネラル、たんぱく質、食物繊維など、人間が生活していくうえで1食に必要な栄養素が含まれている食品(米国の場合、FDA<アメリカ食品医薬局>の規定に基づく)のことだ。
この分野において、世界初の完全栄養の麺「BASE NOODLE(ベースヌードル)」、世界初の完全栄養のパン「BASE BREAD(ベースブレッド)」を開発販売するのが、2016年4月設立のフードテック企業、ベースフード(東京都/橋本舜社長)。17年10月に1億円、19年5月に4億円を、それぞれ資金調達している。
「ベースヌードル」は、生パスタに対し45%糖質をカットした完全栄養食の生麺で、熱湯で3分ゆでて、好みのソースをからめて食べる。「ベースブレッド」は糖質を35%カットした完全栄養食のパン。袋から取り出してそのまま食べることができ、バターやチョコクリームをそえたり、ハムやチーズをはさんだり、好みのアレンジで楽しむことができる。いずれも、合成保存料、合成香料、合成着色料は不使用、1食(ベースブレッドは1食2個)で1日に必要な栄養素の3分の1をとることができる。常温保存で、手元に届いてから約1カ月が賞味期限だ。
17年2月にベースヌードルの前身となる「BASE PASTA(ベースパスタ)」の日本での販売をスタートさせ、19年9月からは米国での販売も始めた(BASE FOOD,US.,Inc.)。
19年の販売数量は前年比で4倍以上伸び、ベースヌードル、ベースブレッド(以下、両者の総称としてベースフードと表記)の合計累計販売食数は134万食を超えた。確実にスケールメリットも生まれてきている。
在宅勤務きっかけにランチ需要急増
ベースフード社のビジネスは、D2C(Direct to Consumer;自社開発した商品を自社チャネル中心に販売する)によるサブスク型(定期購入)が中心だ。日米ともに、自社オンラインストアで販売している。主なターゲットは仕事や家事に忙しく、食生活に気を配る余裕のない20~40代のビジネスパーソンや女性層だが、最近では子どもたちが巣立っていったシニア世帯からの利用も増えている。そのうち8割がサブスクを利用している。
今回の新型コロナウイルスの影響もあって、新規の注文、問い合わせ件数も増えているという。
「在宅勤務をきっかけに、ランチ用にベースフードの購入を始めたお客さんもいる」(同社)
また、先日、ある「子ども食堂」(食事に困っている子どもたちに、無償もしくは安価で食事を提供する)にベースフードを提供したところ、「このところ調理ができない食材が多く、栄養の偏りが心配だったが、ベースフードなら安心して食べさせられる」と喜ばれた。
米国でも、スタンフォード大学のある院生から「外出禁止令のため食材の調達ができず困っている」という声を聞き、院生全員にベースフードを寄贈。
「『食料がなかったから助かった』というお礼だけでなく、『おいしい料理を楽しめた』とうれしい声も届いた」(同)。
同社が実践するD2Cモデルの場合、製品は「一度つくればそれで終わり」ではない。日常的に顧客との接点をもち、製品の改善・改良につなげている。
販売開始当初、約2ヵ月の冷凍保存だったベースブレッドは、その後、常温で約1カ月の保存が可能なロングライフパンにリニューアルされた。おいしさのマイナーチェンジ、サービスの向上も常に行なわれている。
ベースフード社は「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」をミッションとして掲げている。
5000年前からほとんど変わっていない「小麦粉100%」というパンや麺づくりの制約を取り払い、いろいろな原材料を混ぜて「完全栄養食の世界一おいしいパンや麺として提供」し、健康格差(知識や忍耐力、お金のある人ほど、健康を手に入れやすい環境)をなくし、「意識しなくても、ふつうに主食を食べていれば健康でいられる」社会をつくる、といった意味だ。
「世界一おいしいパンや麺が完成するのは10年後になるかもしれないが、ファイナンスで投資家から得た資金と、サブスクモデルで積み上がる利益を両輪に積極的に攻めていきたい」
橋本舜社長率いるベースフードは、今日よりも明日、明日よりも明後日と、日々、確実にその成長のギアを上げている。