米スーパーマケットの売上の伸びは2024年に対前年比1.1%増と、23年に記録した3.9%の成長から大幅に鈍化したと、米国小売調査企業のコアサイト(Coresight)が発表した。一朝一夕に退治できないインフレを背景に消費者が生活防衛に走り、購入する食品の「質」よりも「価格」を重視するようになったためだという。こうした中、インフレ的な政策を掲げる第2次トランプ政権が25年1月に発足するが、米スーパーマケットチェーンは25年に勢いを回復できるだろうか。
25年も引き続き低迷が続くとの予想

24年の米国スーパーマーケット業界は、振るわないものだった。上図のように、米国の生鮮食品の売上は、23年11月の737億ドル(約11兆6155億円)から、24年11月には749億ドル(約11兆8060億円)へと、1年間で約1905億円の微増にとどまった。
全体の市場規模があまり拡大しなかった一方で、ウォルマート(Walmart)など、スケールによる安さをウリにする総合スーパー(GMS)が伸びたとコアサイトは指摘する。
同社が24年4月に消費者向けに実施したアンケート調査では、73%が「過去12カ月の間に生鮮食品をウォルマートで購入したことがある」と回答。さらに、米国の調査企業、RRドネリー(RR Donnelley)が24年10~12月期を振り返って発表した報告によれば、消費者の86%が生鮮食品の買い物について、インフレに対する不満を表明している。25年のスーパーマーケットチェーンは、顧客引き留めのため、値下げ競争にさらされる可能性が高い。
こうした中、業界は25年に大きく成長できるだろうか。いくつか予想が出されているので、紹介しよう。
スケールの体力差で明暗が分かれる1年に
AP通信の分析によれば、米国の消費者は全般的な傾向として値引きを求め、ウォルマートのようなGMSでの買い物が増加。今後は、外食を控えて自宅で食事をする日数が増えてゆくという。
こうしたトレンドを受けて、25年の米国スーパー業界の前年同期比成長率は低く、一ケタ台にとどまっておりmパンデミック前の低成長のような状況になるとコアサイトは予測する。トランプ次期政権が高関税や財政支出増大などインフレ的な政策を採用し、物価上昇が継続することが見込まれるからだ。
こうした中で懸念されるのが、規模において体力のない多くのスーパーマーケットチェーンがジリ貧状態に陥ることだ。25年には、スケールメリットによる勝ち組と負け組がさらに明瞭になりそうだ。
たとえば、最大手のクローガー(Kroger)が、246億ドル(約3兆8875億円)で同業のアルバートソンズ(Albertsons)を買収する計画が24年12月に破談となった。そこで、アルバートソンズなど相対的なスケールメリットに欠けるチェーンの収益が圧迫される可能性が語られている。
アルバートソンズは、25年に入ってすぐではないにせよ、いずれ別の買い手を見つけて株主価値を高める必要に迫らるだろうと予測する。米国スーパーマーケットチェーンのニュースサイト、グローサリーダイブ(Grocery Dive)は、業界の情報筋の話として、25年にM&Aが起こる可能性は否定できないと伝えた。また、24年を振り返り、「各社は安価かつ高品質なプレイベートブランド(PB)の品揃えを強化したが、この勢いが25年に弱まる気配はない」と指摘している
また、ある米国メディアは、このような環境下で、スーパーマーケットチェーン各社のPB戦略が加速すると予測する。
米国マーケティング企業、PDGインサイツ(PDG Insights)のダイアナ・シーハン最高経営責任者(CEO)も、「小売各社はPBにおいて特定の顧客セグメントをターゲットにした商品を開発するなど、競合との差別化を図るだろう」と予想する。
とくに、GMSのウォルマートが、若く、比較的裕福な層を念頭に開発した、植物由来の食品のラインナップが充実した「ベターグッズ(bettergoods)」が伸びたことを踏まえ、25年にはスーパーマーケットチェーンが追随するとシーハン氏は見ている。
一方で、23年は米国でのPBの売上額が6%増加し、全体で2170億ドル(約34兆円)に達したにもかかわらず、売上数量は同期間に0.9%しか伸びていなかったことから、24年、さらに25年は成長が横ばい傾向になる懸念もある。いずれにせよ、25年にナショナルブランドとの競争が激化し、PBがさらに伸びるかに注目だ。
最後に、スーパーマーケット業界の成績が振るわない中、比較的明るさが見える分野として挙げられるのが、生鮮宅配である。
米国生鮮調査企業、グローサリードッピオ(Grocery Doppio)によれば、24年7~9月期の生鮮宅配は前年同期比で3.07%増加し、全体の13%を占めた。25年には、前年比で9.7%の伸びが見込まれるという。
一般消費者が財布のひもを締める中、比較的な裕福層が生鮮宅配でより多くの消費を行っていることが示唆されており、スーパーマーケット各社はこの分野に注力してゆくことになるだろう。そうした中で、宅配代行を行う企業との連携強化や、AIを活用したイノベーションが進むとの見方もある。
米国スーパーマーケットチェーンにとって、25年は、どのような規模で、どのような影響を及ぼすのだろうか。不透明なトランプ関税を含め、引き続き収益面で圧力が強まる年になりそうだ。その中で、スケールメリットを生かし、差別化に成功し、イノベーションに取り組む企業が「勝ち組」となりそうだ。