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食品スーパーで、「総菜の売上」だけがどんどん伸び続ける納得の理由とは

2022年の上半期、食品スーパーの既存店が総じて前年実績を越えない中、総菜部門は伸長しました。粗利を稼げる部門として店側の期待が高まる総菜は、消費者の需要もしっかり伴っています。今回はその総菜をテーマに、なぜ伸び続けるのかについて考えてみたいと思います。

家庭的なメニューを彩りよく仕上げた夏野菜の揚げ浸し総菜(東武ストア フレッシュ&クイック朝霞台店)

総菜だけが伸び続ける理由は・・・

 総菜だけが伸び続けるのはなぜか? 食品スーパーの中で、この部門だけは他の業種からも需要を奪える部門だからではないでしょうか。

 食品スーパーで扱う商材は、内食用途が基本です。購入した商品は自宅にストックされ、段階的に消費する商材がほとんどです。この内食ニーズは、人口的にも世帯構成の変化をみても増えようがありません。胃袋の数が減り、自宅で調理する機会も減り続けています。コロナ初年の一時期は高まりましたが、やがて「コロナ疲れ」と言われ始め、それから今に至るまで中食や外食への再流出が続いています。

 内食主体の食品スーパーにあって、総菜は「中食の範ちゅう」にあります。ストックせずに消費するのも特色で、チルドや冷凍の中食商材との違いはそこにあります。作りたくもなければ食べに行きたくもないとき、1回食べ切りのスタイルで購入するものです。外食からも内食からも需要が流れてきて、食事の機会ごとに商機がある。それなら、総菜の魅力が高まるほど需要開拓の余地がありそうです。

 家庭料理からの中食シフトを試みた最近の例として、東武ストアの夏季限定メニュー「香川県産ナスと6種の彩り野菜の揚げ浸し」は印象的でした。7月オープンのフレッシュ&クイック朝霞台店(埼玉県朝霞市)の取材時、土金信彦社長は「ナスは夏の時期が最高においしい。そのナスを使って、総菜でも季節感を表現したかった」と話されました。夏ナス、なるほど。しかし嫁に食わすなとも言われる秋ナスは? と確認すると、「あれはまた別のものだけど、一番は夏」だそうです。

 ナスの素材は青果部門のものを使用し、カボチャやトマト、オクラなどを加えることで彩りよく仕上げています。また、同時期に展開が始まった「くるみ太巻き」は、家庭的な味でありながら、あまり例のないメニューだと思いました(持ち帰りやすかったので実際に食べたうえでの感想)。こちらは新潟の郷土料理をヒントにしたそうです。

東武ストアの「くるみ太巻き」。何気ないけど、また食べたくなる

コロナ前より、インストア加工への意欲が高まっている理由

肉料理のコーナーでハンバーガープレートを展開(ベイシア行田店)

 コロナ禍は、外食からの中食シフトに拍車をかけました。この商機が、食品スーパーの総菜開発を活性化させたことは間違いありません。

 ベイシアは、コロナ以前にもフランス料理の総菜シリーズを試みたほど、外食分野の需要開拓に意欲的なチェーンです。7月に改装した行田店(埼玉県行田市)を取材した時は、韓国料理のメニューを集めた「ソウル市場」や、肉料理の「デリヴィアンド」を展開していました。デリヴィアンドは店内で作るグリル系肉料理のコーナーで、ハンバーガーは個包装されたファストフード式ではなく、レストラン的なプレートスタイルです。

 コロナ以前に比べ、チェーン各社のインストア加工に対する意欲は高まっていると感じます。工程の一部にプロセスセンター等を入れるとしても、最後は店内調理で差別化するという商品が目立っています。

 コロナ以前は、店舗の作業軽減も喫緊の課題でした。アウトパック総菜の研究開発に比重があったように思います。ベンチマークの対象としてコンビニエンスストアを挙げる声も聞かれました。

新たなカテゴリーに挑戦できる背景

対面形式で提供する天ぷらコーナー(ライフ西荻窪店)

 コロナ以降、外食をベンチマークした商品や、スイーツなどの専門店を意識した開発が増え、新しいカテゴリーに挑戦する事例も増えています。そして差別化の決め手として、インストアで加工できる強みを活かすという話をよく聞くようになりました。全体の作業負荷をコントロールしつつ、手をかけるべきところには人時を投入するという発想です。

 ライフコーポレーションは、7月に開設した西荻窪店(東京都杉並区)に、対面形式の天ぷらコーナーを導入しました。農産部門の素材を使い、油にはキャノーラ油にオリーブ油を加える工夫をしています。コロナ禍でバラ販売をしづらくなった揚げ物ですが、ガラスケースに陳列する付加価値スタイルで訴求する試みです。「バイ・オーダー」での提供も行うといいます。

 インストアで相当量を製造できる体制を備えていることは、コンビニやドラッグストアに対する食品スーパーの差別化ポイントであることは確かです。コロナ以前は、人手不足や作業負荷、さらには食品廃棄の観点からもコンビニ型の総菜開発に関心を向ける傾向にありましたが、コロナ禍にあって食品スーパー自体の売上が伸びたこともあり、業態本来の強みに自信を取り戻したのかもしれません。