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【特別提言】
流通・小売業界の“勝ち組”のイノベーションとは
アクセンチュアが提案

ハイパフォーマンス・リテーリングを実現する、経験・実績に裏付けされたソリューション

 流通・小売業界は、長引く消費不況の中で経営改革に取り組み、業界再編や企業淘汰も進んでいる。厳しさを増す外部環境は、流通・小売業界にさらなる変革を迫り、従来の取り組みの延長線上にはない新たなイノベーションが必要になっている。グローバルリテーラー、国内リテーラー双方の成長戦略をサポートしてきたアクセンチュアでは、流通・小売業界が直面している課題のなかで、とくに重要なテーマに関する課題を提起するとともに、実証済みの新しいソリューションを提案する。

志俵 克史 アクセンチュア シニア・プリンシパル 流通・小売業界 スペシャリスト

―― デジタル・マーケティング&コマース ―――

“今”こそ、デジタルと向き合う

  日本のネット販売の売上は、すでに10兆円に迫る規模であり、今後5年で15兆円程度に拡大すると予想されている。こうした状況下で、小売業にとってはECやネットスーパーをはじめとして、社会の変化にどのように対応していくかが今後、小売業が直面する、逃れようのない大きなテーマとなっている。

 しかし、EC・ネットスーパーの場合、すでに先行して投資を行っている大手企業や海外勢の企業が、必ずしも順調に急成長しているわけではなく、投資とコストの負担が重くのしかかっているのが現状である。そのような環境の中で、先行き不透明なデジタル事業の展開については、どのタイミングで、どのくらいの規模で踏み出すのかという決断は非常な困難を伴う。もちろん、この問題に対する正解は存在しないだろう。しかし決断できるとすれば、それは“今”である。すでにデジタル事業を展開している小売業は“今”、見直しを図るべきであり、未着手の小売業は“今”、成長のための展開に着手すべきであろう。

 なぜ“今”なのか。それは、SNS(ソーシャル ネットワーキング サービス)のようなデジタル時代の先頭を行くという発想ではなく、小売業のビジネス視点でデジタル社会に生き残るために、どう対応すべきなの
かという視点で、デジタル・マーケティングとネット販売に代表されるデジタル・コマースを、戦略的に切り分けてとらえていくということが重要なのである。

シニア・スマートフォン時代に備える

 長年、日本の小売業のマーケティングの主役はチラシが務めてきた。このマーケティング手法は日本特有と言ってもいい。ほぼ全世帯に行き渡っている新聞宅配インフラを背景にしたチラシ販促は、コストとRO(I 投下資本利益率)においてきわめて優れており、そのためにEDLPを戦略の柱にした海外流通業の成功モデルが、日本で必ずしも成功していない。

 そして、チラシ販促の将来については断言できないが、今でも十分優れた、かつ強力なマーケティングの手法である。ただ、現状では社会のデジタル化で新聞離れが着実に進行している。そのため、新聞の発行部数が毎年100万部ずつ減少している。とはいえ、まだ全体で4500万部もあり、今後、部数の減少が加速する可能性が指摘されているものの、すぐになくなるメディアではない。新聞の発行部数の減少は全国紙が主であって、今後、地方紙までなくなるのか、実態は若者の新聞離れ中心でとどまるのか、シニア層まで離れていくのか、誰も将来を予見できないのが実情である。

 一方、社会のデジタル化の進展によって、スマートフォンが急速に普及している。2011年の普及率はすでに20%となり、携帯電話に対する出荷シェアは70?80%になっている。スマートフォンの急速な普及は、これまでとは異なる市場を形成するとも考えられる。若者だけではなく、中高年層や女性にもスマートフォンが普及しはじめており、すでに通信事業者やキャリアメーカー開発が、スマートフォンにシフトしているという状況だ。携帯電話とスマートフォンの両者に等しく開発投資することは、現実的に考えにくく、しかも価格面でも携帯電話より低価格で提供される業界力学が働いている。つまり、消費者の意向だけではなく、供給側の論理がそれを増幅し、普及が加速すると思われる。 

 

 そのスマートフォンという携帯電話に比べ、はるかにPC的なデジタル環境が急速に消費者の手元に普及することで、小売業にとって「顧客へのアクセス・パスがない」「チラシでリーチできなくなったときに代替がない」などのリスクが今後、増えていくと予想される。それを見据えると、顧客管理やポイントプログラムやSNSなどの必要性とは異なる次元で、モバイル会員の拡充やアクセス・パスの整備は少なくとも考慮すべきである。

 会員化の話が出るとすぐに思いつくのが、「One to Oneマーケティング」や「セグメントなどのCRMとデータ分析」である。しかしここでは、そのようなアプローチを切り離して、まずは全会員へのメール配信、見せるクーポン展開、店頭・チラシとの連動などマス展開のツールとしての活用を提案したい。そして、世界レベルで展開され競争が激しいデジタル・マーケティング市場の中で戦いを挑むのではなく、より重要なリアル店舗と連動したマーケティング、とくにレシートなどの活用をめざすべきだと考える。

 レシートは、主婦や高齢者は受取率が高く、しかもしばらく保管しておく傾向がある。これがデジタル時代であっても、なくなるとは考えにくく、むしろデジタル・マーケティング時代を見据えて、データ活用のためにPOSシステムの改修などが必要だとしても、投資する価値はあるだろう。

リアル店舗の顧客基盤を守る

 ネット販売を食品カテゴリーでみると、2011年が前年比約16%増の約3000億円、ネットスーパー市場は同年に、同37%増の約800億円と伸びている。しかし現段階では、確かに参入しないとリスクがあるとまではまだ言えない規模だ。ただ、大手の小売業のネットスーパーが出揃い、事業拡大に本腰を入れてビジネス基盤が整ってきており、さらに消費者側のデジタル環境が整ってきたこともあって、今後、急速に市場が拡大することも予想される。

 そしてデジタルだけではなく、生協や総菜宅配サービスなどの食品宅配市場は同4%増の約1兆7000億円あり、少子高齢化が加速するなかで、さらに成長が見込まれている。これでは、リアル店舗への来店誘導を主眼としたビジネス展開では、ROIが悪化してしまうということを意味している。

 そういった観点と少なくともディフェンス的意味合いでも、流通業はネットスーパーや食品宅配へ足掛かりをつかんでおくべきである。しかし、その方向性としてデジタルの物理的距離制約のない世界で戦いを挑むというより、既存のリアル店舗顧客をターゲットとして、あるいはその受け皿としてのサービス強化をまずは重点化すべきである。

 また、ネットで顧客基盤を持つ楽天、Yahooなどのマーケットプレイスに出店し、顧客基盤を利用することでコストをかけるのではなく、最大の資産である顧客データを自社内にとどめるためにも、自社サイトで展開する方法を検討すべきだろう。

デジタル・マーケティング&コマースの再構築アプローチ

 小売業がデジタル・マーケティング、デジタル・コマースを手がけるにあたっては、新規ビジネスを立ち上げるという要素が強く、限られた投資で事業を拡大していく必要がある。イニシャル投資、オペレーション業務などに関するコストは、全てを自社でまかなうことになると大手流通業でも負担が重いのが実情だ。そのため、中小の小売業にとってはコスト負担が過大でリスクがきわめて高いといえる。

 また、デジタル環境においては、ビジネスとITの距離が近く、業務要件とシステム要件の検討はできるだけ密接に行うことが必要となる。しかし、これは従来のリアル店舗とは異なるノウハウであるため、すでに展開されているネット販売の事例でもきちんとできていない、中途半端になってしまっている事例が多い。たとえば、リンクが途中で切れる、検索で支離滅裂な結果が出てくる、商品が欠品だらけなど失敗例には枚挙にいとまがない。ネット販売を展開するからには最低限、消費者ニーズに応える基本機能を備えるべきであり、競合比較やサイト診断などを綿密に行わなければならない。

 
 そこでわれわれが提案するのがADD(Accenture Digital Diagnostics)である。これはサイトを構成する全オブジェクトを自動的に巡回・診断し、その診断結果を特定の競合他社との比較などを行う機能を提供する。

 それらを踏まえて、デジタル・コミュニケーション・コマースの立ち上げ・再構築のアプローチとして、(1)イニシャル投資をミニマイズする (2)数年先には考え直す・撤退も可能なこと (3)スピード感を持った立ち上げと展開 (4)撤退という選択肢も考慮した、リアル店舗とは異なるデジタルのノウハウとリソース調達 (5)あらゆるリスクをヘッジしシェアできるスキームなどが求められる。

 日本の小売業においては自前主義が根強く残っている。しかし、デジタル・マーケティングやデジタル・コマースを展開するうえでは、立ち上げ要件を踏まえ、うまくアウトソースを活用することもスムーズな事業参入と成功のためには考えるべきであろう。実際の事業展開においては、イニシャルコストを抑え、リスクをシェアできるように外部パートナーと協業する必要がある。国内大手企業でも海外企業でも、外部のアウトソースの活用を積極化している。アクセンチュアでは、そうした外部パートナーとしてリスクも担い、成果を上げることで、IT、リソース、ノウハウを提供するとともに蓄積し、資産化している。

 そして、先にまずはディフェンス的意味合いでもネットスーパーを述べたが、本質的にはネットスーパーの収益化のシナリオを持つべきである。鍵は「在庫」「ラストワンマイルの物流」「販促」「需要のフレ幅」をどう御するかであろう。本当に御せるだろうか。出来うると考えている。そうした“ 知恵” “ネットワーク”も提供しうる。

―― 進化する自動( 補充)発注 ―――

根源的な課題とソリューションの方向性

 小売業界で自動(補充)発注がいわれるようになって久しく、特別に目新しい取り組みではないという見方もされているかもしれない。実際に多くの企業がすでに自動(補充)発注に取り組んでいる。しかし、それらは必ずしも成功しているわけではない。それらの自動(補充)発注のメリットもある一方で、デメリットも生じているのが実情である。そして自動(補充)発注への取り組みを今でも躊躇している企業も多いのも事実である。しかしクラウド時代にあってテクノロジーの進化がそれを解決しつつあることにも注目すべきだ。クラウド活用としては陰に隠れがちであり地味かもしれないが、その効果においては否定できない面も認識すべきであろう。

 従来の自動(補充)発注の問題点は、根源が米国の成功事例ベースのシステム・ロジックを、あたかも教科書または完成形としてうのみにして、日本のビジネス・マーケット環境ベースで自ら考えるところまで踏み込まないまま、採用してきた点にある。

 需要予測といったロジックは複雑かつ専門的であり敷居が高く、コンサルタントの言いなりやパッケージをそのまま導入することに陥りやすい。そのために需要予測型ではなく、セルワン・バイワンや基準在庫、MinMaxなどシンプルな方式に流れやすかった。しかもそれすら難しいと判断し、導入自体を諦めるというケースも少なくなかった。また、需要予測に取り組む場合、課題が生じても、ロジックまで踏み込むことはなく、パラメータでの対応にとどまりがちだったのである。

 自戒の念を込めて言えば、コンサルタントやシステム業界がロジック自体をゼロベースで考える力が十分でなかったことや、パラメータ次第でどのようにもなるといった、安易なビジネス展開をしていたという側面があったことも否めないだろう。

 

自動(補充)発注の背景にあるべきビジネス・マーケット環境

 そもそも問題となる日本のビジネス・マーケットの環境や特性とはどこにあるのか。ひとつには人口密度・地価も高く、商品回転率が高いこと。そして店舗スペースは制約があり、高い地価よりも物流を高頻度化するほうが物流コストキャッシュフローの合理性が高いこと。よって発注・配送がほぼ日次で行われているということにある。ちなみに米国では日次発注・配送ではなく、週次発注で1、2回配送が常識となっている。

 2つめには、生活スタイルが米国に比べたら月次や日次に根差している要素が強いこと。たとえば、日本ではゴールデンウイークやお盆、年末年始といった長期連休は、過去数年が日並びによって異なり、年によって動き方が変わる。つまり、3連休と5連休では人の動きが変わり、さらに飛び石連休だったらどのように変化するのかなど、その組み合わせによるとともにカレンダーどおりに一斉に休むという国民性も、それを増幅することになる。

 労働時間の時短政策から祝日の日数も、米国の倍と多く、3連休の位置や休日日数増減といった、年による細かい違いも多くある。また、給料日が公共セクターも民間企業でも毎月25日に集中しており、それとボーナスを組み合わせて国中の家計が一斉に回っているとも言える。さらに小売業においては、休日やイベントに合わせて日次で多様なプロモーションが展開されることでインパクトが増幅されている。

 そのため米国流に全て週次で捉えて分析することは、意味がないというより間違いのもととなる。また、GW、お盆、年末年始などは例外として扱えるボリュームやインパクトでもあり得ない。

 米国は夏休みやクリスマスのバケーション・シーズンも期間も年や日並びによって変わったりしないし、週給が一般的だったり、小売業の決算も4― 5― 4週の月次であったりする。一週間という考え方の起源はキリスト教にあるため、生活や社会に強く根付いているわけだ。ちなみに日本に一週間が導入されたのは明治時代の初頭であり、土用の丑や節分など日本の暦にある多くの風習は週という考えでは捉えることができない。

自動(補充)発注が陥りがちな罠とは

 その日本のビジネス・マーケット環境の特性や違いがどのように自動(補充)発注に影響するのだろうか。まず、日本においては配送が日次であり、週次の需要予測が大体合っている程度では使えず、日次ベースの凸凹こそが重要である。また、従来の需要予測方式で一般的なSKU(数)×週次需要予測は、前年のシーズンカーブと今年のトレンドなどを織り込んだ膨大なデータを処理するため重く、バッチ処理の計算時間が長い。さらに祝日などへの対応を週次需要予測ベースでどうにかして週次需要予測の日次の精度を上げようとパラメータや上乗せロジックをいじるとさらに重くなってしまう。

 その結果、最新の実績を翌日に反映することができなくなることで実績データの鮮度が落ち、このために予測精度も悪化する。また、システムのハードスペックを積み増して無理やり処理させようとして、ROIに見合わない膨大なシステム投資が必要になるということも起きている。加えて言えばシーズンカーブ自体も、日本人は体感温度・季節感に敏感なため、前年や過去を分析しても日次レベルでは、全く使いものにならないことも少なくない。とくに、ここ数年みられる節電の夏や観測史上最高の猛暑の夏、観測史上最低の冷夏など異常気象の影響についても考慮する必要がある。 また、もう1つの問題は欠品の発生や時間の実績による売り逃し推定を捉えて、反映させて対応することができないことにもあるだろう。さらに低回転率商品のイレギュラー需要、たとえば通常ならば1日1、2個の売れる商品が、ある日10個売れた、といったことに対して計算対象から外すといったような柔軟な対応ができないこともある。

 一方、基準在庫方式においては、高い回転率に対して見合う店舗在庫であるフェースを、店舗のスペースの制約から十分に取ることができないことが起こりがちだ。そのため行きつくところは論理的に計算された根拠とは到底言えない、属人的なカンと経験を駆使した煩雑な設定やメンテナンスが必要であり、その結果として結局メンテナンスされなかったり、しようとしてもしきれなかったりする。そして対応に遅延が起こりがちで、欠品発生や逆に過剰在庫を起こすことになりがちだ。そのような自動(補充)発注の業務効率化の効果を消してしまうようなことが、日常的に起きていたということだ。

 

従来の問題点を解決する自動(補充)発注ソリューション

 それでは、自動(補充)発注ソリューションは、どうすれば日本のビジネス・マーケットの特性による数々の問題を解決できるだろうか。アクセンチュアでは、以下のようなクラウド活用も含めた、システム+補充発注プロフェッショナル業務運用を一体化した、補充発注ソリューションを提案している。

(1)直近の日別、商品別の売れのばらつき分析ベースのシンプルなロジックを用いて、処理スピード・実績情報鮮度を追求する。

(2)売れ筋の増加傾向、欠品の発生や時間、実績、売り逃し推定を捉え、上記算出結果にプラスαとして積み増していく。それにより見えている需要増要因は確定で積み、トレンドや欠品など見え切れない要因については、予測してもそれを全て積むのではなく、プラスα積み増しにとどめる。

(3)GWやお盆、年末年始などの間の日次特性・反映は人が見る。

(4)イレギュラー需要外しは商品・時期・店舗特性など細かい一つひとつのロジックを積み上げるPDCAサイクルを回す。

 ここで注意すべきは(2)(3)(4)は経験とノウハウの蓄積を備えた補充発注のプロフェッショナルが一元的に扱うことだ。

(5)IT部門、SIベンダー、特定個人にブラックボックス化しない。どの商品(ライン)、店舗(エリア)に問題があるか、わかりやすいレポーティング機能とパラメータ・発注量などについて、確実に人間が直接触れる環境が重要。

(6)システムを開発しないと実際の効果はわからないではなく、実データによる実パイロット検証での導入判断を実行する。

 以上がアクセンチュアの考える自動(補充)発注の基本的な考え方とソリューションである。

 すでに多くの国内企業、複数業態に、このソリューションを提供し、実際に導入されており効果を実証している。消費財メーカーが小売チェーンに対してリコメンドを出すというようなことにも活用されている。その効果・実証のレベルは、平均的な人のカンと経験を上回るというデータも得ている。日本はパートやアルバイトでも、米国などに比べて優秀であり、人による発注精度は高いが、そうした日本固有の特性に本当の意味であった自動(補充)発注のソリューションが、それでも使える時代になっている。

 

【アクセンチュアについて】

アクセンチュアは、経営コンサルティング、テクノロジー・サービス、アウトソーシング・サービスを提供するグローバル企業です。24万4000人以上の社員を擁し、世界120カ国以上のお客様にサービスを提供しています。
豊富な経験、あらゆる業界や業務に対応できる能力、世界で最も成功を収めている企業に関する広範囲に及ぶリサーチなどの強みを生かし、民間企業や官公庁のお客様が、より高いビジネス・パフォーマンスを達成できるよう、その実現に向けて、お客様とともに取り組んでいます。
2011年8月31日を期末とする2011年会計年度の売上高は、約255億USドルでした(2001年7月19日NYSE上場、略号:ACN)。