P&Gジャパンは革新的な製品開発と共に、世帯浸透率の向上やコミュニケーションの強化を武器にビジネスを進めている。ホームケア事業を統括する執行役員の山田智也氏(※取材当時)に、2022年下期および23年上期のエアケアカテゴリーの振り返りと今後の戦略をきいた。
市場全体の成長を牽引するための4つの施策とは?
─直近の「ファブリーズ」ブランドのビジネス環境をどのように見ていますか?
山田 「ファブリーズ」は布用のスプレータイプと、置き型を中心とした消臭芳香剤という2つのサブセグメントを有していますが、共通のテーマとして小売店様のカテゴリー売上高をどうリードできるかを重視しています。単品の売上を伸ばしシェアの拡大を図るのではなく、その先にいる小売店様の売上拡大に貢献できるよう、市場全体の売上を伸ばすことを戦略の要としているということです。
こうした考え方の下、当社は様々な施策を打ち出していますが、23年上期はその施策が上手く機能したと実感しています。
まず2022-23年事業年度の消臭芳香剤については市場全体が前年比104%、当社はさらに大きく数字を伸ばすことができました。また布用についてはコロナ禍で、消臭・除菌に対するニーズが急激に伸びた反動もあり市場全体の数字は91%と厳しい状況でしたが、23年前半は98%まで回復しています。当社は布用でもそれをさらに上回る結果を残すことができました。
当社では消費者の未充足ニーズの理解に徹底的にこだわりビジネスを進めてきました。満たされていない点を含め消費者のニーズを理解し、市場全体を伸ばすための戦略を刷新し、新たな戦略に基づいてマーケティングを仕掛ける。特に今春に発売した商品はこの戦略に基づき展開したことで、最良の結果に結びついたと捉えています。
─市場全体を伸ばすための具体的な戦略について教えてください。
山田 戦略については4つの軸がありますが、これらは「ファブリーズ」だけでなく当社すべてのブランドにいえることです。
1つ目は「イノベーション」です。ひとことで「イノベーション」というと当たり前のことのように聞こえますが、これは新しい製品を作り世に出すということだけではなく、消費者の使用理由ないしは未使用の理由を掘り下げ、未充足ニーズを満たすためのイノベーションを起こすという意味です。
特に未使用者については、今まで一度も使っていない方、一年前まで使っていたけれど使用しなくなった方など様々なタイプの方がいます。そうした未使用者のタイプを細分化し、さらに離脱した理由を掘り下げることで、未充足ニーズを認識し、それを解決するためのイノベーションを投入する。これが市場成長を加速するための戦略のカギだと思っています。
2つ目は「プレミアム化」です。トイレ用の消臭芳香剤のようなエアケア製品は購入頻度が比較的低いため、付加価値型の製品も訴求しやすいカテゴリーです。使用者の拡大に加え、単価の高い付加価値型の製品を訴求することで市場全体の数字を上げていく、これが第2の施策です。
3つ目は前述した2つの施策をもとに、その価値を消費者に伝えるための「コミュニケーション」です。テレビやデジタルでCMを大量に投入し、新規ユーザーだけでなく、離脱してしまった消費者に、使用場面を喚起するコミュニケーションを図ることで、未充足ニーズを解決する商品であることを伝達する。これが非常に重要だと考えています。
そして最後が「店頭施策」です。いくら革新的な商品を生み出し、CMでコミュニケーションを図っても店頭に製品が並んでいなければ購買につながりません。「これはCMで見た商品だ」「私の悩みを解決する商品みたいだ」といった気づきを醸成し、衣料用洗剤のようなカテゴリーと比べて生活必需品でないからこそ、店頭での衝動買いや思い出し購買を後押しする売場での提案が必要不可欠です。ここについては小売店様との協業により、より良い店頭づくりの実現に努めていきます。
速乾訴求や8週間消臭など悩みを解決するイノベーション
─具体的にヒットした商品があれば教えてください。
山田 まず今年4月に発売した「ファブリーズ 速乾ジェット」が挙げられます。布用の「ファブリーズ」はコロナ禍の除菌ニーズの高まりで一気に伸びた分、離脱者も多い状況にありました。
先ほどの戦略に基づき離脱した理由を調査してみると、従来品の布用消臭スプレーは使用すると濡れた生地がすぐに乾かないため、「ソファーにスプレーをするとすぐに座れない」「濡れていると菌が発生して嫌な匂いがしそう」といった声が挙げられました。
これらの悩みを解決するため、「ファブリーズ 速乾ジェット」はノズルを小さくすることでミストの粒子の直径を約半分にして布に浸透しやすくし、既存品と比べふとんに使用した場合約20%早く乾くようにしました。さらにノズルを改良し連続で広範囲に噴射できるようになったほか、新処方により、超微細ミストでも強力な消臭力を実現し、ソファーやマットレスなどの大きな家具もラクに消臭しながら、すぐに使えるようにしました。
こうした便益を訴求するコミュニケーションを行ったことで、同品は既存ユーザーだけでなく離脱した消費者にも刺さり爆発的なヒットとなりました。またこの製品は既存の「ファブリーズ」よりも高単価であるため小売店様にとってもメリットが大きく、良い成功事例となったと思います。
─置き型タイプについてはいかがでしょうか?
山田 2月に改良新発売した「ファブリーズW消臭 トイレ用消臭剤」も非常に好調に推移しています。こちらも離脱した理由を調査すると、「消臭力が長く続かない」といった声が多く挙げられました。
今回のリニューアルでは、効果の持続期間を約6週間から8週間と大きく伸ばしました。この「8週間持続」というクレームが消費者に響き、使用者数やリピート購入を伸ばすことができました。
消臭・抗菌力の向上+香りも改良「トイレ用消臭剤+抗菌」
─23年下期の「ファブリーズ」注目製品について教えてください。
山田 注力するのが9月に改良新発売する「ファブリーズ W消臭 トイレ用消臭剤+抗菌」です。2月に改良新発売した「ファブリーズ W消臭 トイレ用消臭剤」のベースとなる製品ですが、「ファブリーズ W消臭 トイレ用消臭剤+抗菌」は抗菌効果も付加したプレミアムセグメントの製品となります。
今回のリニューアルでは、ベースタイプ同様、消臭成分の改良と共に効果の持続期間を約6週間から8週間と大きく伸ばしました。また抗菌成分のもつ独特な香りを改善するために、全ラインナップで香りを改良し、さらにピンク色の「フルーティークラシック・ブーケの香り」を主力製品として新たに追加し、提案しています。
コミュニケーションについては、テレビCMを前期比1.2倍、デジタルは前期比1.9倍と大量投入し、タンクの後ろや換気扇まわりなど普段掃除しにくい所についた匂いを消臭+抗菌することで、トイレを清潔に保つ点を訴求します。
また、先の戦略4つ目でも挙げたように売場提案も強化します。現在、関連性が強く商品回転率も高いトイレットペーパーの横で展開する取り組みを行っています。既にグローバルで非常に良い成果をあげている施策で、この事例を水平展開し、カテゴリー全体の成長につなげていきたいと考えています。
─「ファブリーズ」は布用など、様々な商品を展開していますが、トイレ用に特に注力する理由は何でしょうか?
山田 当社では、エアケアカテゴリーの中でも特に消臭芳香剤の市場に大きな成長機会があると見ています。カテゴリーを成長させるためには「使用者数」×「使用量」×「単価」の掛け算が求められますが、過去に一度以上、消臭芳香剤を使用したことがある方が75%いる一方で、過去1年間の使用者数は35%程度となっています。つまり、40%の方が1度は使用したものの、何らかの理由で離脱したことになるのです。
当社は「40/40」というカテゴリーの成長ビジョンを小売店様と共有しています。前の「40」は、「離反してしまった40%の方を取り戻す」、後の「40」は「35%の使用者数を40%まで伸ばし世帯浸透率を上げる」といった想いが込められており、チーム全体でこの目標をやり遂げます。
その中でも、トイレというのは家の中で最も匂いが気になる場所であり、このトイレ用の成功によって、部屋用、玄関用など、置き型「ファブリーズ」全体の成長につなげていきたいと考えています。
予洗いいらずでスッキリ「ジョイ W 除菌 ジェルタブPRO」未充足ニーズに応える
─食器用洗剤の「ジョイ」ブランドについてニュースはありますか?
山田 23年下期の新製品として9月に「ジョイ W除菌 ジェルタブPRO」を発売します。日本の食洗機の普及率は37%と、欧米諸国に比べまだまだ低く、さらに稼働日数も週の1~3回程度と低いのですが、近年の新築物件は食洗機が入っていることが多いため今後の伸長が期待されます。
一方で、日本では99%の使用者が食洗器を使用する前に予洗いを行いつつも、手間と感じており、この未充足ニーズに応え、かつ市場成長にもつながると考え、今回の新製品発売に至りました。
─「ジョイ W除菌 ジェルタブPRO」の商品特長を教えて下さい。
山田 「 ジョイ W除菌 ジェルタブPRO」は、金属封鎖剤を2種配合したほか、タンパク質分解酵素とでんぷん分解酵素の両方を活性化することで洗浄力を高めました。同品を使うことで使用者の多くが手間と感じている予洗いをせずとも、しっかりと汚れを落とすことができるようになります。
─コミュニケーションや店頭展開についてはいかがですか?
山田 「 予洗いナシ!洗い上がりヨシ!」をキーメッセージとした西島秀俊さん出演の新CMを投入するほか、予洗いなしで汚れが残っていたら全額返金といったキャンペーンを実施します。また、インフルエンサーやオピニオンリーダーの方に同品を使って頂き、SNS等で情報発信して頂く「#食洗器でチャレンジジョイ」のような企画も仕掛けていきます。
店頭施策についてはCMと連動した店頭用販促物を多数用意しました。現在、食洗機用洗剤は手洗い用洗剤に比べてパイは小さいですが、今後、大きく伸びる可能性を秘めています。
また、粉末、液体、タブレットという3つの形状の中でも、タブレットは粉末や液体に比べ高価格帯なため、今後、食洗器の普及率がさらに増加していくこととあわせて、先ほどの「使用者数」×「使用量」×「単価」の公式に当てはめると同品が市場成長に貢献できると考えています。
さらに、あまり知られていないのですが、食洗機を使うと手洗いに比べ水の使用量が抑えられ、節水に繋がります。水道代が抑えられ、環境にもやさしく、食器洗いの手間も省ける。普及するまで時間はかかると思いますが食洗機ならではのメリットを、「ジョイ W除菌 ジェルタブPRO」を通じ伝えていきたいと考えています。