コロナ禍から最も早く円滑に経済を回復させた国のひとつであるベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)。年率GDP成長率は2021年が2.6%、22年が8.0%と伸長しており、23年も6.3%と高い伸びを示している。その成長性の高さから、直近ではヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)、ツルハホールディングス(北海道/鶴羽順社長)がベトナム進出を発表するなど、国内小売の新規参入の動きも見られている。にわかに注目を集めるベトナム小売市場は現在、どのような状況なのか。同国の経済事情に詳しいフロンティア・マネジメント(東京都/大西正一郎社長)の専門家に解説してもらった。
新しい商品に積極的? ベトナムの食嗜好
ベトナムの小売業がコロナ禍からいち早く立ち直ったのは、早期のリオープニング(社会経済活動の再開)に伴って若年層を中心に個人消費が回復したことが要因にある。22年の小売売上高は対前年比21.7%増の約5363兆ベトナムドン(32兆1780億円:1ベトナムドン=0.006円で換算)。コロナ禍以前の水準を上回り、過去最大の伸び率となった。
ベトナムは1986年から始まった経済再建政策「ドイモイ政策」のもと経済発展を遂げ、東南アジアで最も急速に中間層が増加している。その割合は現在の10%から、2035年までに半数を超える見込みだ。都市化も進んでおり、都市人口率は現在の36%から30年には55%に達すると予測されている。
食文化はどのような実態なのか。ベトナムでは家庭で食卓を囲むことを大切にしている。手づくりの家庭料理がいまだに食生活の中心であり、新鮮で健康的だと考えられているようだ。一方で、若年層を中心に外食も盛んだ。
ただ、フロンティア・マネジメントの21年の市場調査によると、その傾向は地域によって異なる。北部は内食を好むが、南部では外食が多い。総菜の人気も高まっており、ホーチミンやハノイといった大都市では定着しつつある。同調査では、消費者は新しい商品や味を試すことに積極的という傾向も見られている。
ベトナム料理は味のバランスや鮮度が重視され、ハーブや香辛料がよく使われる。米と麺を主食とし、とくに沿岸地域では魚介類も豊富だ。新鮮な野菜やハーブは多くの料理で不可欠な食材であり、魚醤やシュリンプペーストのような発酵食品も味を引き立たせるためによく用いられる。
最近では消費者の健康志向が強まり、より健康的なものにお金を使おうとする傾向が見られる。サステナビリティや環境への意識も高まり、エシカル商品や環境に配慮した商品にも関心が集まっている。そのほか、コロナ禍ではオンラインショッピングへのシフトが加速した。生活必需品をオンラインで購入する消費者が増えつつある。
流通チャネルに変化 SM、CVS、EC急成長
ベトナムの小売市場は、都市化や可処分所得の増加、消費者の嗜好の変化に伴って、この数十年で急速に拡大してきた。その市場規模は
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