キッコーマンソイフーズでは豆乳の離反者や新規ユーザー獲得に向けたアプローチとして、サイバーエージェントと組み、リテールメディア施策を実施。4つのコアバリューを基にした広告配信から消費者の購買データを追いPDCAを回す、新たなリテールメディアの活用方法を探る。
離反者や非飲用者向け施策にリテールメディアを活用
サイバーエージェント・手塚(以下、手塚) はじめにキッコーマンソイフーズ様にお伺いしますが直近の豆乳市場やマーケティングの課題についてどのようにとらえておられますか?
キッコーマンソイフーズ・亀井(以下、亀井) まず豆乳は2010年頃から健康志向を背景に市場が倍になったこともあり認知度の高いカテゴリーです。ただし飲用者は全消費者の4人に1人程度、さらにその4分の1がヘビーユーザーでその方々が市場を支えています。また4人中の3人にあたる非飲用者のうち2人が飲用経験はあるが現在は飲んでいない離反者、もう1人が飲用未経験者という構造になっております。多数を占める「今飲んでいない方」にどう訴求するかが市場拡大へのカギとなっています。
豆乳が飲まれない要因について当社もさまざまな仮説を立てていますが、豆乳が持つ健康価値がうまく消費者に伝わっていない点が大きいと感じています。豆乳はイソフラボンやたんぱく質が豊富、飽和脂肪酸が少ないなどさまざまな特徴がありますが、「何となく健康によさそう」というイメージだけでこれらの特徴はあまり伝わっていない。言い換えればこれらへの理解が深まれば手に取って下さる方が増えるのではと考えています。
さらに踏み込むと、たんぱく質によるからだづくりや大豆イソフラボンによる美容訴求など、性年代や目的でも刺さるメッセージは変わってくる。離反者や飲用未経験者に向けどのような訴求を行うかが直近の課題でした。
手塚 課題解決のため今回リテールメディアの活用を選択されたわけですが、御社がリテールメディアに魅力を感じた点を教えてください。
キッコーマンソイフーズ・井上(以下、井上) やはり購買データに基づいたアプローチができる点が大きいですね。たとえばアンケートベースの調査はブランドの好感度を測ったり、リフト値が見られるといった点に手応えを感じる一方、売上につながったかまでは追うことができません。
これまでテレビCMやYouTubeのデジタル広告、イベントなど、店頭以外でもさまざまな手法で豆乳の価値を伝えてきましたが、さらに、リテールメディアを活用することでターゲットを絞ったプロモーション施策から消費者の購買データを追うことができ、ファクトを基に次のターゲティング施策につなげられる。この点に大きな魅力を感じました。
手塚 データ・ワン様ではメーカーサイドとの取引のなかで昨今のマーケティング活動の課題をお聞きする機会があると思いますが御社の強みを教えてください。
データ・ワン・松本(以下、松本) まず当社は伊藤忠商事、ファミリーマート、NTTドコモ、サイバーエージェントの合弁会社という出自もあり、CVSのファミリーマートを筆頭に多くの購買データを保有しています。CVSはスーパーやDgSと比較し代理購買が少ないことから、今回のターゲティング施策を仕掛けるには適したチャネルであると考えています。
もう一つの利点として、広告主様の意向に合わせ広範な媒体に掲出が可能である点が挙げられます。当社はファミリーマートの屋号を載せるなど直接的な集客を促すようなことはせずにそのままデータとしてご活用いただくことを旨としています。掲載するメディアについても小売業のアプリなど特定のメディアへ偏ることなく柔軟に対応させていただいておりその点は当社の強みと自負しております。
購買までの距離感が違う2媒体で配信し効果を検証
手塚 今回の取り組みは豆乳の離反者および非飲用者をメーンターゲットとし、キッコーマンソイフーズ様が仮説から導いた「たんぱく質」「美容」「ダイエット」「リラックス」の4つのコアバリューを基に弊社が24本のクリエイティブを制作。朝昼夜でモーメントを分け、非飲用者に対象を絞り、各メディアに配信を行った後、データ・ワン様の購買データを基に弊社が効果検証を行いました。配信メディアはID-POSを基に分析ができるメディアの中でも最も購買時の接点を取れる「ファミペイ」と、購買行動に依存せず広範な接点を取れる「スマートニュース」を選択しています。今回の施策について取り組みに至った経緯や過程をお聞かせください。
井上 前述したように当社は離反者や新規ユーザー獲得に向けたアプローチに課題を感じており、さまざまな広告手法の一つとしてリテールメディアに可能性を感じ今回の施策に至りました。
課題解決に向けた具体的な方法は代理店のサポートが必要となる部分です。サイバーエージェント様は当社が抱える課題に加え、効果検証後、汎用性を高め拡張していきたいという意思をご理解いただいたうえで、われわれが腹落ちできる手法をスピード感をもってご提案いただけた点が非常にありがたかったです。
当社はリテールメディア活用がほぼ初めてでしたが、サイバーエージェント様には議論を含め細やかにご対応いただきました。4つのコアバリューに基づいた24本のクリエイティブも効果検証しやすいよう差分を設けるなど綿密に練っていただけた点もよかったです。
手塚 今回は、リテールメディアの観点から御社のマーケティング課題の解決にいかにアプローチするか、有意義な議論ができたと感じています。分析結果について率直な感想をお聞かせください。
井上 分析結果を見ると離反者と新規ユーザーでは刺さるクリエイティブがそれぞれ異なる印象を受けました。今回は「ファミペイ」と「スマートニュース」という2つの媒体で配信しましたが店頭までの距離の違いによって反応が異なる点も大きな気づきでした。
今回の施策を基に、たとえば「ファミペイ」配信で得られた知見を店頭販促物に生かしたり、「スマートニュース」配信で得られた知見をYouTube広告に転換するなど、施策から得られたファクトを基に横展開していくことも検討しています。またデータ・ワン様のフィードバックが非常に早く、PDCAを回す意味でも非常に素晴らしいと感じました。
松本 ありがとうございます。当社は購買データをタイムリーに保持しており、速報版であれば最短、中1日でご提供できます。また当社はデジタル広告配信事業を専業としておりますので配信媒体を含めフレキシブルに対応できる点も好評をいただいております。今後もデータ分析を得意とするサイバーエージェント様とともに、クライアント様に役立つデータをスピード感をもって提供していきたいです。
リテールメディアの活用は課題解決に向けた選択肢の一つ
手塚 リテールメディアは日本国内でもトレンドになりつつある一方で、まだまだ活用法が確立されていない面があると感じていますが、今回の施策は仮説を基に次につなげるマーケティング方法を得るための取り組みとして一定の成果が出せたと思っています。皆様はリテールメディア活用の展望について、どのようにとらえておられますか?
松本 リテールメディアは広告業界内における昨年のバズワードであり、さまざまな事業者がこの領域へ参画し始めています。リテールメディアは現状、まだまだ曖昧な点も多い存在ですが、どのクリエイティブがどのセグメントに刺さるのかを分析する今回の施策は短期的な活用法として有効と感じましたし、今後につながる試金石の一つととらえています。
当社の購買データは現状CVSが主ですが今後はスーパーやDgSなどデータの品揃えを広げていくことが他社との差別化につながると感じています。
次にめざすのは広告費をいくらかければどれくらい収益が上がるのか、明確な法則を見つけることでしょうか。勝ち筋につながる法則をクライアント様も巻き込みながら一緒に見つけていきたいですね。
亀井 消費者の方は多様な価値観をお持ちです。そのためメーカーが一斉に発信したメッセージは、人によってはノイズとなってしまうこともある。セグメントごとに伝えたいメッセージを出し分けできるのはリテールメディアならではの利点です。リテールメディアを活用することでそれぞれのユーザーにとって有益な情報を提供し、最終的な購買までつなげる、そんな世界が実現できたらと考えています。
手塚 まだまだ手探りの点も多いですがリテールメディアはさまざまなデータと組み合わせることでこれまで見えなかったものが見えてきます。最終的には検証の範囲にとどまらず、売上拡大につながるソリューションになると思っています。今後もリテールメディアを使っていかにマーケティングの課題解決をしていくか、議論を重ねながら、多くの方にご活用いただきたいです。