近年のたんぱく質ブームを背景に、たんぱく質補給商品市場は拡大傾向にある。だが実は、日本人のたんぱく質摂取量は低く、さまざまな健康課題が顕在化している。こうしたなか、筋肉増強だけでなく、健康維持のために必要な栄養素である「生活たんぱく」の概念が広がりつつある。いかに生活たんぱくを摂るかに注目が集まる今、マーケティングや商品開発などを考えていく上で役に立つのが、一般社団法人ウェルネス総合研究所(東京都/萩原千史代表理事、以下「ウェルネス総研」)による最新情報だ。
たんぱく質補給商品市場は拡大傾向
コロナ禍で生活者の健康に対する意識が高まるなか、右肩上がりで市場の拡大が進むのがたんぱく質補給商品市場だ。そもそもたんぱく質は、炭水化物、脂質と並ぶ三大栄養素の一つで、生命活動を営む上で必要不可欠な栄養素。筋肉や骨、皮膚、内臓などをつくるほか、体を動かすエネルギー源としても使われている。
かつては、たんぱく質補給商品といえば、アスリートやハードな筋トレを行う人が摂る「プロテイン」が主流だったが、健康志向が定着するにつれ、たんぱく質に関する情報がTVの健康情報番組などメディアでも取り上げられるようになると、たんぱく質への理解が進行。現在では、美容や健康な体づくりのために老若男女がたんぱく質摂取を意識するようになっている。加えて、コロナ太り解消などの面でもたんぱく質摂取へのニーズは高まり、それに伴い、生活の中でたんぱく質を手軽に摂れる商品が次々と登場。加工食品や飲料、お菓子、サプリメントなど製品タイプは多種多彩で、市場はますます盛り上がりをみせている。
実は日本人のたんぱく質摂取量は不足気味
拡大傾向が続くたんぱく質補給商品市場だが、実は日本人のたんぱく質摂取量はそれほど多くない。率直に言って不足傾向にある。それを示すのが図表①に示す「たんぱく質目標量の達成率」だ。
厚生労働省では、国民の健康維持増進のために必要なエネルギーや栄養素の基準を『日本人の食事摂取基準』として発表し、その中で生活習慣病など病気の予防を目的とした「目標量」を示している。2021年に実施された調査では、『日本人の食事摂取量基準(2020年版)』で定められた目標量に対し、すべての年代で、不足している人のほうが多いことが判明した。全体でみると、不足している人の割合は約7割にも及ぶ。
日本人のたんぱく質摂取量の推移をみると、1990年代までは上昇傾向にあったが、いまや戦後間もない1950年代と同水準にまで低下している。その背景には、女性を中心とした過度なダイエットや高齢者の活動低下に伴う少食化などがある。たんぱく質補給商品市場は活況に沸いているものの、健康な体づくりのためには、たんぱく質摂取量はまたまだ少ないのが現状だ。
では、たんぱく質の摂取が不足するとどうなるのか。実は「低栄養」となって、さまざまな健康問題を引き起こす。例えば、子どもの体力低下や、若い女性では貧血などの健康被害、出産における低出生体重児の増加、中高年においては基礎代謝の低下などが挙げられる。高齢者にいたっては、心身の機能が低下するフレイルへと陥る恐れも。飽食の時代といわれながら、日本においては低栄養が大きな社会課題となっている。
生きていくために不可欠な「生活たんぱく」
こうしたなか、にわかに注目されているのが「生活たんぱく」という考え方だ。たんぱく質といえば、「体をつくる」栄養素としてよく知られているが、「体を整える」上でも大きな役割を担っていることはあまり知られていない。実は、生体機能の調節機能にもたんぱく質は大きな役割を担っている。例えば、感情や記憶、睡眠に関わるホルモンや消化機能に関わる酵素は、たんぱく質を材料にしてつくられている。また、免疫機能の維持にもたんぱく質は欠かせない。細菌やウイルスなどから体を防御する役割を果たす抗体は、たんぱく質が原料だからだ。しかも、たんぱく質が分解されてできるアルブミンの血中値が低いと、抗体産生量が低下することもわかっている。
つまりたんぱく質は、運動したり筋肉をつけたい人のためだけのものではなく、健康でいきいきとした生活を続けたいすべての人にとって不可欠であり、こうした生きていくために必要なたんぱく質を「生活たんぱく」という。いまやたんぱく質は、従来の筋肉を維持増進するために必要なものという考え方から、人の体機能を左右する重要な栄養素であるという考え方へと変わってきている。アスリートや筋トレを行う人だけでなく、子どもから高齢者まで、すべての人にしっかり摂ってもらいたい栄養素、それが「生活たんぱく」だ。
専門家による最新情報と生活者の健康意識を知る
たんぱく質摂取不足が問題視される今、どのようにして「生活たんぱく」摂取の重要性を広く知らしめ、健康・ウェルネス業界のビジネスにつなげていくか。マーケティングや商品開発などを考えていく上で役に立つのが、ウェルネス総研による最新情報だ。
2020年8月に設立されたウェルネス総研は、ビジネスの側面から健康・ウェルネス市場の発展に貢献し、人々の健康やQOL向上をサポートしていくことをミッションとしている。独自の視点で健康・ウェルネスに関する情報の収集・集積・発信を行っており、たんぱく質に関してもさまざまな専門家と連携。「ウェルネス総研レポートonline アジェンダ特集『NOたんぱく、NOライフ!』」(https://wellnesslab-report.jp/feature/tanpaku/)というタイトルのもと、たんぱく質に関する詳細情報を提供している。
また、10代から70代までの生活者を対象に健康・ウェルネスに関する意識と行動を分析した調査レポート「ウェルネストレンド白書 2022Vol.2」も発行しており、「現場で本当に使えるデータ」との呼び声が高い。というのも、膨大な数のデータをプロファイリング分析によって、生活者を7つの健康セグメント(健康ストイック層、健康コンシャス層、コツコツ健康層、ラクして健康層、まだ大丈夫層、トレーニング大好き層、健康無関心層)に分類しているからだ。性別や年齢を切り口にした従来の分類法では、生活者の実態が埋もれてしまう場合もあり、マーケティングや商品開発の現場では通用しなくなる。そこで、「ウェルネストレンド白書」では同じような価値観をもつ人をグルーピングし、生活者のリアルな姿をあぶり出している。
2022年5月に刊行された「ウェルネストレンド白書 2022Vol.2」(https://wellness-lab.org/trend-02/)では、市場の動向をタイムリーに反映し、三大栄養素である「タンパク質」「脂質」「糖質」の志向性を深掘りしている。その調査結果によれば、図表②に示す通り、すべての健康セグメントに共通して、たんぱく質の摂取意向は高い。
たんぱく質摂取不足という社会課題に直面する一方で、たんぱく質ブームに沸く今、こうした最新情報をたんぱく質商品の開発やマーチャンダイジングに生かし、日本人の健康寿命の延伸と健康・ウェルネス市場の活性化に貢献していきたいところだ。