オムニチャネルの“失敗”
在庫・顧客データの一元化だけではない「360°の顧客理解」が戦略の第一歩

2017/03/03 11:45

顧客体験の提供で直面する5つの課題

 だが、よりよい顧客体験を提供することの重要性は認識されていながらも、はじめの一歩をなかなか踏み出せていない企業は多い。その理由、つまりよりよい顧客体験を提供する際に、マーケティング上直面する課題は大きく5つある。

 

 1つめはスピード。アドビの調査によれば、米小売業界のCEO(最高経営責任者)の90%が他社との激しい競争を懸念しており、競争力を維持するためにリアルタイムでのマーケティングが求められていると考えている。だが、日々技術が進化する昨今、とくにデジタル上の顧客接点においてリアルタイム性を維持するハードルは高まる一方だ。

 

 2つめは複雑さ。デジタル上の顧客接点の増加は、すなわちそこから生み出されるデータの増加と複雑化を合わせて招いている。その膨大なデータをどう扱うか、また、その複雑化したデータからどう次の一手を導き出すかといった分析能力も求められる。

 

 3つめは顧客との関係性維持。情報があふれ、選択肢も増加し、購買の主導権が顧客に移った今、「選ばれる」ために企業がしなくてはならないことは非常に多い。

 

 4つめはROI(投資利益率)。投資対効果のことだ。顧客接点が増え、取るべきアクションも増えたなか、マーケティング活動に対して、これまで以上の投資が求められている。自分たちのビジネスを成功に導く仕組みを選び、そこに適切な投資をするための“目”を持つことが必要だ。

顧客接点がデジタルを中心に激増した。その接点から得られるデータを分析し、パーソナライズ化された情報を提供する
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オムニチャネルはこれまでECと店舗での購買の利便性が重視されたが、これからは顧客体験の提供が重要になる
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 5つめが“個客化”。多くの選択肢から消費者に選ばれるには、これまでの「いつでも」、「どこでも」、「だれでも」といったマーケティングに加え、「今だけ(リアルタイム性)」、「ここだけ(位置情報)」、「あなただけ(個人向け)」といった要素が必須となってくる。

 

 これらの課題を解決するために必要となるのが「360°の顧客理解」だ。数多くの顧客接点から的確にデータを取得し、顧客の姿をリアルタイムに見極めることが課題解決の第一歩となる。そのうえで、適切な情報を、適切な相手に、適切な顧客接点を通じて、適切なタイミングで届けるというアクションが続く。

 

 アドビが定期的に実施しているセミナーやワークショップも、顧客接点の把握と、その接点を行き交う顧客一人ひとりをどう理解するかといった内容が中心になっているが、毎回議論が白熱している。それは顧客体験が、これまでオムニチャネルを考えるにあたって、見落とされていたからでもある。オムニチャネルにすべきなのは在庫や顧客情報だけではない。オンライン、オフライン含め、あらゆる接点においてよりよい顧客体験を一人ひとりに提供することこそが、これから求められるオムニチャネルのあるべき姿だと言っていいだろう。

 

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