イオンは冷凍タイプのミールキットの販売を4月より開始した。「新たな市場を切り開く」商品として約2年の期間をかけて開発したものだ。小売各社が続々とミールキットを開発するなか、イオンが投じた商品はどのようなものか。
小売業だから展開できるミールキット
有職女性の増加などを背景に食事の準備に対する時短ニーズが高まるなか、昨年ごろからカット済食材や必要な調味料をセットにしたミールキットの開発ラッシュが続いている。
イオンは18年3月に、オリジナルのミールキット「トップバリュ Cookit (クッキット)」シリーズの販売をスタート。これまでに35SKUを開発し、現在イオングループの約300店で、常時7SKUを展開している。
そうしたなか今回発売したのが、冷凍タイプのミールキット「フローズン Cookit」シリーズだ。チルドのミールキットを販売するなかで「日持ちがして家に常備しておけるような商品がほしい」という要望があったことから開発に至った。これまでのチルドタイプよりも消費期限が長く廃棄リスクが低いことから、同シリーズはイオングループの大型の食品スーパーや総合スーパーなどの約1500店から取り扱いを始める。またチルドタイプとともに、ネットスーパーでの販売も強化していくという。
イオントップバリュ取締役マーケティング本部本部長の和田浩二氏は「ミールキットは、比較的単価が高く、商品展開にある程度の広さの売場が必要になることから食品メーカーがなかなか開発できない商品。小売業だから提案可能な商品として開発・販売に挑戦し新たな市場をつくっていきたい」と意気込みを語っている。
水も油も必要なし!
開発したのは「豚肉となすの甜麺醤炒め」「筑前煮」「黒酢酢豚」「鶏もも肉とれんこんの甘辛炒め」「牛肉と野菜のプルコギ風」「えびとブロッコリーの中華あん炒め」の6SKUだ。家庭でつくると、多くの調味料を揃えたり、調理時間が長くかかったりしてしまうようなメニューを提案することで、ミールキットを購入するメリットを感じてもらえるようにした。
同シリーズにおいて、イオンが他社にない特徴として打ち出すのが「水も油も必要なし」という点だ。
調理法を見ていくと、まず袋を開けてトレーごと電子レンジに入れ、600ワットで3分30秒温める。
「このひと手間がポイントで、半解凍にすることで素材から出る水分を調理に生かす。また、素材のうま味を感じられる仕上がりになる」とイオントップバリュ商品開発本部デイリー商品部フローズンMDグループの稲垣伸基氏は説明する。
レンジアップ後は、半解凍の食材をフライパンに移し、付属の調味料を加えて炒めたら完成だ。レンジ調理時間を含めて約10分で完成する。
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他のミールキットとの比較!
ミールキット先駆者
生協に勝てるのか?
価格は、すべて2人前で税抜798円。生協や、食材宅配サービス「ヨシケイ」の商品などを手掛けるフードテック(香川県/青山光一社長)と協力。これまで販売してきたチルドタイプの商品よりも100円ほど安い。
下図は大手ECやSM、生協のミールキット商品との比較だ。
組織・またはサービス名 | 商品名/ サービス名 |
発売開始 年月 |
量目 | 主力商品の 価格帯(税抜) |
目安調理時間 |
イオン | フローズン Cookit | 2019年4月 | 2人前(450g) | 798円 | 10分 |
IYフレッシュ | ミールキット | 2017年10月 | 2~4人前 | 900~1200円 | 10~15分 |
オイシックス・ラ・大地 | Kit Oisix | 2013年7月 | 2~3人前 | 1200~1300円 ※副菜あり |
副菜込みで 20分、10分 長時間メニューもあり |
アマゾン ジャパン |
Amazonフレッシュ | 2018年2月 | 2~3人前 | 800~1200円 | 10~15分 |
コープデリ | ミールキット | 2013年1月 | 2人前(450g) | 780~880円 | 10分 |
日本生活協同組合連合会 | 冷凍ミールキット | 2018年9月 | 1~2人前(250g) | 398円 | 7分 |
日本生活協同組合連合会の冷凍ミールキットの低価格が目立つものの、グラムあたりの価格では実はイオンの冷凍ミールキットと大きな差はない。調理時間では、わずか7分で完成する生協に軍配が上がるが、店舗数が多く、消費者がいつでも店頭で購入できるという点においてはイオンに利点があると言えるだろう。
チルドのミールキットと比べれば低価格を実現した同シリーズだが、冷凍食品というカテゴリーで考えると単価は高い。和田氏は「最初はほかの冷凍食品と比較して価格が高いという印象を与えるかもしれない。しかし実際は食材をすべて揃えたり、総菜を購入したりするよりも値ごろな商品。理解してもらえるように店頭での啓発活動を行っていきたい」と語っている。発売日、「イオン葛西店」(東京都江戸川区)では、冷凍食品売場の平台で商品をコーナー化。売場に従業員が立ち、商品の特徴を伝えながら試食販売を行っていた。
ミールキットというよりもReady to Heat
「黒酢酢豚」の調理シーンを見学後、試食も行った。
率直な感想を述べると、豚肉はすでに衣付きの調理済みのものが入っており、「Ready to Cook」(調理の下ごしらえがされている)というよりも「Ready to Heat」(温めると食べられる)商品という印象を受け、ミールキットのなかでは手づくり感は少ないほうだと感じた。
しかしながら、水も油も必要ない簡便性、そして保存性の高さは利便性が高く、冷凍庫に1~2つストックしておきたいと感じた。
味については、「シャキシャキ感」といった素材の鮮度や食感はチルドタイプと比較すると少ない。印象的だったのは、総菜や「Ready to Heat」の商品にありがちな「味のくどさ」がなかったことだ。「開発の最終段階でモニターの試食・聞き取り調査を行いながら、味の微調整を行ったことで家庭の味に近い味わいを実現している」(稲垣氏)という。
イオンのチルドタイプのミールキットの累計売上高は2億5000万円。イオンは冷凍タイプのミールキットを投入したことで、チルドタイプを合わせてミールキットで年間売上高10億円を達成したい考えだ。
市場を切り開くためには、消費者への認知度の拡大と、購入頻度の向上が不可欠だ。イオンの冷凍ミールキットは市場拡大の起爆剤となるか注目だ。