個別化という素晴らしい単語
私が日本に来てから早いものですでに14年になりました。その間、日本語を習得する上で特に力を入れてきたのが漢字の読み書きです。複数ある音読みに悩まされたり、画数が多いとバランスよく書くことが難しく、ときにはひらがなの読みを間違って記憶していたためPC変換で出てこなかったり、なかなか手ごわい相手ながらも、一般的に私は漢字の学習を楽しんでいます。とくに、英語やカタカナだと長い単語が漢字で短く表現できた時、漢字は本当に便利だなと感動を覚えます。
そんな意味で、「個別化」は私の好きな日本語の一つです。英語でPersonalization、カタカナではパーソナライゼーションと、とても長い単語であるにも関わらず、漢字で書くとシンプルに3文字。幅の狭いカラムにも一行ですっきり収まります。しかも、3文字の漢字それぞれが意味と役割を持ち、「個別化」が何であるかを全身で訴えているのです。なんて美しい単語だと思いませんか!
前振りはさておき、今回のテーマは「個別化」そして「超個別化」です。お客様は買物について、小売企業とCPGメーカーはロイヤリティを築く方法について無数の選択肢が存在するこの現実を、「個別化」と「超個別化」におけるAIといった観点から考えていきましょう。
個別化論がお客様の買い物体験を向上させる
そもそもなぜ「個別化」が必要なのでしょうか?それは、企業にとって成長をもたらし、お客様の買物体験を向上させる最大要因のひとつだからです。dunnhumbyが行った小売企業の利益性に関する調査では、包括的かつ戦略的に「個別化」でお客様とロイヤリティを築いている小売企業は、そうではない小売企業と比較して利益が最大43%高いことがわかりました(図1)。
また、買物体験が「個別化」され優れていればいるほど、お客様のウォレットシェアが高いことも示されました(図2)。「個別化」はもはや、取り組まない理由が見つからないと言っても過言ではないと感じさせる調査結果です。
個別化はお客様と1対1のエンゲージメントを築くカギ
AIはカギが使えるようにするためのエンジン
小売企業における「個別化」=クーポンの公式が成立する時代がありました。しかし世の中に選択肢があふれる今、ロイヤリティプログラムを「個別化」する手法はクーポンに限ったことではありません。価格や販促、品揃え、ECサイトのレイアウト、おすすめ情報の発信頻度やチャネルなど、カスタマージャーニー上にある全てのチャネルとタッチポイントにおいて「個別化」を行うことを、私たちは「超個別化」(ハイパー・パーソナライゼーション)と呼んでいます。
ロイヤリティプログラムは今までも長い間お客様との関係構築において大きな役割を担ってきましたが、データサイエンス、クラウドインフラやソフトウェアが進化した現代においては、もはや戦いのルールが書き換えられたと言ってもいいでしょう。今や、ロイヤリティプログラムそしてこの小売業界で勝ち抜くためには「個別化」が必須です。
「個別化」がお客様と1対1のエンゲージメントを築き、企業に成長をもたらすカギだとします。ただ、カギを持っていてもそれを使って扉を開けないと意味がありません。カギが使えるようにするためのエンジンがAIなのです。
個別化に必要なAI活用の5大ケイパビリティ
30年にわたり小売業の「個別化」の支援を行ってきたdunnhumbyの経験から、「個別化」とAIの組み合せによって、お客様エンゲージメントと企業成長につなげるために注力すべきは、以下5つのケイパビリティです。
- リアルタイムイベント処理
お客様の行動だけでなく、その瞬間の意図や感情も含めたデータをリアルタイムで取得・分析し、一人ひとりに最適化された体験を提供し“セグメントオブワン”を作成する手法です。ネット閲覧履歴、移動情報、天気、購買履歴などを組み合わせて即座にお客様のニーズを読み取り、対応することが可能になります。
- 行動基盤モデル
過去のお客様の行動だけでなく、その瞬間のコンテキストも踏まえて次の行動を予測する高度なAIモデルです。これらのモデルは自己教師あり学習とグラフベースの手法を活用し、手動でのラベリングを必要とせずに複雑なお客様のやり取りを意味のある「意図」として抽出します。
結果として、大量の非構造化データを実用的なインサイトに変換し、タイミングよく、関連性が高く、非常にきめ細やかなお薦めが可能になります。「個別化」されたロイヤリティが不可欠な今の時代において、このようなモデルは拡張性が高く、シームレスなお客様体験を実現するために欠かせない要素でしょう。
- オムニチャネル ジャーニー・オーケストレーション
お客様にとって最適なタイミング、チャネル、内容で情報や提案を届ける手法です。リアルタイムのデータとAIによる行動モデルを活用することで、スパムのような一方的な配信ではなく、お客様のカスタマージャーニーに合った「個別化」された体験の提供が可能になります。
また、検証を通じて最適なアプローチを見極め、AIが自動的に提案内容やタイミングを調整するため、お客様の離反を早期に検知したり、長期にわたりお客様との優れた関係性を生み出す仕組みをつくります。
- ダイナミックコンテンツ
AIと行動基盤モデルを活用し、リアルタイムかつ「個別化」された情報をお客様に提供する仕組みです。従来の画像カタログや汎用的なコピーに頼るのではなく、お客様ごとに響く内容をAIが自動生成することにより、文脈に応じた「超個別化」=(ハイパーパーソナライゼーション)体験が可能となり、同じ場所にいる2人に対しても、それぞれ異なる商品画像やオファーが表示されるようになるのです。
- ハイパーケア
最後に。先進的なAIを導入しても、適切に使い、効果まで繋げないと意味がありません。ハイパー“超”ケアは最先端のAIや技術を最大限に活用できるよう企業を継続的に支援するきめ細やかな高付加価値サービスです。ただツールを渡して終わるのではなく、事業戦略をAIのロジックに落とし込んだり、データの整備、キャンペーンの実行、成果やお客様体験の最適化に至るまで全般的にサポートします。飛行機の操縦初心者と同乗する熟練者の様に、導入から成果まで操縦桿から手を放すことなく一緒に歩み、自立に向けて確実に前進します。
パーソナライズド・ロイヤリティがお客様にとって意味すること
今日、ロイヤリティは単なるプログラムではありません。この選択肢の時代において、ロイヤリティとはあらゆるインタラクションをお客様と関連性が高く、価値を提供する何かに変える企業戦略そのものなのです。
そして今やロイヤリティの「個別化」が“可能”なのは当たり前。それどころか、AI技術によって“不可欠”なものとなりました。今すぐロイヤリティの「個別化」で、お客様とのより深く、より長期的な関係性を構築し、目に見える成果の達成に向けて歩き始めてみませんか?今のロイヤリティプログラムに悩んでいる小売業の皆様、また今回紹介したグラフや内容にご興味を持ってくださった方は、ぜひとも一度お問い合わせください。
