急速に進む市場環境の変化や競争激化、加速するテクノロジーの進化の中で、小売業は新たな成長に向けた取り組みが求められている。ソフトバンクでは、小売業のDX推進を総合的に支援するソリューション群を「バリューチェーンの総合支援」と位置づけ、自社やグループ企業の持つソリューションを掛け合わせて提供する体制を整え、小売業がテクノロジーを活用して、より効率的に売上・収益を拡大し競争力向上を図れる提案を強化している。
小売業向けバリューチェーンの総合支援でDXを推進
小売業が継続的に成長を続けていくためには、慢性的な人手不足や多様化する消費者ニーズ、急速に進む購買行動の変化への対応に加え、デジタルシフトする顧客との接点創出・強化など、内外にわたる課題解決に向けたテクノロジー・データの利活用が求められている。
ソフトバンクでは、そうした小売業のDX推進における様々な課題解決を支援するために、自社やグループ企業が持つソリューションとこれまで培ってきたノウハウを集約した「バリューチェーンの総合支援」体制を整え、小売業への提案を強化している。
小売業の出店計画から仕入れ、店舗運営、集客・販促、販売、アフターサービスに至る一連の業務をバリューチェーンに見立て、それぞれの業務プロセスの課題解決に最適な自社やグループ各社のソリューション群を当てはめて提案するだけでなく、各社のソリューションを連携させることで、小売業がテクノロジーを活用して効率的にDXを推し進め、売上・収益の向上を図れるようにするのがその狙いだ。
「ソフトバンクは通信事業者であるが、顧客接点を持つLINEヤフーなどのグループ企業もあり、デジタルマーケティング領域もカバーしている。グループの持つ小売DXの課題解決を実現してきたソリューションを掛け合わせ、パートナーとも連携して、サービスを提供するだけでなく、インフラの構築から、データの利活用、生成AIの活用に至るまで、総合的に支援できる体制を整えた」と、ソフトバンク 法人プロダクト&事業戦略本部 デジタルオートメーション推進統括部 統括部長 弓削 考史氏。
小売業の業務プロセスが抱える課題について、同社はどのようなサービスで解決を支援していくのだろうか。
データの利活用、スマホによる現場の業務効率化を支援
スマホアプリの位置情報を統計化した人流分析を出店計画や競合店分析に使えるようにしたのが「マチレポ」と「トラカン」だ。出店戦略における立地調査では、目視に頼った現地調査に多くの労力がかかり、データの取得までの時間や鮮度、網羅性、分析にかかる工数が負担になっていた。「マチレポ」と「トラカン」は、アプリ上で許諾を得たユーザーの位置情報を365日、日本全国から網羅的に取得し、出店エリアの商圏情報や来訪者数・属性に加え、競合店の来店客数や客層を把握できる。さらに、「トラカン」は道路通行量を把握することも可能だ。有力候補地への出店計画をスピーディーに進めることができ、大手小売チェーンや飲食店チェーンでの活用がすでに進んでいる。
LINEヤフーが提供しているデータソリューションサービス「DS.INSIGHT」は、検索や位置情報などの行動ビッグデータを分析できるツール。あるスーパーマーケットの事例では、「サバ缶」の売上を伸ばしたいという課題に対して、消費者の検索キーワードから「サバ缶」と「ダイエット」に関する前後検索の結果や、「オートミール」の商品の関連性を発見し、売場で関連販売する施策を実施することで売上前年比15%増を達成した。このように、「DS.INSIGHT」は検索されているキーワードを元に、検索者の性別などの属性や他にどのような興味関心があるかを把握できるため、様々な課題解決に活用可能だ。
AI需要予測サービス「サキミル」は、人流統計データと日本気象協会の気象データを活用して、企業が保有するPOSデータなどと組み合わせて需要予測を分析し、高精度な来店客数の予測結果を提供するサービス。スーパーマーケットや専門小売などを中心に、多くの企業で仕入れの最適化に活用して、欠品による機会ロス、廃棄コストの改善に役立てられている。「サキミル」を導入している小売業の事例では、廃棄ロスを約5%低減し、販売機会の損失を約10%低減する効果を上げている。
スマホを活用した業務効率化の提案にも力を入れている。小売業において課題となっているのが、店舗運営にかかる通話や通信コストの問題である。本部・店舗間の通話で外部への通話料が発生し、データ通信を利用した通話にWi-Fiを使用することで店舗回線が逼迫する、持ち運ぶ端末が多く店舗スタッフに負荷がかかるなどの課題を抱えている小売業が多い。ソフトバンクは、拠点間の通話の内線化やインカム・バーコードリーダーの機能をスマホに集約することで店舗運営コストを削減できるサービスを提案している。コミュニケーションのリアルタイム性を向上させ、コミュニケーションが効率化することで、この仕組みを採用しているスーパーマーケットの事例では、店舗運営コスト約5%削減を実現している。
小売業の生成AIの導入から活用・定着化までトータルで支援
小売業における生成AIの利活用に関する問い合わせも増えているという。同社では、生成AIのサービスを4つのステップに分けて提案。ステップ1は導入/検証、ステップ2ではマニュアルなどのデータを格納して生成AIを企業ごとに最適化し、ステップ3は専門的な業務システムとデータ連携を進め、ステップ4では企業の固有モデルを利用して新規価値創出を図る。小売業はステップ2でも業務効率化の効果が高められるとみており、実際に社内の問い合わせ対応の工数を削減する生成AIの活用事例では、サポートチームの人員を大幅に省人化する成果をあげている。
「小売業における生成AIの活用はこれから本格化していく。生成AIの導入や活用方法で悩まれている企業も多い。ソフトバンクでは顧客企業が生成AIを現場の業務効率化に役立てられるようにAI環境の構築からAI開発のサポート、AIを活用できる人材育成支援まで、トータルでの提案を強化していく」と弓削氏は述べており、「Microsoft Azure」と「Azure OpenAI」による生成AI利用環境の迅速な構築と、各種サービス・アプリケーションと連携可能な各種プラグインやオプション、導入後のサポートまでを提供する「生成AIパッケージ※」で市場開拓を本格化していく。
※従来は「Azure OpenAI Serviceスターターパッケージ」としてサービスを提供。3月11日以降は「生成AIパッケージ」としてサービス提供
オプションの具体例としては、スマホでインカムのように一斉通話ができる「Buddycom(バディコム)」との連携機能を新たに用意した。SMやHC、ディスカウントストアなどの大型店で、店舗スタッフがお客さまから売場や商品について質問され、リアルタイムに回答しなければならない場面で、音声で質問して生成AIからすぐに回答が得られれば、マニュアル検索時間の削減やスタッフの接客レベル向上、お客さまの体験価値向上につながる。既にPoCを開始した事例では、増加するインバウンドにおける免税関連の質問に対する生成AI応対がある。免税関連の質問は法令に遵守した適切な回答が必要であり、生成AIに尋ねることで安心して正確な回答を用意することができる。
また、生成AI環境に自社の社内データを連携させるための、データ構造化支援サービスである「TASUKI Annotation」を、生成AIの導入やデータ利活用に悩んでいる企業へ提供し、企業内で生成AI環境を積極的に利用するステージへのスムーズな移行を支援していく。
ほかに、AI・DX人材育成支援サービスの「Axross Recipe」は、AI開発のノウハウや事例を教材化して「レシピ」として提供し、生成AIの活用を組織内で浸透させる。
小売業のDXを推進する「バリューチェーンの総合支援」は、3月に行われる展示会「リテールテック JAPAN 2024」のソフトバンクブースで紹介される。会場では小売業のDX推進における課題を明確に定義して、課題解決に役立つソリューションの提案展示を充実させる。また、「生成AIパッケージ」と「Buddycom」を連携させ、売場における各種問い合わせ対応を想定した体験型デモンストレーションのほか、小売業の業務プロセスを横断したデータの利活用や生成AIの具体的な活用方法に関するセミナーも予定されている。