米アマゾン(Amazon.com)のドローン配送サービス「プライムエアー(Prime Air)」が新たな一歩を踏み出した。同社はこのほど、米連邦航空局(FAA)からリチウムイオン電池を搭載した製品の配送承認を新たに取得。これにより、米アップルのスマートフォン「iPhone」をはじめとする高付加価値商品を、注文から60分以内にドローンで届けることが可能となった。この動きは、テクノロジーを活用したラストワンマイル領域における、新たなサービスの可能性を示すものとして注目を集めている。
FAAの承認で広がる配送対象品目
米アマゾンのドローン配送サービス「プライムエアー(Prime Air)」は、これまで対象商品が限定されていたが、今回新たにリチウムイオン電池を搭載した製品の配送について、米連邦航空局(FAA)から承認を取得した。これにより、従来の航空輸送ルールでは取り扱いが難しかったiPhoneのほか、サムスンの「Galaxy」といったスマートフォン、ワイヤレスイヤホンなどの電化製品が新たに配送対象に加わった。
対象製品の拡大に伴い、プライムエアーで配送可能な商品数は6万点以上へと大幅に増加した。現在サービスが提供されているのは、アリゾナ州フェニックス都市圏の一部とテキサス州カレッジステーションの2カ所。これらの地域では、重さ5ポンド(約2.3kg)以下の対象商品を注文すると、60分以内に受け取ることが可能となっている。顧客の急な注文にも応えられる、新たな手段がECに加わったかたちだ。
オペレーションの効率化と安全性の両立
アマゾンは、配送スピードの向上だけでなく、顧客の利便性とオペレーション効率の両立にも注力している。その一例が、配送プロセスの簡略化である。
従来、一部で必要とされていた二次元バーコードの屋外設置は不要となり、顧客は初回利用時に自宅の航空写真上で安全な投下場所を指定するだけでサービスを利用できるようになった。この仕組みは、2年をかけて開発された独自のデジタルマップと、ドローン本体に搭載されたコンピューターシステムによって構築された。これにより、飛行時間を正確に算出し、顧客に対して5分単位での到着予定時刻を通知することが可能となっている。
また、安全性にも配慮している。ドローンは上空約4mから荷物を投下する際、物体認識システムにより地上の人やペット、障害物の有無を確認し、リスクを検知した場合には自動で回避行動を取る設計となっている。利便性と安全性の両立を高度な技術によって実現しようとする、アマゾンの姿勢が明確に表れている。
新型機「MK30」導入による今後の新展開
サービス基盤となる機材の進化も進んでいる。2024年後半から導入が進む新型ドローン「MK30」は、従来機より小型・軽量で、飛行音も低減されている。航続距離が延び、小雨程度の天候でも飛行可能となったことで、より安定したサービス提供が期待されている。
加えて、アマゾンは24年11月、オペレーターの目視範囲を超えて飛行する「目視外飛行(BVLOS)」の許可をFAAから取得。これにより、より広範囲な顧客へのサービス提供が可能となった。アリゾナ州では「セイムデー・デリバリー・サイト(即日配達拠点)」にドローン拠点を隣接させ、60分以内の配送を実現。カレッジステーションでは、オンライン薬局「アマゾン・ファーマシー(Amazon Pharmacy)」と連携し、処方薬のドローン配達も開始している。ドローン活用の範囲は着実に広がりを見せている。
年5億個配送へ、”空の物流網構築”をめざす
アマゾンは、ドローン配送を「顧客にとって迅速で便利なショッピング体験を提供するという、揺るぎないコミットメントの延長線上にある」と位置づけている。今後数カ月から数年をかけて、より多くの顧客へサービスを届けるべく、対象地域の拡大を進めていく方針だ。長期的には、30年までに年間5億個の荷物をドローンで配送するという目標を掲げている。
こうした一連の取り組みは、現時点では米国内の限定的な事例にとどまるが、今後の物流と小売の関係性を考えるうえで重要な動向である。テクノロジーを活用したラストワンマイル配送の進化が、顧客利便性の向上や新たなサービスの創出にどう結びついていくのか。その行方が注目されている。