アルバートソンズ買収破談で混迷する米クローガー 再成長の道筋は?
クローガーが大きな転換期を迎えている。かねて協議を続けていたアルバートソンズ(Albertsons)の買収が2024年末に破談となり、25年3月にはCEOが突然の辞任、EC事業の巨額投資の効果も見えず、課題は山積みだ。足元では、食品スーパー(SM)市場におけるシェアも縮小傾向にある同社。これらの課題をどう乗り越えようとしているのか。
EC事業が成長鈍化、巨額投資に疑問の声
2年以上協議が続いていたクローガーによるアルバートソンズ買収は、米連邦地裁が差し止めの判決を下したことを受け、24年12月に中止が発表された。混乱のさなか、25年3月にはクローガーで11年間CEOを務めたロドニー・マクマレン氏の辞任を突如表明。現在は、取締役会長のロナルド・サージェント氏が暫定的にCEOを務め、新CEOの選任が進められている。
最新の業績(24年度)も芳しい状況にあるとは言えない。同社の24年度売上高は1471億ドル(対前年度比1.9%減)と6年ぶりに減収となった。注目すべきは、重点戦略に位置づけるEC事業の伸び悩みである。プレスリリースによれば、24年度のEC売上高は130億ドルで、総売上高に占める構成比は9%。売上高自体は前年度を上回ったものの、成長率は鈍化した。

これには、英オカドグループ(OcadoGroup)と提携し、21年4月から構築を進めてきた自動フルフィルメントセンター(FC)への多額の投資が影響している。クローガーは23年9月に「自動FCの生産性向上を優先するため新規FC建設を保留」とし、24年3月に既存FC3カ所を閉鎖した。業界内では、自動FCの効率性というよりも「EC売上が期待どおりに伸びていない」ことがFC閉鎖の主因と観測されており、巨額投資に対する疑問の声が高まっている。
同社のEC売上高と成長率の推移(図表❶❷)を見ると、他社同様に一時的な急成長を見せた20年度に比べ、自動FCを稼働した21年度以降の成長率の物足りなさは明白だ。
一方で、ウォルマート(Walmart)、ターゲット(Target)などの競合企業は店舗をFCに見立て、ストアピックアップや店舗からの配送で成果を上げている。巨大な自動FCをつくっても顧客が近くにいなければ迅速に配達できず、無料ピックアップも提供できない。結局のところ、EC事業で最も効率よく売上を伸ばせるのは、他社が推進している店舗FC化戦略であるということが実証されてしまったようだ。
ECインフラ強化へ、FCの新設計画を発表
そうした中、クローガーは着々と自動FCによるECインフラ強化を進めている。25年2月、オカド社との協働のもと、自動FCの新設計画を発表。26年をめどに、ノースカロライナ州シャーロットとアリゾナ州フェニックスに自動FCを建設する。

また、冷凍食品の在庫管理を自動化するシステムも導入予定だ。そのほか、同年3月には「Eコマース事業部門」を新設し、SVP(SeniorVice President)兼CIO(最高情報責任者)だったヤエル・コセット氏をEVP(Executive Vice President)兼チーフデジタルオフィサーに任命している。今後、同氏は技術面だけでなく顧客体験、とくにオンラインオーダーの簡便性や配送スピードなどの向上にも責任を持つ。
しかし、こうしたインフラ整備によってEC事業の成長が一気に加速するとは考えにくい。その理由は、
アメリカ小売業大全2025 の新着記事
-
2025/06/12
意外にも楽観ムード漂う!? マクロ視点で読み解く米国小売市場の実像 -
2025/06/12
膨張続ける米ネットスーパー市場 商品政策からデジタル活用まで“独自化”が進行! -
2025/06/11
価格・価値の両輪で開発加速! 米国小売のPB最新事情 -
2025/06/11
コスパのコストコvsタイパのサムズクラブ 米会員制ホールセラーの最新戦略とは -
2025/06/11
米国ハードディスカウンター決戦! アルディは3000店目前、リドルはブランド再構築へ -
2025/06/10
食とビューティ強化でインフレ下で再成長 米ターゲットの経営戦略とは
この特集の一覧はこちら [11記事]

クローガーの記事ランキング
- 2025-06-09アメリカ小売業ランキングトップ10! 環境激変下での各社の業績&成長戦略とは?
- 2024-12-23クローガーが予測「25年の5大フードトレンド」、セインズベリーのアルディ対策とは
- 2019-08-23米クローガー、ウォルグリーン店内でのインショップ展開を拡大、新たに35店舗
- 2021-03-22SDGsで先行する欧米食品スーパーの現状は?ウォルマート、クローガー、テスコの事例を紹介
- 2021-04-16米クローガー、ネットスーパー専用の大型自動倉庫を稼働、今春2カ所で
- 2021-07-15第2回 米小売業のAI活用の現状
- 2022-03-17クローガーが店舗のない都市で食品ECをスタートした狙いとウォルマートの22年1月期決算
- 2023-09-06テスコ、コンビニ業態の品揃えを低価格品メーンに刷新、アリババ1Q決算は大幅な増収増益に
- 2025-02-05クローガーのアルバートソンズ買収はなぜ失敗したのか、在米ジャーナリストが解説
関連記事ランキング
- 2025-06-17愛知のローカルスーパー、ヤマナカが「高質業態」を再定義 そのねらいと成果は
- 2025-06-09アメリカ小売業ランキングトップ10! 環境激変下での各社の業績&成長戦略とは?
- 2025-06-23イオン東北初の試み盛り沢山! 「イオンスタイル八戸沼館」の注目ポイントとは
- 2025-05-28米ビューティーケア用品市場で売上全体の41%がオンラインにシフトしたワケ
- 2025-06-11コスパのコストコvsタイパのサムズクラブ 米会員制ホールセラーの最新戦略とは
- 2024-08-26アジアの最先端がここにある NRF APAC2024徹底解説プログラム!オープニング対談
- 2025-06-09EC、ディスカウンターが勇躍! 米国小売業販売額ランキングを発表&分析
- 2025-06-18若年層の取り込みに成功! イオンリテールの「住居余暇改革」の全貌
- 2025-06-09既存店好調、EC事業はついに黒字化へ…… ウォルマートの最新戦略を解説
- 2025-06-10売上高“ウォルマート超え”に現実味 BtoB事業中心に増大するアマゾン経済圏
関連キーワードの記事を探す
無人店舗が性善説で成り立つ!? 中西部に見た米国小売の“別世界”
EC、ディスカウンターが勇躍! 米国小売業販売額ランキングを発表&分析
既存店好調、EC事業はついに黒字化へ…… ウォルマートの最新戦略を解説