アマゾン、ロボット100万台時代の物流新戦略 AIが導く「人間と機械協働」の現在地

小久保 重信(ニューズフロント記者)

生産性向上と変容する従業員の役割

 一連の自動化戦略は、生産性の向上をもたらしている。米「ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)」紙の分析によれば、従業員1人当たりの年間荷物処理数は、この数年で22倍以上に増加。最新鋭の設備を導入した米ルイジアナ州の拠点では、注文処理コストが25%削減できたという。

 一方で、ロボットの台頭は人間の仕事を奪うのではなく、その役割を大きく変えつつある。アマゾンは19年以降、70万人以上の従業員にロボットの操作やメンテナンス技術を習得する研修を提供してきた。かつて商品のピッキングといった反復作業に従事していた従業員が、ロボットシステムを遠隔監視する専門職へと移行し、収入を大幅に増やすといった事例も生まれている。危険な作業や身体的負担の大きい作業をロボットが代替することで、労災リスクを軽減し、より安全な労働環境を構築するねらいもある。

巨額投資を支える経営基盤と今後の展望

 アマゾンのこうした取り組みは、好業績に支えられている。同社の25年第2四半期(4~6月期)決算は10四半期連続の増収増益となり、EC事業や広告事業が力強く成長している。同四半期の設備投資額は前年同期比で83%増という巨額に達しており、その多くがAI関連需要に対応するデータセンターに向けられたものだ。

 収益の柱であるクラウド事業「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」の成長率が競合に後れを取るなど課題も見えるが、物流網への積極的なAI投資は、中核事業であるECの競争力を一層高めるための戦略的な一手と見て取れる。

 アマゾンがめざすのは、無人倉庫ではない。人間とAI、そして100万台のロボットが協働し、効率性と安全性を極限まで高める新たな物流エコシステムである。人と機械がどのように協働し、新たな価値を創出していくのか。同社の挑戦は、その未来像を提示するモデルケースとして世界から注目を集めている。

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