ABEJA(東京都/岡田陽介社長:以下、アベジャ)は、AI(人工知能)のブレイクスルー技術であるディープラーニング(深層学習)をベースにした画像解析技術で、顧客の属性推定や、行動解析を行うサービスを提供する。これまで得られなかったデータを定量的に可視化し、商品陳列、客動線、接客の改善につながるヒントを提供する。
画像解析技術を活用し、顧客の属性や行動を解析
アベジャの創業者である岡田社長がディープラーニングに関心を持ち始めたのは2011年頃。場所は米シリコンバレーだ。「シリコンバレーでは、AIとくにディープラーニングの技術が急速に進み始めていた。それをどう応用し、ビジネスに結びつけるかに関心が高まっていた」。岡田社長は日本に帰り、12年9月にアベジャを設立した。
会社設立後、ディープラーニングの研究開発に取り組み、約1年半後に「ABEJA PLATFORM(アベジャ・プラットフォーム)」が完成した。15年には、三越伊勢丹ホールディングス(東京都/大西洋社長)が、「ABEJA PLATFORM」の小売・流通向けサービス「ABEJA PLATFORM for Retail」を採用した。
「ABEJA PLATFORM for Retail」とは、ディープラーニングというAIによる画像解析技術を活用し、顧客の属性推定や、行動解析を行い、定量的なデータを可視化するサービスである。
このサービスの利用にあたっては、分析を行う基礎データを収集するために、複数台のカメラをはじめとするセンサーを店舗内に設置する。設置したさまざまなセンサーやCRM(顧客関係管理)やPOSなどの既存システムから得られるデータを統合し複合的に解析し、その解析結果をダッシュボードにわかりやすく可視化する。
「ディープラーニングをはじめとするAIをビジネスに活用することを最初から考えて設計したプラットフォーム」(岡田社長)で、クラウド型サービスであるSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として提供している。「ABEJA PLATFORM for Retail」は、17年1月末時点で全国300店舗以上に導入されている。
買上率に着目し店舗の課題を把握
「ABEJA PLATFORM for Retail」で、各種センサーから収集されたデータは、まさに定量的なリアルのデータだ。経験や肌感覚から導き出された仮説は、ある意味で定性的であり、科学的な根拠を持たない。小売業は、店舗の売上向上や顧客満足度の向上のために、店舗スタッフの勘や経験だけではなく定量的なデータに基づいた施策を講じる必要がある。
小売業にとって、これまでほぼ唯一の店舗内から得られるデータはPOSデータである。それに関連するデータとして、日時や天候、気温のほか、会員カードによって得られる購買履歴などがある。しかし、「何人が来店して、そのうちの何人が買ったか」といったいわゆる買上率(来店客数に対する購入客数の割合)を、データとして把握しているケースはほとんどない。肌感覚でしか捉えられていないのである。
「ABEJA PLATFORM for Retail」を導入した例では、買上率の分析に活用されることが多い。たとえば、衣料品専門店チェーンの大型店舗ではスペースの効率化を課題としていた。どこに何を陳列すればより多く買ってもらえるのか、あるいは買上率を向上させるために売場の配置や接客に改善の余地はあるか、といったことだ。
店舗に設置されたセンサーカメラで、来店客の人数や性別、およその年齢などは把握できる。買上率が低い場合には、買いたい商品がすぐに見つからない売場になっている、あるいは店舗の来客の属性に合った売場づくりができていない、スタッフのシフトが来客数に適していない、もしくは店舗スタッフが来店客に気づいていないといった原因が考えられる。
「ABEJA PLATFORM for Retail」では、センサーから取得した各種データや既存データと組み合わせて複合的に解析した結果を表やグラフなどわかりやすく自動的に加工して一覧表示するダッシュボードを提供しており、買上率の日々の変化も容易に把握できる。可視化された買上率や客動線の分析結果に基づいて、ただちに施策を講じて改善に移す。そして、その効果を検証する。この一連の流れもすべて定量的なデータを基本とする。
買上率に着目したことで、店舗の従業員のモチベーションに変化が生じた店舗もあるという。買上率というデータが明確に示されることで、何が失敗だったのか、何が効果的だったのかを判断でき、その結果、従業員が買上率向上を図るための改善活動に取り組みやすくなったからである。
データを分析し未知の事実を発見
もう1つ、具体例としてテレビ通販・ネット通販などを展開する「ショップジャパン」を運営するオークローンマーケティング(愛知県/ハリー・A・ヒル社長)のケースがある。同社は、ロングセラーのオーバーレイマットレス「トゥルースリーパー」を実際に手に触れて確かめたいという顧客ニーズに応えるため、リアル店舗を出店している。
同社は、出店から1年半を経てわかったこととして、「お客さまのニーズがなかなか可視化されない」ということだった。そこで、「トゥルースリーパー熱田店」で「ABEJA PLATFORM for Retail」を導入し、来店客数と店舗前の通行人の年代・性別データを取得し分析を行った。そこで分析したのは、買上率や年代・性別ごとの入店率、買上率の高い時間帯などだ。得られたデータを見ると、ショッピングモール内にある同店の場合、買物客が多い昼間の時間帯に入店率は高いが、買上率が高いのは夕方ということがわかった。
同店はショッピングモール内にあるため、マットレスのような大きな商品の買物は、ほかの店舗で買物をして最後に購入するという顧客の行動パターンが明確になった。また、予想外のデータとして把握できたのは、男性の入店率が想定していた以上に高かったことだ。店舗前の通行量は女性のほうが多かったこともあり、来店客は女性が多いという先入観があった。しかしデータで示されたのは、男女半々の入店率だ。これは日々、店舗にいる従業員からも報告されていなかったことだという。
これまで、女性客のほうが多いと考えていたために、プロモーションは女性向けが中心だった。男女半々ということがわかれば、販促施策も変更する必要がある。また、テレビ通販で購入するのは60代が多く、そこに向けたプロモーションに力を入れていたが、リアル店舗の場合は30~40代が顧客の中心ということも判明した。顧客属性が、テレビ通販とリアル店舗で違うということが分析データで示されたのである。
業種・業態に対応したサービスに拡充
データ分析システムやAIによって売上が大幅に向上できれば投資のメリットはあるだろう。しかし、ビッグデータを取得し解析する「ABEJA PLATFORM for Retail」のようなシステムを開発するとなると長い期間を必要とし、莫大なコストもかかる。アベジャのようなSaaSでの提供ならば、企業は比較的低コストで導入し、必要とするデータを可視化できる。実際、「1店舗から始めるスモールスタートのケースも多い」(岡田社長)。モデル店舗を選びスモールスタートして効果を検証し、順次、導入店舗を拡大することで効果の最大化をねらう流通企業が多いからだ。SaaSならば、そうした拡張性を考慮した運用ができる。
実店舗の最終的なゴールは、売上や利益率の向上である。これを実現するためにも、これらのテクノロジーを活用してこれまで得られなかったデータを取得し、適切な解析を行い定量的な根拠に基づく施策につなげることが重要である。
アベジャは今後、さまざまなセンサーデータを取り込むための機能強化や、アプリなどを開発し、より使いやすいユーザーインタフェースの充実を図る考えだ。食品スーパー向けや衣料品専門店チェーン向け、あるいは外食向けなどさまざまな業種・業態への展開を可能としている。
【実証実験募集】
●「ABEJA PLATFORM for Retail」を活用した実証実験のパートナー募集
ディープラーニングをはじめとするAIを活用した「ABEJA PLATFORM for Retail」を店舗に導入してみたい流通業様を募集します。抽選で1企業(1~3店舗)様につきまして、実証実験を無料で実施いただけます。
募集期間:2017年3月1日~3月31日 実証実験開始時期:5月以降を予定
<<ご応募ありがとうございました>>