ファブリーズが「必需品になっていない人」にこそP&Gが商機を見出す理由
P&Gジャパンのホームケアは世帯浸透率の向上を目指し、「習慣化」や「自分ごと化」につながる製品開発やコミュニケーションの強化に注力している。ホームケア事業を統括する執行役員の山本宏樹氏に、ホームケアカテゴリーを取り巻く環境の変化と市場を活性化するためのビジネス戦略をきいた。

コロナ禍以降、一般化した
「消臭」や「除菌」の便益
──はじめに「ファブリーズ」を軸としたエアケアカテゴリーの市場環境についてお聞かせください。
山本:エアケアカテゴリーにおいて、一昔前は除菌や消臭は特別感のある便益でしたが、現代ではスタンダードとなり、これらの効能を謳う製品に消費者も慣れてきていると捉えています。このトレンドは長く続くとみていますし、当社としても引き続き注力すべき領域と考えています。
また働き手の多様化によって、日本の家庭はどんどんと忙しくなり、家事にかける時間自体が少なくなってきています。前述した除菌や消臭といった基礎便益に加え、短い家事時間の中でいかに高いパフォーマンスを発揮できるかが、消費者に求められていると感じています。
──P&Gでは世帯浸透率の向上に力を入れていますが、エアケアカテゴリーの世帯浸透率をどのように見ていますか?
山本:「ファブリーズ」は布用のスプレータイプと、置き型や車用などの消臭芳香剤という2つに大別され各々成長を続けていますが、どちらもまだまだ世帯浸透率が低いカテゴリーと言わざるを得ません。当社の調査によると「ファブリーズ布用」は消費者の約8割の方が1度は使ったことがあるものの、日常的に活用いただいている層は25%程度。消臭芳香剤の「ファブリーズトイレ用消臭剤」は、日常的なユーザー比率がさらに低い。
しかしながら、世帯浸透率が低いということは、裏を返せば伸び代があるということでもあり、実際にエアケアカテゴリーは世帯浸透率が1%増えるだけで、市場規模は十数億円増えると言われています。そのため、新規ユーザーにアプローチし、世帯浸透率の向上を図ることこそが、市場成長に欠かせません。
──新規ユーザーの獲得に向けたマーケティング施策についてお聞かせください。
山本:当社はマスマーケティングに強みを持ち、「ファブリーズ」についてもこれまで便益訴求のコミュニケーションを長年行ってきました。しかしエアケアは消費者にとって生活必需品ではないカテゴリーなので、世帯浸透率が100%に近い衣類用洗剤のようなマスマーケティングだけでは不十分で、別のアプローチをしていく必要があります。
また、製品の開発や改良には時間がかかりますから、製品開発と共に、キャンペーンを含め、消費者起点のコミュニケーションの質を上げていくことがマーケット拡大のカギになると考えています。
そのうえで、離脱者を含めた新規ユーザーの獲得には、二つの方法があると考えています。一つは「自分ごと化」、つまり使用するための理由付けです。直近のコミュニケーションの中心は、「How great I am(私という製品がどれほど素晴らしいのか)」、つまり製品の優れた点を訴求することですが、このメッセージは未使用者には刺さりにくい。未使用者にとって「自分の悩みを解決してくれる製品である」と感じていただくきっかけが必要です。