
イーサポートリンクが提供する地場野菜調達支援サービス「es-Marché(エスマルシェ)」は青果売場が長年抱える課題を解決し生産者と小売・量販店をつなぐ架け橋として注目されている。昨今の青果市場における問題点とサービス導入のメリットについて、同社代表取締役社長執行役員兼COOの相原徹氏、リテール&アグリサポートの塩原淳男氏に話を聞いた。
青果部門が長年抱える、喫緊の課題とは?
─昨今の青果部門を取り巻く環境をどのようにとらえておられますか?
塩原●まず、現在の青果の価格の乱高下についてはなるべくしてなったととらえています。
食品スーパーにはグロサリーやデリカなどさまざまな部門がありますが、唯一青果部門だけが品質が不安定です。同じ生鮮でも精肉や鮮魚は冷凍物流が主流となったことである程度調整できますが、青果部門は生産が天候等に左右されるためコントロールができません。
とくに昨年は高温や長雨、その後の干ばつと作物を育てる環境として厳しい状況が続きました。生産現場はこういう状況ですし小売側は全体最適の中で他の部門同様、青果も在庫コントロールをしようとするので、当然無理が出てくる。足りないときはパニック状態になりますし、昨今は天候不順等によりその振れ幅が大きくなっている。小売業は青果に特化した仕入れ販売の仕方を検討する必要があるとみています。
─相原さんはこの状況についてどのような意見をお持ちですか?
相原●食品スーパーは事業の性質上、どこへ行っても同じ品質のものが買えることがコンセプトとなっており、これは青果部門においてもまったく同じです。青果の取引についても欠品させないことが一つの評価軸で、定時定量で納品できる取引先が評価されるという傾向にあります。
また多くの小売業が青果部門を集客の要と位置づけており、特売のために商品をかき集める。大量調達・大量販売を実現するローコストオペレーションを青果でも実行しようとするわけです。規模が大きくなればなるほど一つの産地では調達できないので、中間流通も複数産地から集め、あらかじめストックしておくことになる。
これらは日持ちがするよう早めに収穫されたものばかりで鮮度やおいしさという観点では当然劣ります。鮮度のよいものを消費者に届けるという視点で見てもこれはおかしい、というのが私の印象です。
塩原●青果の中間流通は元々個人の八百屋と生産者という個と個を結ぶものでしたが、現在は八百屋から量販店に変わり個と大量の取引になった。それなのにこの数十年間、個と個を動かすシステムのままで中身が改善されていないのです。
たとえば2週間後の特売に合わせトマト1000ケースの発注があっても、天候不順等で予定していた産地では収穫できないということもあります。しかし集客のためには数が必要なので品質を問わず、あちこちから無理をして集めている。これは青果部門の喫緊の課題だと認識しています。
地元生産者と小売業がダイレクトに取引できる場を
─食品スーパーでは地場野菜コーナーを設けているところも増えていますね。
塩原●確かに増えていますが、首都圏など生産者のいない地域でもラインロビングされているという点では疑問です。
私がヤオコー時代に始めた地場野菜コーナーは、生産者の方々が、自身が食べるためにつくったおいしさを追求した野菜を、消費者の皆さんにもお裾分けするというコンセプトでスタートしました。しかし現在の首都圏や都市部の食品スーパーの地場野菜コーナーに並ぶ商品は、ほぼ同じところから供給されていますから他店との差別化にはつながりません。
相原●モノ消費からコト消費へと消費者の嗜好も変化し、商品の裏にあるストーリーを認知して購入したいという方が増えていることから、地場野菜への関心も高まっています。
当社の提供する「es-Marché」はエリア調達をするための仕組みであり、消費者目線でも現代のニーズにマッチしたものとなっています。
─「es-Marché」の開発の経緯についてお聞かせください。
相原●以前、埼玉県のほうれん草生産者から、生産物のほとんどを大田市場に出荷し地元の市場には出していないというお話を聞きました。埼玉県内のスーパーは大田市場からそのほうれん草を仕入れ、トラックで輸送し店頭に並べている。この逆輸入ともいえる状況は環境的にもコスト的にも無駄だと感じ、地元生産者と小売業がダイレクトに取引できる場をつくりたいと思いました。
また食品スーパーが地場野菜コーナーで地元生産者の商品を取り扱う場合、現在でも手書き伝票での取引が主流です。売上が品目別に集計できないため本部からは売れ筋等の詳細が見えず、さらに本部が特売に指定した商品と地元生産者から仕入れた商品の品目が重なってしまえば、カニバリを起こすことにもなる。逆に仕入れ数が少なければ、チャンスロスにもなります。
これらの課題から小売店舗と近隣の生産者が結び付き、どんなものが取引されているかを可視化できる仕組みをつくることは双方にとって価値のあることだと考え、このサービスを開発し、2022年にローンチしました。
チャンスロスや廃棄ロスも軽減 生産者・小売・消費者の三方よし
─では「es-Marché」の特長について教えてください。
相原●「es-Marché」は生産者と店舗の直接取引をシステムと業務代行で簡素化し、地場野菜売場運営に係る小売・量販店の事務負担を軽減するサービスです。
第1に生産者ごとの口座情報の管理や、インストアコードの体系的管理、売上実績の管理などをシステム化することで、小売・量販店の作業を大幅に簡素化します。
第2に生産者ごとの契約手続きや支払業務などを業務代行することで小売・量販店の事務負担と業務に係るコストを削減します。
第3に消化仕入れと買い取り仕入れの両方に対応しており、消化仕入れでは売上速報の配信、買い取り仕入れでは地場商品の計画調達を可能にし、売場づくりをサポートします。
さらに「es-Marché」には生産者と小売・量販店がチャット欄のようにやり取りできるコミュニケーションツールが付属しており、リアルタイムで販売状況を確認することでチャンスロスや廃棄ロスを低減することができます。
─導入企業のメリットはどのようなところだと思われますか?
塩原●いつ、どの商品が売れたのかがほぼリアルタイムに配信されるので、想定よりも動きが早いときは追加で発注するなど、契約生産者と店舗担当者、本部の三者で、売上分析ができるようになるのは大きなメリットですね。とくに単品で商品の動きがわかるようになる点が大きい。
本部仕入れと地場野菜の仕入れ両方を把握することで、青果売場全体の陳列や仕入れバランスを調整できるようになります。売上管理のほか、契約まわりや請求・支払い業務といった煩雑な事務作業を代行してもらえるため、事務作業の負担が軽減されて売場づくりに集中できるようになる点もよいと思います。
さらにチャット機能によって生産者とコミュニケーションが密に取りやすくなった点も評価したいです。
相原●「es-Marché」は小売側だけでなく生産者からの評価も高く、活用いただくことで販路や売上の拡大にもつながる。導入いただいた企業の地場野菜コーナーは、チャンスロスや廃棄ロスが軽減されたほか、品質のよい商品が並ぶことで目的来店性の向上にもつながり、前期比で2ケタ以上の伸長となっています。
─最後に今後のビジョンをお聞かせください。
相原●まずは「es-Marché」を多くの小売業に使っていただき裾野を広げていきたいですね。現在、この仕組みを導入いただいた企業では域内調達が13~15%程度まで上昇しています。地場のおいしい野菜が並ぶことは生産者や小売業だけでなく、消費者にとっても魅力あるものです。当社は「es-Marché」を通じ消費者に対してよりよい価値を提供できる地場野菜コーナーの運営に貢献していきたいと考えています。