2019年5月8日から10日の3日間、東京ビッグサイトにて、第28回「Japan IT Week春(後期)2019」が開催された。そうしたなか、セミナーおよび展示内容を通じ、流通小売業にとって気になるキーワードに関する動向をレポートする。第1回は、次世代ECについて。ECサイトとの競争、店舗を持つ小売業がいかに効果的にECを活用するかという観点で、新たな発見が得られるものだ。
消費者がデザインしたものを商品化!
1100のECサイト構築実績をもつecbeing(東京都)の林雅也社長は、「次世代Eコマース」をテーマにしたセミナーの中で、注目すべき事例として、3社のケースを取り上げた。
1社目が米国・リーバイス社。
クリエーターや消費者自身がデザインしたデータを、リーバイス社に送り、同社ではそのデータをもとに商品として提供するという、D2C(Direct to Consumer)企画を試みている。
この発想の原点は、「つくったものを売る」から「売れるものをつくる」への転換にある。
そのため同社が進めているのが、商品は「完成品」から「(白地の)キャンパス」(=購入者が自由にデザインできる)へ、店舗は「できあいのものを展示する場所」から「クリエーターとのコラボレーションの場」へ、倉庫は「商品をピックアップする場」から「製造の場」に、顧客とのコミュニケーションは「プロモーション」から「顧客が個性をインスピレーションするサポート役」に、という変化である。
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日本の小売2社が進める!実店舗の強みを生かした展開!
スタッフ出演動画をECに使い、エンゲージを高める
続く事例は国内企業のケースだ。
オムニチャネルが当たり前の時代になり、消費者の購買行動が大きく変化している。
「ネットで商品情報を確認しネットで購入」はごく一般的なECだが、店舗で実物を確認しながらスマホからEC購入、またあるときはECで購入した商品を最寄りの店舗やコンビニで受取ったり、SNSなどでのお勧め商品を店頭で購入したり、朝ネットから取り置きしてもらったものを昼休みに店舗で受取ってみたり、ネットとリアルの境を意識せず、行ったり来たりしながら買い物を楽しむスタイルもごく普通のものと考えられるようになっている。
こうした変化にしっかり対応している日本国内の事例として、紹介されたのが、ビームスとABCマートだ。
ビームスはスタッフの接客力が他社との差別化要因になっているが、EC展開となった途端に、同社の強みが失われてしまう。そこで同社がとった施策が、店舗スタッフが自ら出演する動画を撮影しECサイトにアップすることだった。
手づくり感が伝わってくる動画は、スタッフのキャラクターそのものだ。動画を通じて店舗スタッフのキャラクターが伝われば、自ずと顧客との絆も生まれやすい。そうなれば店頭同様の接客につながるのではないか。
ECサイトは、一見、他社との差別化が難しいと考えられるが、同社では、スマホアプリで動画制作が簡単になったこと、ECサイト上でストレスを感じることなく動画を見る環境になっていることから、「EC+動画」により、実店舗のビームス同様の差別化が図れると考えるに至ったのだ。
店頭で在庫切れでも、その場でEC購入を提案できる仕組み
ABCマートでは店舗スタッフ8000人を抱えているが、2018年末に、従業員向けのアプリをリリースし、アプリ経由でECを含む他店での在庫情報や商品情報を参照できるようにした。
ABCマートで扱うようなファッション性の高いシューズは、デザインや型番、またサイズの違いにより、顧客のニーズを満たす商品が店頭で品切れ、ということも少なくない。
その場合、以前であれば、別のデザインを勧めるか、さもなくば、顧客はそのABCマートでの購入をあきらめて他店に行くか、となってしまっていた。しかし、このアプリを導入して以降は、最寄りのABCマートに在庫があるか、あるいはその場でECから購入できるかどうかが確認できるようになり、顧客に対し、その場でセカンドチョイス、サードチョイスの提案ができるようになった。つまり、顧客にとっての利便性が格段にアップしたのだ。